グリーンスクール - 不良少女白書

辻澤 あきら

第1話 不良少女白書-1


            不良少女白書



 某月某日――曇。無風。


 渚が教室に入ってきたとき、一瞬緊張感が走った。いままで楽しげに談笑していた者たちの視線が一瞬渚に向けられ、そして逸らされた。渚はためらいを押し殺しながら自分の席へと歩いた。できるだけ自然に、他人を意識していないようにぶっきらぼうに鞄を置いて、席に着いた。自分のまわりの空間だけが空白のような雰囲気のまま、平静を装いながら授業の開始を待った。


 予鈴が鳴ると同時に飛び込んできた隣の席の女子が、息を切らしながら鞄を置き、大きく深呼吸をすると初めて渚を認めた。

「あっ、おはよぉ。なぎさちゃん、今日から来たのぉ?」

 頭から出ているような高い声で、渚に挨拶をしたのは沢田麗羅だった。渚は軽く、あぁとだけ応えた。沢田は屈託ない笑顔で、よかったねとだけ言って、鞄の中の教科書を探った。ほどなく、本鈴が鳴り、1時間目の先生が入ってきた。


 昼休み。渚は教室にいることに違和感を感じ、屋上へと上がった。数人の生徒が弁当を広げ食事をしている。人気のない角に腰を下ろし、ポケットからカロリーメイトを取り出して少しずつかじる。いっその事、退学にしてくれればよかったという思いが渚の心を覆う。


 風が静かに流れだした。空は曇っている。伸びきった茶髪がウェーブにそってふくらむ。


 いつもだと賑やかな屋上も、少し肌寒い今日は、人が少なく落ちつく。自分の居場所は、この学校にはもうない、そんな気分でぼんやりとかじり続ける。校庭から嬌声が上がってくる。男子がサッカーやドッチボールをしている。側のカップルも楽しそうに話している。時折、女のほうが高い声で笑う。いつから声を上げて笑うことがなくなったのだろうか、少なくとも学校で。少し陽が差してきた。晴れ間が見えている。それはわずかで、間もなく翳ってきた。それでも、誰もその場を離れることはない。静かに流れる風と同時に、時間も過ぎていく。


 午後の予鈴が鳴り、渚はようやく我に返った。はっとして手に持っていた包み紙をスカートのポケットに入れようとして、ポケットの奥にゴミがたまっていることに気づいた。取り出してみるとそれは煙草の包装シールだった。くしゃくしゃに丸めてまたポケットに突っ込んだ。手が何となく煙草臭いように感じて強くはたいた。立ち上がってスカートの汚れをはたき落とした後、手の臭いを嗅いだ。そうしている自分がおかしくなって、まぁいいやと呟きながら階段を降りていった。

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