第16話 真実
森の中のシイタケ小屋の屋根の上で目覚めた如月。
ゆっくり静かに起きて周囲を確認した。
『うん、いない・・・』
大きく深呼吸したけれど、シイタケの臭いはしなかった。『そうか、あれは焼いたりするから香りが出るのか・・・』と、ちょっと大きめの独り言を言ってみた。
梯子を下りて、使えるものが無いか小屋の周囲を回る。
『わぁ!』
猟銃を使い、自分で頭を吹き飛ばしたであろう死体があった。
『暗くて気づかなかったな・・・』
銃を手にすると、死体のポケットを探る。
『ないか・・・無いよね』
残念ながら弾はなかったので、銃は諦めたのだが、
如月は注意深く死体を観察すると1つ発見をした。
『死体に・・・キノコ生えてる・・・
は!!!!まさかゾンビ・ファンガスなの???いあ・・・
まさかね。。。あれが寄生するのは蟻だし確か…』
如月はキョロキョロと周囲を見渡し、安全を確認するともう一度死体に生えたキノコを確認した・・・・
『でも似てるなぁゾンビ・ファンガスに・・・。』
『あ、そうだ』
そう言うとカメラだけは使えるスマホを取り出して、
そのキノコの写真を撮った。如月の、ゾンビと名のつくモノへの知識の豊富さは、ゾンビ大学なんかあったとすれば間違いなく教授になれるだろう。
『よし!』
如月は森を抜けて学校へ向かった。
如月から見て右手斜め後ろ方向に煙が見えた。
恐らく先日、パイロンが爆破した車から引火した炎が
燃え広がっているのだろう。
『うへ!放火魔じゃんアイツ・・・重罪だな』
そんなことを思いながら、距離的にはもうすぐだなと、
煙で判断して歩を進めた。
少し先にゼウスマートが見えた。
『ここにもあったんだ・・・
てか改めて街を歩いてみるとゼウスマート多すぎ』
通り過ぎようとした時、音もなくシャッターが下りてくるのが
目に入った・・・『人?人がいるのかな?』
店に駆け寄るとチラッとだが、確かに女性が見えた。
シャッターが下り切る前に店内に入り込み、
如月に気が付いて逃げる女性を追った。
コッコッコッコッコッコッコッコッコッコッ・・・
タタタタタタ・・・
ヒールと運動靴のかかとを鳴らす音が共鳴する。
スタッフルームに入ると、床からせり上がってきたであろう
近未来的入口に飛び乗ろうとしていた女性を発見。
『待って!!!!!』
如月は思い切り飛びつき2人ともゴロゴロと転がり、
壁にぶつかった。
即マウントポジションを取った如月が女性に質問する。
『何してるの?この入口はなに?』
『子供には関係なくってよ!おどきなさい!』
如月は下から殴ろうとする女の手を掴み、
持っていた鉄の棒で喉を押した。
『言いなさい、このまま頭突きで眼鏡ごと眉間割るわよ』
『言っても無駄よ、あなたには理解できなくてよ』
押し付ける力を強めて『い・い・な・さ・い』と迫る如月。
睨み付けながら『眼鏡割るよ!』と一言。
やたらと眼鏡に拘る如月、漫画で眼鏡を落として『めがね・・めがね・・』と探すキャラクターを見て、眼鏡をした人は眼鏡が弱点と思い込んでいる部分があるのだった。
『わ・・・わかった・・・ぼ・・・棒をどかしたら答えるわ・・』
『嘘は嫌いよ』
『私はゼウス特務機関の人間よ、嘘は言わなくてよ』
『そういう人程嘘まみれってパターン多いけどね、
いいわ、逃げたら眼鏡割るからね』
軽く脅しつつ如月は特務機関と言う女性の上から降りた。
『氷みたいな子ね・・・
私はゼウス特務機関の神楽 雅(かぐら みやび)』
そう答えた。
神楽はスラリと延びた長い脚が特徴的な身長175cmほどの黒髪姫カット。
昭和の教育ママを思わせる角が尖って吊り上がった黒縁眼鏡に、
切れ長の目、ダーク系の赤を唇に塗る、見た目30歳程の女性、
パツパツの無駄に短いタイトスカートに胸元の開いたブラウス。
真っ黒で針のようなピンヒール姿はいささか『女王様』だった。
ナイスバディの挑発的すぎる特務機関。
『何をしていたか?あの入口はなにか?だったかしら』
『そうよ、早くして、眼鏡割るわよ』
『あなたが誰に言っても誰も信じないと思うから教えてあげるわ、
ゼウスマートは危機管理センターのようなもので、
表向きは会社だけれど、実はゼウスの上層部の人間を守るための施設なの』
『それで?』
『わかりやすく言えばゼウスが危機的状況に陥った時、
レベル評価され、3からは自動的にゼウスマートのシャッターが下りる。
ついさっき、シャッターが下りたのはレベル3を超えたと言う事。』
『それで?』
『約200m毎、つまり1ブロックに1件ゼウスマートがあるのはそのため。
自家発電式なのは食料を日持ちさせるため。要するに食料保存庫ってわけ、
ちなみにこのシャッターはミサイルでも壊れないし、建物自体は
地震なら震度15、戦争になったとしても核の衝撃すら耐える。
ここ自体がシェルターなのに、上層部は更に下に籠って事態の収拾を
のほほんと待てるってわけ。もちろん下にも食料はわんさかあって、
シェフが調理してくれる施設が完備されているけれど、
一般人受けする食べ物はなくってよ、だからこうして上がってきては
庶民の食べ物をいただいているの。』
『・・・・・』
『いいこと?ちなみにだけど・・・
今のパニックは危機レベル5のマックスよ』
『・・・・・』
『って寝てんじゃなくってよ!』
『あ、ごめん結構聞いてたから大丈夫よ、
今のプラトニックは樹木希林とマックスだって?』
『はぁ????』
『それで?何が起こってるか知ってるの?神楽さん』
『ったく・・・これはね・・・・』
少し言葉に詰まった神楽だったが、ゆっくり話し始めた。
『もうゼウスも終わると思うから言っておくわ、ゼウスシティは
国になろうとしているの、しかも軍事国家。
平和ボケしている今がチャンスとか言って・・・
まぁ大統領アレースの私利私欲みたいなものなのだけれど。
その為に核より恐ろしい兵器を開発して、周囲を威圧し、飲み込み、
巨大化しようと考えた。それが【生物兵器】。
昭和と言われた時代から存在はしていたけれど、
死んだ人間を操って死を恐れない兵士にするなんてのは悪魔の所業として、
誰も手を付けなかったはずなのよ、考えはしたけれど。
それをゼウスの軍事機関は開発してしまったのよ・・・
とあるキノコから死んだ人間をゾンビ化する細菌兵器を、
生きている人間を死に追いやって脳を支配して操る兵器をね。』
『ゾンビ・ファンガスが元じゃないの?』
そう言うと、如月はスマホで撮ったあのキノコの写真を見せた。
『あなた何者???凄いわね・・・そうよ、その通りですわよ。
蟻に寄生して操るゾンビ・ファンガスをベースに、
ツリガネムシなどの寄生虫の習性を研究し、人間に寄生して
脳を乗っ取るように作り出した新しい細菌なの。
空気感染はしないわ、体液感染だけ。』
『血を浴びたりしたら?』
『そこまでの感染力はないみたいね今のところ。
噛まれることで血管から侵入・・・だと思うわ、
あまり詳しくは知らないのだけれど。』
『なぜそれが街に?』
『解き放ったのよ・・・
ある朝、電車の中で女子高生に注射したらしいわ。
そして瞬く間に感染した。』
如月は事件が起きたあの日の朝を思い出した。
******************************
『女子高生が痴漢した男に噛み・・・プッ!』
あまり目が良くない如月は目を細めながらテロップを読み、
読み終わる前に笑った。
『噛み付いたって!?お父さん気を付けてよ!あはははは』
『噛まれたくないからやめておくよ』
口元だけで笑いながら如月の父親は靴を履いた。
******************************
『それでこんなに拡大したって言うの?何してんのお前ら!』
『上層部はこの状況を放送しているの、世界に向けて。
つまり感染者はゼウスから出られないよう、壁がもうせりあがってる。
津波でも守れるように開発された壁でシティが囲まれてるの。
そんな中で逃げ惑い、喰われ、感染し、増える様子を放送し、
これだけの力をゼウスは持ってるって言う力の誇示。
他のシティの勧誘はもう始まっているわ、NOなら感染者を送る・・・
そんな汚い交渉でね。いや、脅迫・・・か。』
『そんな!みんな死んでるのよ!苦しんで、悲しんで、それでも
必死にもがいて生きようとしているのに!!!
何してくれてんだよテメェらわ!だいたい感染拡大したシティと
合併とかしないでしょうよ!
終わったシティになんのメリットもないでしょうよ!』
『復興なんか思いのほか簡単なのよ、地下に配備してある無人警備機の
ゼウス・ドローン壱式で一掃し、街を全て焼き尽くしてリセット、
壁の向こうにはもう新住居用の準備は整っている、
差し替えって感じね、あなたがどうあがいたってゼウスはもう終わりよ、
全て計画通りらしくてよ。。。』
『あなたはこれで良いの?神楽さん!あなたはいいの?』
『良いわけない!私の家族だってゼウスに居る!
心配でどうしようもないわ!でもどうしようもないじゃない!
私一人で何かできて?』
『手段は?何か手はないの?』
『前に一度、超音波による大気の振動が、寄生した菌を暴走させ、
死滅に追い込むとは聞いたことがあるけれど・・・
それは機械では出せない周波数らしく、開発が進まないとかなんとか。
だから事態収拾はドローンで強制的に行うんじゃないかしらね、
排除ってところかしら。』
『ここ開けて・・・手動でもできるでしょ?』
『ここなら安全だから、居ればよくてよ。
ベ…別にあなたの為に言ってるんじゃないんだからね』
『開けて!眼鏡割るわよ』
神楽は仕方がなく持っていた鍵でシャッターを開けた。
ゾンキー対策なのかシャッターのせりあがる音は一切しなかった。
『特務だっけ?・・・こんなにベラベラ秘密しゃべって良いの?』
『いいのよ、ゼウスはリセットされるんだもの』
『ちなみにだけど・・・
神楽さんはなぜここに上がってきたの?』
『私ね、スースーミントが大好きなの。。。』
『私もよ!』
『あなたお名前は何と言うのかしら?』
『氷の女王 スースーミントよ』
そう笑って見せると如月は学校を目指して走った。
その後ろ姿を見つめ、神楽は自分の置かれた立場と、
ゼウスシティの現状を考えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます