第18話 会いたいが故

ドパーン!


パァン!


集中までの時間短縮も出来るようになり、

ゾンキーを破壊できるデスボイスのキー調整も

身についてきた羽鐘。


『拡声器があれば、一気に吹き飛ばせたりして』


そう考え付くと、まずはイベントなどを開催する

小さな公民館を目指した。

よく拡声器を持ったおじさんが『整理券を配ります!』

なんてしゃべっていたのを思い出したからだ。


拡声器を個人で所持しているとは考えにくい、きっと公民館の倉庫に

あるんじゃないかと思いつく。


『我ながら冴えてるぅ~』


そう呟くと羽鐘はあの時如月にもらった小型のハンマーを握りしめ、

リュックにありったけのお菓子、カッターやスパナ等、

使えそうなものを押し込んで公民館へ向かう事にした。


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『結構遠いなぁ・・・』


強い日差しを浴びながらパイロンがボソっと言った。

ところどころで火事が発生し、爆発もあったので、

ゾンキー以外にも気を付けて移動しなくてはならなかった。


『睦月・・・両親に会えたかな・・・』

そう口に出すとパイロンの心にまた寂しさがこみあげてきた。

泣きそうになる気持ちをごまかすように、小さな声で歌った。


Well c'mon everybody and let's get together tonight

I got some money in my jeans

And I'm really gonna spend it right

Well I've been doin' my homework all week long

Now to have some fifty and my folk are gone

Ooh! C'mon everybody


Well, my baby's number one

But I'm gonna dance with three or four

And the house will be shakin' from the bare feet

A-stampin' on the floor


Well when you here the music and you can't still

If your brother won't rock then your sister will

Ooh! C'mon everybody…


※SEX PISTOLS / C'mon Everybody


不思議と気持ちが楽になった。

歌の持つ力って凄いものである。




ゴーゴンスタジアムはゼウスシティのほぼど真ん中に位置し、

大型のライヴなどで非常に盛り上がる大きな会場。

直径188m楕円形で高さは約48m、

約5万人を収容できるスタジアムで、その設計は

ローマ帝政期に造られた円形闘技場コロッセオを元にされている。

しかしコロッセオの円形闘技場に入るアーチは全周で80箇所あるが、

それは再現されておらず、あくまでも近代的構造でありながら、

コロッセオを思わせるスタジアムなのである。

スタジアムが真っ二つに割れて、ロボットが出撃する・・・

そんな噂が出たことがあるが、恐らくそれはないだろう。公園が2つに割れて・・・いやいや、もともと公園にあるオブジェのようなロボットの顔が実は国防省の開発した戦闘用・・・うむ、恐らくこれもないだろう。


地下鉄や電車を利用すれば早いのだが、

このパニックでは走ってはいまい。

しかも地下となれば逃げ道は限定されてしまうので危険だ。付け加えるなら陥ってはイケないゾンビあるあるの1つ『挟み撃ち』になり兼ねない。

パイロンは自然に、一番安全だろう手段の徒歩を選んだのだった。

これも如月の知識が彼女を感化したのだろうか、

だとすれば如月もちょっとした宿主と言えるかもしれない。


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『ここっすね』


幼少の頃からよく来ていた羽鐘には、公民館はなつかしさすらあった。

お祭りでのカラオケ大会にも良く出ていたのだ。

壊れた大きな窓から内部へ足を踏み入れる羽鐘。


『入るっすよ~・・・・』


割れたガラスを踏むとバキバキと音を立てた。


『これはもう立派な廃墟じゃん・・・』

廊下を進み、お通夜で親族が雑魚寝するために借りたり、開発の人間と街の人たちが議論を交わしたり、ご近所集まってのカラオケ大会や数々のイベントを行うために使われる、割と馴染のある中央の大きな部屋を横切る。いつもは畳のいい匂いがするのに、今日は何も感じない、何かに集中していると臭いすら脳がシャットアウトするのだろう。


『靴のまま人の家歩くのって、なんだか気持ち悪いけど気持ちいいっすな・・・あ、ここ家じゃないけど』


突き当りの扉にとても分かりやすく、コピー用紙に書いてからどれだけの月日が流れたのか、その紙はくすみと黄ばみでラクダ色になっており、何度も線を重ねて書かれたその文字は、細めのマジックしかなかったと見て取れる。そんな『倉庫』と書いた案内が貼られていた。


『完全に、明らかに、間違いなくここじゃん・・・』


引き戸の取っ手に手をかけて、静かに左方向へ開ける…

その瞬間に中からゾンキーが飛び出してきた。

とっさに左腕を上げるとゾンキーが嚙みついた!

間一髪、腕に巻いていた雑誌プロテクターがこんなに効果があるとは思わなかったが助かった。ここでゾンキーが噛みつくスピードの意外な速さを身をもって経験した羽鐘は、そのまま思い切りゾンキーの胸の下あたりに右足の裏をあてがい、グッと押し込んで押せるか否かを一瞬で判断。

勢いよく前に、押す前蹴りのようにグイッと突き飛ばすと、勢いでゾンキーが開きかけの扉にぶつかり、そのまま倒れて入口が全開になった。

中にはまだ2体のゾンキーが見えた、合計3体。


『くそっ!!!まだ居たのか!』


いったん下がろうとした時、後ろからも2体のゾンキーが

のそのそと上がってきていた。物音に引き寄せられたのだろう。


『うへぇやべぇ』


くしくもパイロンが恐れて警戒した挟み撃ちにあってしまった羽鐘。


しかし、こんなところで死ねないと

羽鐘は奥歯を割れるほどの力でグッと噛みしめ、

正面からのゾンキーの頭にハンマーを振り下ろす。

しかし頭の皮がズルリと向けて直撃を避けたゾンキー。


『うお!ハゲを超えた!ハゲの向こう側!』


そのままゾンキーの手が伸びてきたので肩で体当たりをし、

押しのけたが先ほどの頭の皮を踏んで滑り、体勢を崩した。


『トトト・・・』


壁に手を付くと、後ろから伸びる手が羽鐘の腕を掴む。

羽鐘は左手で拳を強く握り、掴みかかったゾンキーの眼球をとっさに一発目で右、二発目で左を殴り、潰した。


掴まれた手が解放され、フラフラとよろめくゾンキー、流石に目を潰されては見えないらしく、羽鐘は冷静にバックハンドでハンマーを振り、狙い通りの起動を描いた。


ベコン!!!!


体育館に2、3個は必ずと言って良い程にある空気の抜けたバスケットボールを殴ったような音がした。こめかみが粘土のように凹み、顔が激しくひしゃげた。口を3回ほどパクパクさてながら倒れた。


1体倒すことには成功したが残り4体でこの狭さは苦しい。

喧嘩の基本は狭いところに誘い込んで1人づつなんて

聞いたことあるけれど、喧嘩すら生ぬるいと言えるこの状況。

挟まれた状態は何とかしたい羽鐘は後ろの一体の服を掴み、

倉庫の奥へと振り回すように押し込んだ。


『うぉらぁあああ』


ボーリングのピンのようにバラバラと倒れるゾンキー。


残る目の前の一体の頭に思いっきりハンマーを打ちこんで、

何とかこの状況を打開!

一か所にゾンキーを集める事に成功した羽鐘はここで

デスボイスをぶっ放す!


すーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!


『うぜぇんだぼおおおおおおおおおおおおおおお』


ビクビクと痙攣し、倉庫に押し込まれたゾンキー全員の

眼球が破裂し、動きが止まった・・・・。

『はぁはぁ・・・私だってやればできるんだ・・・

ざまぁみろこの野郎!!!!』

倒れたゾンキー達の前でラオウのように拳を突き上げて、

仁王立ちした羽鐘。


『我が人生にーーー!!!・・・・なんだっけ・・・。』


『でも危なかった・・・少し舐めてた気がするなぁ・・・

気を付けなきゃ、後ろから来てたのも気づかなかったし…

ふぅ・・・・』


パン!パン!


顔を2度両手で張り気を引き締める。


『どんな時も常に冷静に対処する如月さん、やっぱスゲェんだな…』


羽鐘は拡声器を手に入れた。


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集まって何をする?その先どうする?

答えなんか最初からなかった。


ただ、信じた仲間と会わなくてはいけなかった。

3人で会う約束をした。

それは3人でそれまで生き延びる約束をしたと言うこと。

少なくとも如月はそう思っていた。


それぞれが家族に会いに行った。

それなのに、その後会いたいと言ってくれた仲間がいる。

家族を守れと言ったのにも関わらず、また会いたいと、

また会おうと言ってくれた仲間。

その仲間に会うまで死ねない、会ってまた笑うんだ。

絶対笑ってやる。


そんな思いが如月の心の中を埋め尽くしていた。


そしてその思いを遥かに上回る憎悪!

シェルビーの仇


『ぜってぇー死ねねぇ!』


如月は走り出した。

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