第55話 なずなの戦い

-西櫓- 


「う、ん」


目を開けて飛び込んできたのは、視界不良な空間で。


(ここはどこかしら)


不覚にも、みぞおちに拳を食らって、私意識を失って…… どこかに運ばれた?


(あまり楽観視出来るような状況や、場所じゃないみたいね)


少し暗闇に目が慣れて来たから、どこに 閉じ込められたのかと確かめようと目を凝らすと。


使い古した剣や兜などが転がっている……


(櫓のどこか?)



油断して捕まってしまった、自分の愚かしさに涙が出そうになってしまって……


「泣いている場合じゃないでしょ!」


早く楓禾姫様と湖紗若様の御傍に戻らなくては!そう思い直して、溢れて来た涙を慌てて拭おうとして気が付いた。


(両手足、縛られている……見張り……いない?)




「縄抜け……」


(逃げなきゃ!)


幼き頃より楓禾姫様と稽古に勤しむ中、身に付けた技の一つ縄抜け……


ふと、縄抜けの稽古をしながら。


(縄抜けって、覚える必要あるのかしら?)


思った事もあったけど……


(馬鹿な感慨に浸ってる場合じゃないわ!)


「結んだ人下手くそなのね……弛いわ」



稽古の時は様々な結び方で、 結び方はもっときっちりだったもの。


簡単に解けそうって思ってしまった……



「外れない!」


後ろ手に縛られた腕。焦ってた……力任せに解こうと……



後から思い返すと。きっとその時の私は、冷静じゃなかったのかもしれない。



「そうよ!力任せに解こうとしても却って……落ち着くのよ!」


動きを小さくして……体を揺らして ……縄を緩めて……


(外れた!)


腕が自由になったなら足は簡単。


「痛いっ!」


気が張っていた為気付かなかったのか。左足に触れた瞬間、凄い痛みが走ったの。


さっき男背負い投げした時に捻ったかもしれない。



少し熱をもって腫れているのが分かる。



それでも、痛みで涙目になりながら。何とか縄を外すと私は、這って出口に向かって。




「そりゃそうよね。扉が。鍵掛けてないはずないもの」



鍵のかかった扉……


(次は鍵の解錠かぁ)



この時の私は、後で思い返せば不思議な興奮状態、精神状態だったのかもしれない。



次はどんな手で来るのかしらと思ったり。 縄抜けが上手くいかなくて焦ったり。 足の怪我に動揺したり。


様々な、感情に揺さぶられていたから……


普段から身に付けている細長い棒で根気強く、鍵穴をいじって……


-ガチャ-


(え?)


自分の手に解錠の手応えが伝わって来たのではなかった…… まるで外から開けられた感覚……



(捕まるっ)



中に見張りの者がいないからって…… 外に見張りがいない訳ないじゃない!


外喜様が そこの所を、抜かるなんてありえないもの。



けど捕まるわけにはいかないの! 楓禾様と湖紗若様の御傍に!お助けしに行かねばならないのだから!



(扉が開いたら 外に飛び出して……)



-ギギィ-


鈍い音を立てて 、開けられた扉。私は飛び出そうとして……



「きゃぁ!」



足を捻っていて動けないのを失念していた。



(また捕まるっ!)



お役に立つ所か。敵方に捕まって。迷惑を掛けるとか……悔しくて情けなくて ……地面にうずくまり動けなくて。


敵方に涙見せたくないのに涙が止まらなくて……


「なずなっ!大丈夫かっ!?」



(え?鈴様?)



思わず上体起こして……



空耳じゃなくて。本当に鈴様だった……



驚きすぎて固まっていると。



鈴様は、跪かれて《ひざまずかれて》。私を……何でか抱き寄せられてっ



「遅くなってすまなかった。無事で良かった……なずな……」



鈴様のお姿に。優しいお言葉に……


「ひっ、ワーッ」



私は安心からか。


みっともなく……大声で 泣いてしまったの









*やぐらとは、城郭内に防御や物見のために建てられた仮設または常設の建築物である。日本では石垣や土塁の上に木造の建築を建てて、攻め手への攻撃と防御を有利に働かせた。多くの例は、通常の窓のほかに攻撃用の小規模な開口を複数箇所設けてある。櫓は元々「矢倉」と書かれ、弓矢や刀、かぶとなどをしまう武器庫を意味し、見晴らしのよい高いところにつくられている参考文献 Wikipedia他

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