第13話 見えない力

 朝食も終わり、俺は後片付けをするが、その子は全然手伝いには来ない。

 あの子の昨夜からの行動で、俺の中では我慢の限界が来ていた。


(夢からは覚めないと言う事は現実なんだ)

(きっとあの子は、心が壊れている子何だろう……。大事には成るが警察を呼んで、片を付けてしまうか?)

(こちらもタダでは済まないが、これ以上家に居着かれても迷惑だし、そうしよう!)


 俺は洗い物が済んだら、警察に電話をする事を決める。

 洗い物を済ませて部屋に戻ると、その子は勝手にテレビを付けて見ていた。テレビの内容からして教育テレビを見ているようだ。


(本当は文句を言いたいが、後少しの辛抱だ!)


 その子はテレビに集中している所為か俺には気付かない。

 テーブルに置いて有る、スマートフォンを持って玄関の方に向かう。


(話し声で気付かれて、逃げられても困るからな)

(あの子の両親から、しっかりと貰う物は貰ってやる!!)

(俺はあの子に危害を加える行為は、何1つして無いからな!)


 玄関付近でスマートフォンを操作して、警察に電話をするが……


「あれ? 繋がらないぞ!?」

「110と押して、電話アイコンを押すと、何故か電話アプリが落ちる!?」


 機械がバグったのだと思った俺は、スマートフォンを再起動させるが、何回やっても電話アプリが落ちて、警察には電話出来ない……


「んだっ、これ!!」

「何で昨日まで普通に使えていたのに、急に壊れる!!」

「このう○こ電話め!」


 スマートフォンを床に叩きつけたかったが、それでは本当に壊れてしまうので我慢する。


「駅前に公衆電話が有ったよな!」

「走れば、5分も有れば着くだろう!!」


 俺はそう決意して、駅に向かうために玄関から出ようとするが……


「あれ?」

「何で、ドアが開かない?」

「ロックも解除しているのに!!」


 俺の玄関ドアは、部屋出る時は押戸の筈だ。混乱して、引き戸をしているのかと思ったが、両方に押してもドアはピクリともしない……


「何がどうなっている!?」


 俺が玄関を開けようと必死に成っていると、騒動に気付いたのかその子が玄関に近付いて来て、冷静な口調でこう言ってくる。


「無駄よ……」

「絶対に開かないわ!」


「お前! 何をした!!」


 怒りの頂点に達した俺はその子に飛び掛かる。女の子だろうが、子どもだろうが、もう容赦はしない!


 しかし、その子はじっと俺を見据えていた。逃げもせず、抵抗をする雰囲気も見せずに……

 俺がその子の胸倉を掴もうとした時に……その子は、俺の頭を人差し指で『ちょん』と触って来た!

 すると、いきなり!?


「ぐぁ!!」

「あっ、頭が!!!」


 今までとは比べようが無い、急激な頭痛が俺を襲う。二日酔いの頭痛なんて非じゃない!


「痛い! 痛い!! 痛い!!!」


 俺は頭を押さえながら、声を出して玄関周りで転げ回る。

 何かで叩かれた鈍い痛みでは無く、内部から外に突き出す痛みで有る。頭が膨張して破裂しそうな感じもする!!


 その子は俺が転げ回る姿を、冷たい表情をしながらじっと見つめている。しばらくすると、その子はぼそっと言う。


「ごめんなさいは?」


 ゆっくりと低い口調でその子は言う。

 謝れば『この痛みが治まるのか!?』と思いながらも、口は勝手に言葉を発していた。


「ごめんなさい!」

「ごめんなさい!!」

「ごめんなさい!!!」


 良い大人が子どもに謝る。

 羞恥心しゅうちしんよりも痛みが治まる方が良い。恥も外見も無く俺はその子に謝った。


 その子は俺に近付き、人差し指を出して『クィッ』と腕を上に上げる。

 そうすると、先ほどまでの死ぬような痛みが、見る見る内に引いていく……


「あっ、あっ、治っていく……」


 痛みが治っていく安堵を感じつつ、俺は転がった床からその子を見上げる。

 その子は腕を組みながら、冷淡な目つきをしながら仁王立ちしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る