第57話 稜弥の戦い

 稜弥視点


 急ぎ、私は三の丸にある外喜の屋敷に駆けつけて。



 客間を目指す途中。玄関先。廊下。居室前……監視や、見張りと思われる男達が数人……


(伸びてる……詠史殿の仕業か?)


 って。


(派手にやらかしたら外喜に怪しまれるだろう?)


 そう思ったけど思い直す。


 客間に外喜がいるのを確認してから。 私が来るまでの短い 時間の間にサクサクと、見張りを片付けるなど……詠史殿や、御庭番達には、朝飯前なんだろうな。と。



 外喜側の見張り達は、楓禾姫様と湖紗若を命令で素通りさせた後。私達が来た時の為の備えに守備体制に入ったのに。あっという間に布陣を崩されたのか。



(御愁傷様……)


 一人の男が現れて、伸びてる男を担ぎ上げると…… どこか連れてってしまったし。


(どこかに。反対に監視を付けて見張るんだなきっと……)



 おかげで、私は、何の労力も使わずに客間にたどり着く事が出来て助かったし。


 音を立てぬよう、慎重に障子戸の前に陣取ると。私は気付かれぬように、障子に小さな穴を開け。


 中の様子の状況判断をする。


 客間の奥の上座に、楓禾姫様が。その隣に湖紗若様が座られている。


(外喜よ。お二方に、上座をお勧めする。それぐらいの礼儀はわきまえてたみたいだな)


 外喜は、下座に座っている 。私に背を向けていて。


(好都合だ)


 その更に右斜め後ろに、ゆずな殿と、持女のおゆりが控えている…… 二人の前には茶道具が置いてある


(詠史殿に指示されたのか……)


 もしかしたら……二人の内のどちらかは外喜に屋敷手伝いに来るようにと、指示されたのかもしれない……


(詠史殿の姉上のこずえ殿のように……)



 私は、真っ正面の位置よりも、ゆずな殿と、おゆりの動きも良く見える場所に移動して。 様子見る事にした。


 ふと天井を見上げると、分からない程度に天井板がずらされていて。詠史殿が確認出来る……


 湖紗若様は、お可哀想に緊張しているのか…… いつもは健康的で。紅く染めた頬をされているのに。青白い顔色をされていて。


 しかし、お小さいながらもキッと外喜に、 鋭い視線を向けておられた。


 楓禾姫様は、さすがだ…… それと悟られないように…… 視線で、客間の中の人や物の配置を確認され。更に天井裏の殿と、障子戸の外の私まで確認されたようだ。


「さて。 腹を割って話したいと思いましてね。 今、饅頭とお茶を用意させますゆえ」



 外喜の声音がどこか弾んで聞こえて……


(腹のたつ)



 楓禾姫様。


(何を思われているのですか?)


 無表情で外喜を見つめておられる。



 しかし……私は心の中で。外喜よ。


(お茶の道具を自分から見えない所に置いたのは、間違いじゃないか?)


 そんな事を思っていた。



 こちら側としては好都合だよな。



 ゆずな殿は、一人分の茶を立てている。


 そして。おゆりは、音を立てぬよう慎重に。 帯び紐に付けていた巾着を外すと…… 茶壺の中の粉茶を茶ベラにて袋の中に入れて……


(詠史殿の指示か……)


 次に竹筒と……竹筒のような入り口の穴が狭い物に入れやすいようにか。一ヶ所三角に尖らせた、変わった形の柄杓みたいな物を取り出すと……


 竹筒に、残っていた 水分を素早く火鉢に捨てたおゆり。


​瞬間、 暖められた水が ジュっと…… 一瞬動きを止めた、おゆりとゆずな殿……


 小刻みに震えているおゆりを気遣ってか、ゆずな殿が柄杓を取ると、おゆりが竹筒を抑えて……



「 茶はまだか!?」



 後ろを振り返る事なく、二人に 声を荒げた外喜。



「 はい。ただいま。申し訳ございません」


 謝りながら竹筒に茶釜より、湯を移し蓋をして、しっかりと帯に結わえ付けたおゆり。



(茶か、湯に何か入れられていたら……薬師に成分を調べて貰うのか……



 外喜よ。 自分の後ろで行われている動きを一度たりとも確認しないで……



 ゆずな殿が、饅頭を一つ懐に入れたぞ。外喜。



 そして、おゆりは、お茶と饅頭の乗った皿を外喜の前に置いて。



 楓禾姫様と、湖紗若様の前には、 用意周到だな。おゆりは、部屋より持参して来たのだろう。安全な饅頭を一つ皿に乗せて置いたし。


 その様子を微かに微笑みながら見つめていた 楓禾姫様は。



「外喜様。ご一緒に頂きませんか?」


「い、いや、私は今は」



 そんなに焦ったら怪しいだろうが。


 私が心の中で突っ込んでいると。



(え?)


 凛実の方? 



 外喜が、 入って来た襖の外にの凛実の方の姿が……



 外喜は…… 気付く余裕などないようだ。



 天井裏の詠史殿も気付いたみたいだ。



私は、障子戸を、顔を確認出来るまで開けて。


『凛実の方が』って、口を動かして。


楓禾姫にお伝えして……



 そして。


 二人で見つめ合っておられる楓禾姫様と、湖紗若様……



「フウ ひめ しゃ……さま わたしに おおきいほう くだ……さ……い」



 湖紗若様の言葉に 楓禾姫様は、湖紗若様をじっと見つめて……



「そうですね……」


 楓禾姫様がそう答えられた瞬間。天井裏で。詠史が、 事を起こす為に微かに動いたのを私は感じたのだった……










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