第3話 不良少女白書-3

 ガチャリと扉が開いた。はっとして渚は煙草を隠そうとした。扉から覗き出した頭は、沢田だった。一瞬ひやりとした渚は、沢田が渚を見つけるまでに平静を取り戻した。沢田はきょろきょろとした後、ようやく扉の陰にいる渚を見つけた。

「あぁ、やっぱりここにいた」

「どうしたの」

「センセイが、片平はどうしたって訊いたから、アタシ探してきますって言って、さぼったの」

「いいの?」

「いいのいいの。だぁって、今日は持久走だよ。ヤダよあんなの。後で、遅れて戻って、適当に済ませるから。なぎさちゃんのことは、保健室で休んでたって言っとくから」

沢田はさっと扉を閉め、渚の傍に座り込んだ。渚は妙な気恥ずかしさを感じた。

「いいよ、別に気を使わなくても…」

「あぁ、煙草!いいの?見つかったら大変よ」

「いいのよ、このくらい、みんな吸ってるよ」

「そうなの?吸ってみたい気もするけれど……、でも、煙草吸ったらバカになるって言われるから。アタシなんて、これ以上バカになったら、どうしよう」

「でも、Dクラスにいるじゃない」

「もう、ギリギリなの。今度のテストで落とされるかもしれないの」

「あたしも、落とされるな」

「嫌だな、落ちるの……」

「変な学校だね…」

「でも、しかたないよ。アタシたち生徒だもん。学校のきまりは守らなきゃ」

「こんなだって、知らなかったからナ」

「そうね……」

 意気消沈したように沢田は俯き加減になった。と、突然、

「ねえ、一緒に勉強しよ!」

いつもより一段高い声で沢田は叫んだ。

「そうしよ、そうしよ。アタシ、一人だとやる気出ないし、バカだから誰も相手してくれないし。ねぇ、そうしようよ」

小さく手を叩きながら叫ぶ沢田を見ていると、安らぐような気分になってきた。

「うん、やろうか」

「そう、そうしよう」

小さく答えた渚に応えて踊り出さんばかりに喜ぶ沢田を見ていると、渚も嬉しくなってくる。

「とりあえず、アタシ授業に戻るわ。なぎさちゃん、ここにいる?後で来るから待っててね」

「あ、ちょっと。沢田さん」

「ララでいいわよ。みんな、ララって呼んでるから。待っててね。センセイには、うまく言っておくから」

大きく手を振りながら沢田は建物に入っていった。渚は煙草が燃え尽きそうになっているのに気づいて慌てて消すと、吸殻を排水口の中に押し込んだ。

「あたしも、行こう」

 だいぶ気分が良くなったので見学させて下さい、と言えばいいだろう。そう見当を付け扉を開いた。

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