第67話 あなたがいたらそれだけで……

「フウひめしゃまは もう おきないの?」


(湖紗若様? 泣いてる?)


「そんな事ございませんよ。湖紗若様」


(なずな……?)


「外喜め、ここまで追い詰めて…… 本当、直接尋問してやりたいのだが」


(鈴兄上様怖いです……)


「殿様の怒りが激しいようで。取り調べの記録を取っている者が震え上がっているとか」


(稜弥様まで……怖い……)


「外喜も、軽い取り調べ程度と甘く見てたようですけどね…… そうは問屋が卸しませんよね」


(怖い事を……詠史殿まで……)


「稜弥様に。稜弥様のお父上様の勇様と、殿様が一緒に。桜王家に内応して来た叔父上の家臣を徹底的に調べましたし。詠史殿が数年係りで調べた叔父上の所業も白日に晒されて……」


(お優しい凛実方様が……)


「外喜は、もう逃れられないと悟って 、素直に取り調べに応じだしているしな」


(鈴兄上様……?)



「外喜は、もう逃れられないと悟って 、素直に取り調べに応じだしていますしね」


(稜弥様……?)


「外喜は、もう逃れられないと悟って 、素直に取り調べに応じだしておりますしね」


(詠史殿……?)



(三人同時に同じ事を言うって……)



(私なんて夢見てるのかしら?)




「フウひめしゃま?」


 湖紗若様の声が。さっきまでの、どこかボンヤリ聞こえてきたのと違って……




 -パチっ-


「楓禾姫様?」


「楓禾姫?」


「楓禾姫?」


「フウ ひめしゃま?」


「楓禾姫様?」


「楓禾姫様?」



 稜弥様。詠史殿。鈴兄上様。湖紗若様。なずな。凛実の方様。





 今の会話は、 夢の中の会話じゃなくて。 夢現の中聞こえて来た……


(そうだあの時。私、視界が暗くなって、意識が遠のくのを感じたのよね……)


「私、気を失っていたのですね?」




 それぞれ皆で、頷きながら。皆が皆、涙していて。


「 ごめんなさい。心配を掛けてしまったのですね」


「フウひめしゃま わるくないで……す」


「湖紗若様…… 助けて下さってありがとう」


 そう伝えると、私に抱き付いて泣き出した湖紗若様。


 どんなに怖い思いをしたのでしょうね。ギュッて湖紗若様を抱きしめて。





 私は、丸1日 眠っていたらしい。


 外喜は、お父上様の、厳しい 取り調べを受けているとの事。



 けど今は……


 湖紗若様は、あの後本丸御殿の北御殿に戻り、湯あみをしてゆっくりと休ませたからか。体調を崩す事はなかったと聞いて安堵して。



 でも、心が不安定になったのか。 ほぼ改善されていた、舌足らずな話し方に戻ったと聞いて可哀相で。



「湖紗若様。もう心配ありませんよ? 一緒にいますからね 。あなたがいたらそれだけで……」


「フウ ひめしゃま いっしょにいたら しあわしぇ!」


 ほっぺたを涙に濡らしながら、 こちらが幸せになる言葉を下さった湖紗若様。



 私は、湖紗若様の涙を、右手の親指の腹にて拭いながら。


(良かった……また逢えて……私達の今後について考えなくちゃね……)


 そんな事を思ったの……





















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