第7話 大賢者

 何処までも建物が続いている。

 ここ、王都フォーリントンは、この都市だけで人口百万人も住んでいる大都市だ。

 それまでの街とは違う活気と喧騒がそこには在った。

 春近達は王都に入り、大きな通りを歩いていた。



「ちょっと、何でエッチなイタズラばかりするの」

 春近は王都への馬車の中で、二人に両側からイジイジされて疲れ切っていた。


「はるっちが悪いんだよ。すっごくイイ表情するんだもん」

「そうだそうだ、ハルが誘うような表情するのが悪いんだ」

 あいも咲も、春近に責任を押し付けているが、事実春近のドS女子寄せスキルは異世界でも健在であった。


「これだってセクハラだよ」


「ホントは嬉しいくせにぃ~」

「ハル、正直に言ってみ? 本当にイヤならもうしないから」

 二人はニマニマとエッチな笑顔で迫って来る。


「あの、イヤってわけじゃ……ないんだけど……」


「んふふっ~」

「イヤじゃないんだぁ~」

 二人は満面の笑みを浮かべて、春近の腕に胸を押し付けてくる。


 だああああっ! 何でオレはこうなんだ!

 女子にエッチなイジイジされたいとか思っちゃってるヘンタイな自分が恨めしい!




 通りを歩いていると、女性が列を作っている店が目に入る。

 何かを売っているようだが、周囲の店と比べてかなりの繁盛ぶりだ。


「何だろ? 凄い賑わってるけど」

 春近が店を指差す。


「ん? 何か書店みたいだな。看板に同人誌って書いてあるし」

 咲の言葉に春近は何か引っかかる物を感じた。


 同人誌販売店?

 この世界に同人誌が有るとかそういう事じゃなく、これって絶対そうだよな。


「ちょっと行ってみよう!」

 春近達は店内を覗いてみる。


『英雄ザリウスと魔王ベルフェゴールがデキちゃった本』

『騎士隊長は御盛ん 部下のイケメン騎士を食べまくる』

『女王様はわきまえない~側近男子を調教しまくり~』

 過激なタイトルと煽情的な表紙の本が並んでいる。

 この国の女王が見たら発禁処分にされそうだ。


「鈴鹿さん!」

 奥で本を売っている鈴鹿さんに声を掛ける。

 店構えを見た時点で、何か確信めいたものがあった。


「あ、ああ、あああああ! 土御門君!」

 鈴鹿杏子すずかきょうこは店をほっぽり出し、涙で顔をぐしゃぐしゃにして春近に抱きついてきた。

「やっと逢えた。一人で心細かったんですよ」


「でも、こんな短期間で店を経営するなんて凄いね……」

 一見弱そうに見えるけど、実は一番逞しいかもしれない思った。


「うわっ、これ、スゴイ……一冊欲しいかも……」

 咲は側近男子が女王に過激な調教を受ける本を手に取ってペラペラと見ている。

 その調教されている男子は、どう見ても春近にそっくりだった。




 早めに店を閉めて、今は四人で夕食をとっている。

「鈴鹿さん、どうやって同人誌を大量生産してるの? ここには印刷機もコピー機も無いのに」


「原稿を描いたら、私の創造スキルで複製できるのですよ」

 何だかチートそうなスキルを持っているようだ。



 皆と同じようにステータスを出してもらう。


 職業:大賢者

 レベル:120

 HP:950,000

 MP:1,100,000

 攻撃力:7,800

 魔法力:10,000

 防御力:11,000

 素早さ:5,000

 スキル:鑑定Lv.10 創造Lv.10 天弓Lv.10 治癒Lv.10 妄想Lv.10



 なんだこれ、チート過ぎる。

 もう何でもアリかよ!


「でも、鈴鹿さんに逢いたかったんですよ!」

 春近は、愛の告白でもするかのように、杏子に熱い視線を向けて発言する。


 良かった。激しい女子ばかりだと体が持たないから、鈴鹿さんみたいな止めてくれそうな子を待ってたんだ。


「えっ、そ、そんなに逢いたかったんですか……」

 杏子も満更でもない感じに、頬を染めて俯く。


「ぶーぶー なんか、うちらと会った時と違う!」

「ハル、杏子だけ優遇してないか?」


「そんな事ないから。皆大事だから」



 四人で笑って楽しく食事は盛り上がる。

 しかし、それを陰から監視する者が居た。


「間違いない。あの男だ」

 女王の命で春近を捜索している男達が、特徴を書いた人相書きと春近を見比べている。

 春近の身に危険が迫っていた。

 あの同人誌に描かれているような、女王から過激な調教を受ける事態になりそうである。



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