掌編小説・『サイフ』

夢美瑠瑠

掌編小説・『サイフ』

(これは今日の「サイフの日」にアメブロに投稿したものです)


掌編小説・『サイフ』



 安倍晴明の12代目の子孫だという陰陽師と、飲み屋で知り合いになった。奇妙奇天烈な格好をした中年の男だが、さすがに貫禄があった。

 顔は渋皮色で、声はバリトン歌手のような深い美声である。眼は藍色をしている。

 「これは本物だ」と思ったので、「金持ちになる秘訣はなんですかね?」と教えを乞うと、「手っ取り早いのは財布を変えること」だという。

 どういう財布がいいか聞くと、風水師だけあって、やっぱり黄色いのがいいという。

 で、酔っぱらって気が大きくなったその男は別れ際に私に黄色い財布をくれた。

  「晴明」氏は、どっさりと札束が入ったその自分の財布から無造作にカネとカード類を引っ張り出して、サイフだけくれたのだ。

 先代から受け継いだ、秘蔵の品だという。鰐皮で、美しい光沢があって、かなり大きい。

 「いいんですか」と、聞いてみたが鷹揚に「いい」と言うので、ありがたく押し頂き、手を振って別れたのである。

 

 で、手元に財布が残ったので、しばらく使ってみることにした。

 ほどなくして財布に入れておいた宝くじが5万円の当選をした。

 買っていた株が暴騰して、100万円が転がり込んだ。

 入れておいた開運の印章を押して買った土地に金鉱が見つかって、権利を売ると1億円が儲かった。

 「すごい財布だ!」私は内心で心底感嘆した。


 しかしこのままこんな財布を持っているとなんだか末恐ろしいな、という気もした。お金の運は授かっても、運とかいうわけのわからないものはいずれ帳尻が合って、ひどい不幸が来たりしないか?心配性の私はそう思ったのだ。で、私は名刺だけを入れ忘れたままで(らしかった)その財布を駅のごみ箱に捨てた。怖かったのだ。


 だが、心配は無用?だった。

 その財布を拾ったのはナント!ビルゲイツというアメリカの大富豪の娘だったのだ。

 資産は数十兆円といわれていたと思う。

 その娘さんはその黄色い財布のなんだか知らないオーラに魅かれたと言って、直接私のところへ届けに来てくれた。

 そうして、キャロライン・ゲイツというその絶世の美女は私にあったとたんに一目で私に惚れて、私も彼女が好きになり、二人は恋に落ちた。

 そうしてほどなくしてキャロラインと私は華燭の典を挙げて、大富豪の娘の私は婿となった。いわばまあ財布の結ぶ縁で私は世界一の金持ちの継嗣となったのだ!

 サイフ様様…いや、黄色い財布に様のGoogle乗くらいつけたいような気分だった。


 めでたしめでたし😊


(どうせ小説であるからして、これくらいの大法螺は許されるだろうか…w)


<了>

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