第41話 開 通
日課のように神楽は画面に映るボードを持つ人たちを
見に来ていた。
それは知らず知らずのうちに。。。と言った方が良いだろう。
気になって仕方がないのだった。
『この人たち、まだ諦めませんよ、神楽さん・・・』
監視員の言葉を受け、少し眉間に皺を寄せると
『私にはどうすることもできない』
と静かに言った。
『お言葉ですが・・・この原因はゼウスが作ったわけですし、
この人たちは被害者ですよね・・・俺個人としての気持ちは、
連絡取って救いたいです・・・神楽さん。
もう第二段階目で電気も止めたんですよ・・・
次はガスですから食べ物の調理も出来なくなります、
冷たい食事しかできないんすよ・・・
なのに俺たちは出来立ての料理を・・・美味しい料理を・・・
こんな追い詰め方って・・・俺は辛いです・・・。』
神楽にしっかり意見をぶつけるこの監視員はシンゴ・K・コヤス。
シンゴはもともと特務の防衛部隊に所属しており、
ロキと共に前線で戦った事もある男。
体格がよく、凛々しい眉毛とサイドを激しく刈り上げた髪型、
ゼウス格闘技の祭典『Z-1WORLD GP準優勝』
『ゼウス空手道選手権大会4度優勝』
『全世界空手道選手権大会ゼウス代表』そしてアクション映画
『スーパー・ハイキック・ガール』にも出演。
面倒くさがりだがやるときゃやる、頼れる兄貴的存在。
必殺技は片手を床に付けて、横回転で逆立ちするかのように
弧を描いた足で後頭部を狙う『シンゴ・キック』
だが大統領の一存で防衛部隊が活動縮小となった今、
全く似合わないデスクワークへついているのだった。
デスクもネクタイも窮屈だったが、耐えるしかなく、
やることをしっかりやる・・・しかなかった一人だ。
『そうだな・・・人のやる事ではないな・・・
シンゴ!よく言った』
『は!ロキ上官!・・・』
『お前がそういう目をするときは答えが決まってる時だ神楽、
どうした・・・何をどうしたいのだ、話してみろ。
シンゴ!ここ、頼むぞ、少し外す。』
『はっ!』
プシュー・・・ッ
別室で神楽は全てを上官に話した。
『なるほど、氷の女王スースーミントちゃんか、はっはっは』
『笑い事では・・・』
『すまんすまん、部下たちに女王様とニックネームを
付けられているお前が、氷の女王を気にするってのがさ、
なんだかアニメみてぇだなって思ってよ。』
『そんな・・・』
『やれよ・・・コンタクト取ってみろよ、スースーミントちゃんと。
責任は俺がとる、なぁに・・・俺も潮時じゃねぇかと思っててな。
こんな地獄みてぇな状況・・・救うのがもともと俺たちの仕事だろ、
壊れるのを、滅ぶのを安全な場所で見届けるのが仕事じゃねぇよ。
コンタクト取れ、お前に何かを伝えたいんだ、
そして俺に言え、面白れぇ話なら乗ってやるからよ』
『そんな事したら上官が・・・』
『ばーか、市民を救ってこその特務だろ、
こんな立場喜んで捨ててやるよ』
『はい!上官!』
喜んで飛び跳ねるように神楽が部屋を後にした。
『喜んじゃって・・・・みんな歯がゆいに違いないんだ、
いい機会かもしれん・・・・』
ロキはゆっくりと神楽の後に続いた。
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『氷の女王 スースーミントちゃん』
ボード持ってカメラを見つめる如月に何かが聴こえた。
『氷の女王 スースーミントちゃん、神楽よ、
あなたが今立ってる右の壁、開けるからヘッドレスト付けて。』
監視カメラから指示が聴こえたのだ。
唐突過ぎるアクセスにアタフタしてしまった如月だが、
間違いなくボードへの返信だと気づき、指示に従って、
何もなかった壁から突き出たBOXへ駆け寄った。
緑色に光ったボタンを押すとシュポ!と言う音がなり、
蓋が開いた、中にはヘッドホンの型で先にマイクがついたアレが
入っていた。如月は早速装着してみた。
ゼウスには緊急用にこういう設備があちこちにあるようだ。
『ヘッドレスト・・・だっけ?こういうの憧れる』
『聴こえるわね?ミントちゃん、あなたの頑張りに負けたわ、
ただ大っぴらにはまだできないから、これで話して。
なに?何が目的ですの?』
『よかった神楽さん、あの時は脅してごめんなさい。
私たち、ゾンキーを集めて吹き飛ばす力を持ってるって言ったら
信じてもらえる?信じるよね?』
『ゾンキー?感染者の事かしら・・・吹き飛ばすって?
爆弾でも持ってるって事?何?
ミントちゃん、もう少し詳しく話してもらってよくって?』
『私の友達が特殊な声を出せるんだけど、その声を浴びせると、
ゾンキーの目玉が吹き飛んで活動が停止するのよ、殺せるの。
だからライヴをやってスタジアムにゾンキーを集めて、
一気に倒せるだけ倒そうと言うのが作戦なの。』
『声・・・そういえば感染者の脳幹を破壊するほかに、
寄生した宿主を死滅させる方法が1つだけあると聞いたことがある。
じゃぁそれが【声】って事なのかしら・・・』
如月は死者の書を取り出して読み上げた。
『超音波による大気の振動が、寄生した菌を暴走させ、
死滅に追い込む、それは機械では出せない周波数らしく、
開発が進んでいない・・・だったわね。』
『で?どうしたらいいんだ』
もう一つヘッドレストを差し込んで
会話を聞いていたロキが割り込んだ。
『じょ、上官!』
『はぁ?あんた誰よ、神楽さんだしてよ、あんたと話してない』
『気の強い女王様だな、俺は神楽の上司でロキと言う、
割り込んですまなかった、どうか聞いてほしい。
神楽から話を聞いてな、私が接触の許可を出したのだ。
少し話がしたい、代わりに協力できることはする、どうだ?』
『神楽さん、こいつ信用していいの?』
『大丈夫、この人は大丈夫』
『あぁ、ラブなのね、オッケー。』
『そうなのか?俺にラブなのか?神楽』
『やめてください』
神楽はその頬を赤らめ、とんがり眼鏡をクイッと上げた。
如月はロキに声の持つ力について細かく説明をした。
途中、羽鐘に代わり、経緯を説明した。
繋がったことを知り、4人がBOXのある壁の前に集まった。
『なるほどね、いいかな、4人の勇姿を見たい。
緑のボタンの隣、三角が上向いたボタンを押してくれ』
『えと・・・さんかくさんかく・・・』
ポチ・・・ボタンを押すと薄い板がせり上がってきた。
180度くるりと回転すると、そこに映像が映し出された。
『あ、写った!ロキさん!っておっさんじゃん!』
『でも渋いっすね』
『片目がないのがお約束っぽくて申し訳ございません。』
『かぁー・・・さすが女子高生は言いたいこと言うね!
・・・・・あれ?・・・そこにいるご老人は・・・』
『誰が老人じゃ!ロキ!貴様がそこに居て何やっとる!
なんじゃこのざまぁコリャ!!』
『うわぁ!虎徹さん!すみませんすみませんすみません!』
『虎徹・・・具合はいいの?てかどゆことっすか?』
『ワシの元部下じゃよ、あのロキって無鉄砲者は』
『無鉄砲?冷静沈着なロキ上官が?』
今度は神楽が興味津々で割って入る。
『ふむ、ロキはどうせいい事言ってばかりで、
昔の事は隠しておるのじゃろう、ほっほっほ。
少し話してやろう、お主の上官の事をな。
ワシの部隊はその昔・・・まだこの街がゼウスになる前の
名の無い街でな、当時の統率者がこの街を
なんとか人の住める場所にしようとしていた時じゃ、
ワシとロキとシンゴもおったな、あと数人。
名の無い街の無法者が組織化しておってな・・・
その討伐に向かったんじゃ。
情報よりはるかに無法者が多くてな、
ワシらはもう逃げるしかなかったんじゃ、勝ち目はなかった。
次々と仲間が倒れ、ワシ、ロキ、シンゴの3人だけとなった。
退けと言うワシの命令を聞かず、ロキが熱くなりおってな、
一人で敵陣に突っ込みやがったんじゃ・・・・』
『うへー、迷惑なおっさんっすね!』
『じゃろ?はははは
ワシとシンゴは追うしかなかろうよ、放っておけんからな。
なんとか見つけた時はご覧の通りじゃ、目を失っておってな、
それでも刀振り回してたよ、ブンブンと音を立ててな。
2・・・30人はおったかのう・・・
ワシが一人で相手にしている間に、シンゴにロキを抱えさせて
逃がしたんじゃ・・・シンゴは黙って付いて来て、黙って戦い、
黙ってロキを助けるために抱えて走ってくれたよ。
シンゴのお陰じゃからな!お前が生きてるのは!小僧!』
『す・・・すみません・・・』
こっそり聴いていたシンゴが小刻みに肩を震わせた。
『そう言う虎徹さんを連れ帰ったのも俺ですけどね』
『シンゴ!それを言うでない!』
シンゴはあははと声をあげて笑った。
『で?虎徹さんは全員ぶった斬ったの?ねぇ、斬ったよね?』
如月が目をキラキラさせてワクワクをムンムンさせている。
『あぁ、全員ぶった斬ってやったわ、でも目が覚めたら
病院のベッドでな、よく覚えとらんのだが・・・
いつの間にか両足が義足になっとたわい。
シンゴが運んでくれなければ脚だけでは済まなかったかもな。』
『え?』『え?』『え?』
『虎徹さん、本当に申し訳ありませんでした・・・・
私のせいで・・・』
『ええんじゃええんじゃ、こうして今笑い話になっとる、
それで十分じゃないか、ワシの唯一の武勇伝じゃ、のう』
『は・・・はぁ・・・』
申し訳なさいっぱいの返事を返すのがやっとのロキだった。
『無鉄砲だけど信用できるおっさんって事だね』
如月は、そう言うと本題に入った。
ライヴを行うにあたり、電力が必要だと言う事を伝えると、
ロキは承諾してくれた。
その後、虎徹にこっぴどく説教されたロキは、
なんとかしてこの状況、この非人道的策略を止めるよう、
大統領へ話すことを約束した。
『いいかロキ!ゴミのように人の命を犠牲にして立ち上がる国に
心などないぞ!自分で動け!自分の心で動け!こいつらを見ろ!』
『はい!』
虎徹に言われた一言がロキの心に突き刺さる。
こんな状況でも笑って生きてる女子高生3人の姿を目の当たりにした。
絶望で打ちひしがれている人間が殆どであり、その姿を生配信し、
他国に恐怖を植え付け、チカラを見せつけていたゼウスシティ。
しかし、この4人は屈服などしていない・・・
むしろ戦いを挑むつもりと聞いてロキは昔を思い出す。
虎徹が話していた時の事を・・・・。
良い街にしようと必死だったはず、皆が笑って暮らせる街にしたかった、
だから突っ込んだし無茶もした・・・なのに今はなんだ・・・
今の自分はなんだ・・・
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』
大きな声で叫び声を上げると、
たくさんある監視モニターの1つを蹴落とし、踏みつけ、ボロボロにした。
肩で息をするロキ。
『シンゴ・・・・・やるか?』
『待ってましたよこの時を・・・一緒にやろうぜロキ
このデスクは俺には狭すぎんぜ。』
『あぁ、シンゴ、虎徹さんの顔見て思い出したぜ。
まずは大統領に話をしに行ってくる。答えがどうであろうと、
あの女子高生を我々は全力で援護する!いいな!』
『おうよ!』
『私もいいですか・・・』
『当り前だ神楽、でもそのスーツはダメだ、戦闘服に着替えておけ』
『はい!』
『皆聞いてくれ!詳しい事はまだわからないが、
3人の女子高生が今、ゼウスの希望だ。
我々3人はその希望の炎を消さないために、全力で援護することにする。
目が覚めたんだ、都合のいい話だが、私は街を救いたい。
強制はしないし、責めもしない・・・恥を忍んで言う・・・
我々に賛同できるものは手を貸してほしい。』
この時点で反逆者確定だが、そんな事は一切構わず、
監視ROOMに居る他のスタッフ5名にロキが言い放った。
『僕は・・・戦います!ロキさんと共に!』
スマートマッチョで真ん中分けのロン毛、無精ひげまで生やした、
プロトタイプ・テスターアンドロイド C-RABBIT(シー・ラビット)
Crazy-Real-Android-Bio-Blake-Intelligence-Tester
(クレイジー・リアル・アンドロイド・バイオ・ブレイク・インテリジェンス・テスター)
狂気じみた無制限に学び続けるAIを閉じ込めた、人間と見分けがつかない人造人間と言う意味を持つ名前、通称ラビットが立ち上がって応えた。
こういう時は善悪の判断を即座に出来るマシンの方が
決断が早いのだろうか、その見た目は人間と
全く区別がつかないのだが。
『責めないぞ!他にはいるか?』
ロキの問いかけに、残り4名は目を逸らした。
もしかしたらそれが正しい答えなのかもしれない。
しかし、マシンが名乗り出てくれたのは内心心強かった。
あらゆる操作に関して人間の数万倍は早いからだ。
では人間は必要ないのでは?
いや、マシンに出来ないことが1つある。
それは『意思による判断』だった。
AIが進歩し、進化しようとも、状況を認識して、自分の意思で
判断すると言う行動は、まだ人間のものだったのである。
しかし、この反逆に名乗り出たラビットは、
既に自分の意思を持っているのかもしれない。
『よし!わかった、4人はそのまま作業を続けてくれ、
何を聞かれても、ロキが勝手にやったと言うんだ、わかったな。』
そう言うと、ロキは大統領へと歩を進めた。
シンゴはラビットに指示をだし、スタジアムの電源を入れさせた。
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