第81話 爽の懺悔

 感涙の再会より、ようやく落ち着きを取り戻しつつある中。居間の左下の片隅、下座の方にて。


 楓菜の方と、楓禾姫が話をしたり、湖紗若が甘えたりするのを、楓希の方。凛実の方が微笑みながら見守る優しい空気に包まれた中。



 対角線上の右側上座の隅では、爽。陽。鈴。稜弥。詠史が話をしていた。早月はなずなと共に、皆にお茶を立てていた。


「家族四人が揃って、楓菜の方の記憶とかが、繋がった……」


 どこか寂しそうに呟いた爽に。お茶を配っていた早月が。


「殿。楓菜姫様は、貴方が瑠璃ノ島に来られた日はとても幸せそうでしたよ。あの時の後遺症でお可哀想に……記憶が曖昧になるようになられて。でも、今日までの貴方と島で話された事や、過ごした日々は楓菜姫様のお心に残っておられたから、家族四人で再会した瞬間繋がられたのだと……すみません、お話中に割り込みまして」


「ありがとう……」


 爽は、この六年間、楓菜の方を心身共に支えてくれた母に

 感謝していた。


 心優しい母。乳母という立場以上に愛でもって楓菜の方を慈しみ。愛し。守ってくれたであろう母……



「六年前、外喜を止められなかった……今回は慢心していたのだろう。穴だらけの策であったり、何より皆のおかげで大事には至らなかった……六年前は、事を起こした後の処理……楓菜の方に出したお茶や道具を騒ぎに乗じて処分したり。 自分の部下が口を割らないようにしていた。 何より、私が気を確かに持って、毅然とした態度で対処していれば……ここまで事が拗れなくて済んだのに」


 稜弥、詠史、鈴は、爽が過去に懺悔し、涙する姿に心が痛かった。


「爽よ。あの頃、外喜には勢いがあった。同じ野心を抱く仲間をまとめる求心力もあった。兄上のこう、勇、御厨の家の者達 だけでは、もっと酷い状況になっていたと思う。山乃家の基史殿の力は助かったし。源本家の。凛実の方のお父上の瑠喜るき殿も、家臣に諜報工作してくる外喜には、従がったりしないようにと手綱を締め続けてくれていた。事件の二月ふたつき前に、爽もお茶に細工されたりして体調崩していた……楓菜姫が目の前で倒れていた姿を間近に見たのだから……」


「お義父上様……」




 楓菜姫急死…… その報に家臣団の動揺は激しかった。稜禾詠ノ国の民の嘆きは深かった……


 事件に乗じて桜王家を 乗っ取ろうと企む外喜に飲み込まれないよう、家臣団が二つに割れないよう。


 桜王家と、源本家の権力争いから楓菜姫は…… 噂を広めて 潰しに掛かろうてしてくるのに屈しないよう。


 桜王家、源本家、源本家は 一致団結して踏ん張って。




 爽は、楓菜姫と約束したのだ。成人するまでは何としても守り抜くと。外喜に、楓禾姫。湖紗若。鈴を傷付けられてたまるものかと……


 楓菜姫が、外喜に再び命が狙われて、万が一…… それだけは耐えられなかった。


 存命である事を伏せてでも、守りたかった……


 その為に。


『一族は結束して頑張っているのに、ただ一人、外喜に屈した殿様』


 影で揶揄されても、 耐えて来られた。が……



 その陰で、苦しい思いをして来た者達がいる……



 爽は、 反対側にいる楓菜の方と、凛実の方の方に視線を向けて。


 手を取り合って何かを話し合っている、楓菜の方と、凛実の方。


 楓菜の方に膝枕されて、安心したように眠っている湖紗若。楓禾姫は微笑みながら湖紗若の髪の毛を優しく撫でていて。楓希の方に、なずなも微笑んでいる。


 泣きたくなるような光景……



「鈴、稜弥、詠史。楓菜の方と凛実の方達も交えて、そなた達と話がしたい。一緒に良いか?」



「はい……父上」


「はい……殿様」


「はい……殿様」



 楓菜の方に膝枕されて、安心したように眠っている湖紗若や、微笑みながら、湖紗若の髪の毛を優しく撫でている楓禾姫を見つめていた鈴、稜弥、詠史は、神妙な面持ちで頷いた。












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