朱色の瞳 ~始まり~

美李

第一章 始まりの地

第1話 継がれるもの(1)

 光の届かない深い闇の中にカレはいる。奥深い誰も入ることのできない山の中にひとりきりで生きている。

 大昔には家族と仲間とともに過ごしていたが、今はひとりきりで静かにひっそりと生きている。懐かしい日々を胸に秘めカレは生きながらえている。

 カレの心は何も感じることのない深い闇の中にある。苦しまないよう自ら心を閉ざした。憎しみに心が支配されないよう心を閉ざした。何も感じず、何も想わず、ただ生き存えている。すべてを失い、己を失いかけ生きる希望はとうに失った。それでもカレは生きるしかなかった。愛する者の最期さいごの想いを継ぐために己に託された使命を果たすことを選んだ。それを選ぶことでしか己を罰することができなかった。それがカレの運命であり逃れようのない宿命さだめだったのかもしれない。


 カレは時に疑問に想う。自分はなぜ生きるのか。なぜこの地を護るのか。人間たちの為にこの地を護る必要があるのか。人間にその価値があるのか。己に問いかけるが答えがないことも答えを与えてくれる者がないことも知っている。何より答えを知っている。

 それでも愛する者と交わした最期の約束を果たすために生命いのちある限りカレはこの地を護り続ける。

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