第32話 大掃除

警備室で4人がコーヒーを飲み、無言な時間が流れた。再会して喜んだはずなのに、いざ落ち着いてみると、何だか話ずらかったのだ。



パイロンが口を開いた。


『スティールちゃん、よく無事でしたね』


『はい、色々あったけど割と早くに虎徹と出会って、

めっちゃ助けてもらったの・・・・あ、紹介するね、

公民館の管理者の【長曽禰 虎徹(ながそね こてつ)

知らない?公民館の・・・』


『虎徹と呼んで下され、若い娘に引っ張られてここまでこれた、

若いって心底素晴らしいもんじゃな、力がみなぎっておるよ、

生きるエネルギーに満ちておるな、うんうん』


『あ!見たことある!虎徹さんって公民館で催し物あるとき、

列を乱すと怒るジジィ!』


『睦月!』


『あ、ごめ・・・』


『はっはっは、ええんじゃええんじゃ、はっはっは』


『虎徹ね、女子高生2人に会えるって言ったら喜んで

ついてきたんだよ!あはははは』


『やめんか羽鐘、本当の事をサラッと言うんじゃない』


『あ、長曽禰 虎徹って・・・日本刀の名前ですよね』


如月の問いかけに虎徹の顔が厳しくなった。

『よく知っておるの、えと・・・・』

『如月です』

『如月よ、刀に詳しいのかい?』


『ええ、父が如月流活殺術の正式継承者なんです、

如月流活殺術は構えはあるけど臨機応変が主なんです。

で・・・カタ・・・』


『おお!あの如月流が!』


『え?有名なんですか?父にはよく名乗ってはいけないと

言われていたのですが・・・で・・・カタ・・・』


『そりゃそうじゃよ、その昔は活殺術ではなく、

如月流暗殺術だったのだからな。

殺しのプロじゃよ、お前は習ったのか?』


『ええ、それだけじゃ足りないから八極拳とか、

心意六合拳とかテコンドーとか・・・で・・・カタ・・・』


『人体破壊と、治し方を徹底的に教わったじゃろ?』


『はい、私はめっちゃ退屈でしたけどね、で・・・カタ・・・』


『父上の職業は?』


『整体師やってますで・・・カタ・・・ナ・・・』


『ほうか、ええのう、うんうん』


『世界中の武器の使い方なんかも教わりましたよ

それでカタナ・・・』


『それで日本刀に詳しいんじゃな』


『はい、棒術、抜刀術、トンファー、ヌンチャク、槍、

なんでもやったんで』


『はっ!こりゃ勇ましい姉ちゃんじゃわい!あははは』


『だから睦月強いんだね!』


『如月さんすげーっす!』


『いやぁ、ちっちゃい頃病気してさ、だから強くなりたかったの、

強くって言うか・・・丈夫かな』


『今の睦月は丈夫じゃなくて、やんちゃだけどね』


『うっさいよ』


『ところで外のゾンキーだっけ?

あやつらほっとくと腐ってくるぞ、長居するかは知らんが、

あれだけの数が腐ったら臭いがひどいじゃろ。』


もっともな虎徹の意見だった。

4人は会議の結果、

スタジアムにゾンキーの死体を集めて燃やすことにした。

館内を探すと思った通り掃除用の長靴やゴムのエプロン、

ゴム手袋がたくさんあったので

着替えてゾンキーを運び出すことにした。


虎徹が頭を持ち、羽鐘が足を持って大きな台車に乗せる。

如月が頭を持ち、パイロンが足を持って大きな台車に乗せる。

如月は『ドーン・オブ・ザ・デッド』であったなー

こんなシーン!

と思い、心底ワクワクしたが言葉にはしなかった。

流石にそんな話ができる状況ではなく、

観る人が観れば凄まじい現場だ。

喜んでいるのは自分だけ…

そんな空気はちゃんと感じていたからである。


すっかり夜になってしまい、

なんとかかんとか事態の収拾が付いた。

まだ持っていたジッポライターのオイルを

パイロンが山積みのゾンキーの

下に敷き詰めた布や紙に染み込ませた。

カーテンを引き裂いたりしてかき集めた布が

みるみるオイルを吸って、色の濃さを増していく。

もの凄いゾンキーの数なので、

燃え盛ってしまったら凄い熱だろう、

そう思い、火をつけて4人はその場を去って

スタジアムの上に移動した。


どんどん火が強くなり、星の輝く夜空に

赤い火の粉がキラキラと舞い上がった。


『本来ならここで野球やらサッカーやらを観戦するのに、

まさか死体を燃やした炎を見るとはのぅ』


『感染者が燃えるのを観戦』


パイロンのダジェレに突っ込む者はおらず、

2つ咳ばらいをしてパイロンはやり過ごした。


『この炎の明るさでヤツらが集まらなければええがのう』


流石大人の意見は的を得ていると感じた如月だが、

ゾンビマニアとしては黙っていられなかった。

『虎徹さん、まずは音なのよあいつら。

炎の明るさに気を引かれる奴は居るかもしれないけれど、

ほぼほぼ寄ってこないと思います。』


『そうかそうか、詳しいのう』

虎徹は感心しながら頷くふりをして如月の胸をガン見。

首の振りが大きくなり、スカートの中を覗こうとして

如月に顔面を蹴られた。


『虎徹、鼻血でてるっすよ』

何も知らない羽鐘が側に来て、如月の横に安座した。

羽鐘のパンツをのぞき見しようとした虎徹は羽鐘に横っ面を蹴られた。


『如月さん、ご両親は・・・』


『行方不明』


『そ・・・そうなんですか・・・

あの・・・パイロンさんの・・・・』


『死んでたって』


『え?あ・・・』


それ以上訪ねてはいけないと言う目をしてゾンキーの山が焼ける炎を見つめる如月、その白髪はオレンジ色に輝き、まるでバリアーを纏っているようだった。それでも羽鐘には話したいことがあった。


『如月さん、私もあのあと・・・』


『うん・・・辛かったね・・・』


遠くを見つめ、全てを察していた如月の一言に、堪えていたものが

一気に爆発したかのように声を上げて泣き出した羽鐘。

たくさんたくさん泣いたはずなのに、また2人に会えたことが

感情を高ぶらせ、また泣いた。

スタジアムの二階、どんなに大声で泣いたって、

外までは聞こえやしない・・・・。

いあ、聞こえたってかまわない、今は泣くべきだ、泣かなくてはならない。

如月はそう感じ、だまって羽鐘の肩を抱き寄せた。


パイロンも羽鐘の鳴き声に感情が揺さぶられてしまい、

スタジアムのベンチに泣き崩れた。

両親の死、クマさんの死、諦めかけた時に如月に救われた事や、

必死でスタジアムで戦った事・・・・

一気に心の中をグルグルと駆け巡り、まるで体の中から掻きむしられるような思いだった、心が痛いと言うその感覚はどんどん大きくなり、耳がゾクゾクして目頭が熱くなった。その熱が沸騰させたかのように熱い熱い涙が次々と流れ出るのだった。哀しいとか嬉しいとか悔しいとか、そんな単純な言葉では表現できない。感情がコントロールできなくなり、心が高鳴っているのにそれは感動ではなく、苦しいのに辛いわけではない、本当にただただ理解できない涙がとめどもなく溢れる。


『お前は泣かないのか如月』


『泣いてるよ、心の中で。』


『わしもじゃ・・・』


ガッ!


如月の太ももで寝ようとした虎徹が殴られ、

目を覚ますのは翌朝となるのだった。

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