第10話 鉢合う

「…初めまして、花谷ルカさん?天川由良と言います!ウチの新島くんが、お世話になってます」


そう、花谷ルカに告げた天川由良。

その表情は、一見優しいものに思えたけれど、目が完全に笑っておらず険しい雰囲気が三人を包んだ。

天川が何を言っているかわからない様子のルカ。それはそうだ、俺もわからない。


多大なる叱責の後、天川は放課後、俺にピッタリとくっついてきた。

校舎を出て流石にまずいと思い横を見ると、無言の圧力をかけてくる。俺のペースを崩してくる女は苦手だ。


「ねぇ…齋」


「…あぁ、俺じゃない」


そうだ。俺のせいじゃない。


いかにも残念そうな顔、というか失望したような顔のルカ。


対照的にニコニコ顔の天川。

目のハイライトが仕事をしておらず、猟奇的殺人犯のそれを連想させる。


「ふふっ。ルカちゃんって、呼んでいい?」


「えっ、あっ…はい」


「よろしく!」


「あのっ、よろしくお願い…します」


おいルカ。

いつもの強気な態度はどうした。俺にはこんな態度を取らないくせに。


「ごめんね〜?たまたまLINE覗いちゃってさ〜」


「あ、えぇ。いえ、別に」


弱ったような表情を見せるルカ。

それに天川のテンションも無駄に高い。


「それでさ〜。ショッピングモール行くんでしょ?私もちょうど行きたかったんだよね〜!」


口ではルカと会話をしながら、目線はしっかり俺を見る。瞳は一点を貫き、瞳孔はバッチリと開いている。


「そうなん…ですか」


「うん。それでさ、もしよかったら一緒に行かせてもらっても良いかな?」


「えぇと…」


縋るように俺を見るルカ。

こういう強情なヤツほど人見知りなのかもしれない。自分より強そうな相手には謙る。社会人の基本だよね、さすが花谷の御令嬢だネ。


ただ、明らかに天川と行きたくないオーラを出すルカにとっておきの案がある。


「まぁ、会ってすぐ一緒にショッピングモールに行くってのもあれだし、今日はやめとこう」


そう、ルカの計画ごとおしゃんにする作戦である。


元から行きたくない俺。

天川と行きたくないルカ。

とりあえずショッピングモールに行きたい天川。

3人の意向を汲んだ素晴らしい案だ。


「えっ、それは………イヤ」


「いやぁ…はぁ?」


キレそう。俺のグッドアイデアに文句でもあんのかよ。


「私もそれは反対かなー、齋くん?」


天川も反対意見。


「お見合い相手をほったらかしなんて酷くないかな。私はイヤだよ?」


この際、天川がイヤかどうかはどうでもいいとして、お見合い相手というのは語弊がある。


「いや違うよ、天川。コイツは俺の元見合い相手」


「「え…?」」


「いや、俺、論外らしいから」


そうだ、確かに言われた。俺は見合い相手への配慮やらが足りないと。


「…」


「そう、なんだ。…じゃあ、ルカちゃん。それはルカちゃんがおかしくない?」


「…え」


「論外のお見合い相手なのにデートとか、それっておかしいよね?未来の旦那さんに失礼だよね?浮気って思われる可能性も0じゃないんだよ?」


「っ…」


「一度断った男の人と遊びに行くって…それはちょっと違うんじゃない?キープしてるっていうか。私だったら絶対しないけどなー」


何故そこで俺の顔を見る。


「というかもし行くにしてもやっぱり私もついてくね?仮に私と齋くんが付き合ってるってことにすればルカちゃんは私の友達ってことで変な誤解は生まれなくない?」


「俺と天川には変な誤解が生まれるけどな」


「そ、そうです。私達の関係に天川さんを巻き込むのは、申し訳ない、です」


少し強く出たルカ。

だが当然、天川は止まらない。


「えー!?全然大丈夫だって〜。友達に変な気を回すの、良くないよ?それに齋くんのことも私の方がよく知ってると思うし。齋くん、ルカちゃんにイヤな思いさせちゃうかもよ?」


「あっ、アタシだって齋のこと、知ってる、…わよ」


なんだかな。

ほんっっっっっとうにどうでもいいけど。ルカがかわいそうになってきた。助け舟を出すべきか。


「あのさ」


この場からはやく立ち去りたい俺は、ルカを助けるべく口を開いた。


_________________________________________


それってルカさんの感想ですよね?



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