第7話 慣れませんね…

 拝啓、お母様へ。

 私は今、騎士のセルドという人物とハルス王国という場所に向かっています、そんな国は聞いたことがない?私もです。

 その国までは私が出発した村から約一か月ほどかかるそうで、馬車の揺れを感じながら何日も木の椅子に座り続けると流石に体が痛くなり、やはり適度な運動というのは大事だと改めて感じますね。

 国に着いて現在地が分かればお土産を贈りますので、楽しみにしていてください。

 追伸、盗賊団に追われているときは逃げ切るか、応戦するか、どちらがおすすめですか?


「応戦に決まってるだろ!」

「ですよね!」


 という訳で現在、盗賊団に追われています。

 5人の盗賊が狼の魔物に跨り、こちらに向かって精霊術を放ってきます、もちろん馬車に当たる前に私が打ち消していますが。

 彼らの精霊術は魔法でいう、下二級程度なので防御に使う魔力は微量で済みますが、馬の体力が尽きたら追いつかれますね。

 出来るだけ穏便に済ませたいところではあるのですが、向こうは引いてはくれなさそうですしね。


「女は殺すなよ、多少の傷はかまわねぇ!」

「分かってらぁ!」


 盗賊の1人が私の足に向けて矢を放ちました。

 避けたらセルドに当たりますかね、いや余裕で避けそうです。


「炎よ!」


 私は矢に向けて炎を放ち、矢を焼いて防ぐついでに炎は矢を撃った盗賊に直撃しました。

 よし、1人仕留めました、あと4人。


「アルミット、前から5人来たぞ!」


 どうやら、まだ盗賊が隠れていたようで、挟み撃ちしに来たようです。


「仕方ありません!馬車を止めましょう!」


 セルドは馬車を止め、サッと降りました。

 私も馬車から降り、鞄にしまっていた剣を手に取ります。

 このまま盗賊に突っ込んでもよかったのですが、馬車が壊れでもしたら大変です。

 それに体を動かしたかったのでちょうどよかったです。


「お前、剣使えるのか?」

「はい、魔力切れ対策で母様に仕込まれました」


 さて、おじさんの倉庫から持ってきた剣の切れ味、楽しみです。


「そっちの5人、お願いしますね」

「了解」


 剣を鞘から抜くと、薄く青みがかった刀身が太陽光で煌めきます、一眼で良い剣だということが分かります、さすがおじさんシリーズ。


「へ、いいもん持ってんじゃねぇか」

「振り方わかりますか〜?ーーあっ?」


 まずは1人、ちょっと腹が立ったので胴体から首にかけて切り上げ真っ二つにし、手に人の肉を切る嫌な感触が伝わってきました。

 隣にいた盗賊bは急な事で呆然としています。

 スキだらけなので今のうちに2人目を仕留めましょうか。


「ふっ!」


 私は盗賊bの首を落とします、盗賊bの体は力を失い、地面にバタンと倒れ、遅れて血が吹き出します。


「あと2人…」

「て、てめぇ!」


 仲間を殺されたことに怒った盗賊cが私目掛けて精霊術の氷を放ちます。

 風による加速すらない、私にとっては遅いですね。

 私は氷を切り落とし、地面をぐっと踏み込み盗賊cの懐に潜り込みます。

 反応すらできていない盗賊cの胴体を切り、振り向きながら盗賊dの心臓目掛けて剣を投げます。

 風を切り盗賊dの出した氷の盾をストン、となんの抵抗も無く貫通し、剣は盗賊の心臓に刺さりました。


「ガアァァァァァ!」


 主人を殺された事に怒ったのか魔獣4匹が私に向かってきます。


「うるさいですよ」


 ちょっとカッコつけて指パッチンで魔法を使い、4つの火柱が上がりました。

 ふっ、決まった、魔獣の丸焼きの完成です。


「これで終了、ですね」


 私は盗賊の心臓部から剣を抜き、サッと血を払い剣を鞘に仕舞います。

 セルドの方はどうでしょうか?

 振り向いてみると、セルドの方ももう終わっているようで、剣についた血を拭いていました。

 流石、私の魔法を切っただけはありますね。


「お疲れ様です」

「ああ、そっちは怪我はないか?」

「ええ、問題なく、あの程度ならかすり傷一つもおいませんよ」


 魔法だけでは魔力が切れたとき抵抗できないと、お母様に剣、槍、弓での戦い方などを嫌というほど仕込まれました、今となってはありがたいですが。


「遺体はどうしますか?」

「後でギルドに報告するから、証拠品だけ取って埋める」

「了解しました」


 私は魔法で地面に大穴を開け、セルドが遺体から証拠品だけ取って穴の中に入れていきます。

 全員の遺体を穴に入れ、上から土を被せ埋めます。

 やはりあまり慣れません、魔獣討伐はよくやっていたので慣れていますが、人を殺す経験はあまり多くないので、どうしても忌避感が少しあります。

 見逃したら後で痛い目を見ることもあるので、見逃すことはしませんが。

 降り懸かる火の粉は払わねばなりません。

 そんな私をセルドは心配そうに見ていました。


「顔色が少し悪いが、本当に大丈夫か?」

「大丈夫、とは言い切れませんね。あまり慣れていないので」

「無理するな、次からは俺1人でやる」

「いえ、自分でします、あなたに甘えてしまってはこれから旅なんて出来ませんから」


 きっと、この先も旅をして行くならこういう事も時々起こるでしょう、避けては通れない事なのです、私もいつまでも甘えるわけにはいきません、覚悟を決めなければ、人を殺す覚悟を。

 埋葬を済ませて、私達は馬車に乗りその場を後にしました。

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