第6話 なぜかいる、美春
「はい。終わり!さあ、楽器片付けるから帰った、帰った。香澄(かすみ)の貴重な姿なんてそう見られるものなんて内から、帰ったら歓喜の涙を流しなさい、男子ども」
その皆さんの言葉にみんなも渋々肯いて、ぞろぞろ帰って行った。だがその顔には蜂蜜(はちみつ)色の幸せがとろっと流れ出ていた。
そして、僕も固まらずに一人で部員から出た。ちらっと東堂院さんの方を見ると東堂院さんは女子部員に何かを楽しそうに話していた。
部室から出て、とぼとぼとすっかり暗くなった渡り廊下(ろうか)の方を歩く。
今日も涼しい夜風が自分の肩にひょっこり止まる。淡く青い夜だ。
そん青の夜をふらふらとよい夢心地のまま歩いていると、廊下(ろうか)から一人の少女がどや顔でひょっこり現れた。
「………………………」
「……………………何の用だ?美春」
僕がそういったら美春はドイツの草原で歌でも歌って踊り出しそうな喜色の表情を作った。
「♪〜。別に〜。ただ、一樹が香澄(かすみ)ちゃんにメロメロになっている所を見てただけ〜♪」
そう得意げな表情を作って歌っている美春にこう言い放つ。
「帰る」
「ああー!!待って、待って!もう、そんなに急いで帰らなくても良いじゃない♡で、どうだったの?彼女を見てどう思ったの?彼女の可憐(かれん)な姿を見て心がきゅんきゅんした?もう、香澄(かすみ)は俺の物だ!誰にも渡さねえ!とおもった?詳しく聞かせてよ!」
「うざい。そんなのをお前に言う義理はない」
美春のピンク色の川下を、しかし僕は無造作に払って歩を昇降口へ進めた。そんな僕に美春も慌てて(あわてて)ついてくる。
「あ〜ん、待ってよ!そんなにつっけどんした対応取らなくてももいいでしょ?ああ、そうだな。じゃあ、香澄(かすみ)ちゃん、かわいかった?」
「……………美春より、かわいいよ」
ひまわりの花弁がちょっとしなった。
「じゃ、じゃあ、香澄(かすみ)ちゃんのどこが良いの?」
「美春にはない、心身共にきれいな所」
今度はかなりひまわりがへこんだ。それに僕はほおっておいて歩き出したら、ひまわりは慌てて(あわてて)僕の前方に行って続けて、急ぐように言った。
「じゃ、じゃあさ、私と香澄(かすみ)ちゃん、どっちが女子力が高い?」
「断然、東堂院さん」
今度は大いに萎びたひまわりは、頭を手で押さえて苦悶(くもん)の声を噴火(ふんか)した。
「しまったああああ!!!!!自分の女子力のなさに気づいたあああ!!!!」
そうやって、自分の女子力のなさに気づいた美春が落ち込みのループには待って、ゾンビ化していた。
僕はうざかったので美春をおいて、さっさとその場を離れようとする。
たったった。
しかし、全く美春はウザイな。自分はなにもないのに、勝手に恋をしているなんて作り上げて根堀り葉堀り聞き出そうとする。本気であいつはウザイ。
そんなことを考えながら僕は下駄箱で靴をはこうとしたときに、自分の周りに無音の羽虫が止まっていることに気づいた。
………………………。
僕は来た道を引き返す。そうしたら、完全に腐りきり、毒をはき続けている泥たまりがあった。
「私は私はどうせ女子力のない女よ。回りから器量が悪いと言われてるし、オタクだし、どうせ、どうせなんにもできない人よ。ええ、そんな器量の悪い女なんだわ、私なんて…………………」
完全に自虐的になっている、ラフラシアがいた。どうやらずっとここで毒を吐き告げていたらしい。
僕はそれに心の汗を掻き(かき)つつ、美春の背中を叩いていった。
「ああ、もう!女々しい!いい加減元気を出せよ!女子力なんて一つの個人の能力の資質だろ!?そんなんでその人の評価が全て決まるわけないじゃないか!元気出せよ!」
そう言って僕は美春の腕をぐいっと引っ張った。美春の大きな目が人形のような平凡な表情で僕をじっと見つめる。
「心配してくれるの?」
「ああ。するする。友人だからな、心配するし。それにもうかなり遅い時刻だし、女子一人に帰らせるわけにはいかないだろ?送っていくよ」
それに美春はクスリと透明(とうめい)な安心をこぼした。
「一樹が友人でよかった。じゃあ、送ってもらおうかな。一樹にエスコートしてもらって!」
それに僕はふんと鼻を鳴らした。
「あんまし、甘えるなよ。これは社会の常識的に送るだけで、なにもおまえに感じていないんだからな。あんまし調子に乗るなよ」
「〜♪」
だが、美春は喜色満面というように顔をニコニコして僕についてきた。全く完全に調子に乗ってるな、こいつは。
だが、こう言うのも悪くなった。銀色の月の元での中、僕達の中にメイプルの沈黙が気持ちよく満たされていった。
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