歩
ぽつりぽつりと地面から集まって生えている緑色の細長い草。
まずは視界に入ったそれを取ろうとして、手を伸ばした。
躊躇はなく中指が触れて。
触れた瞬間、反射的に動いた手は胸へと強く押し付けられていた。
草が電気を走らせた。
わけではない。
拒絶。
固形物を口に入れることへの。
呼吸が煩い。
動悸が激しい。
胸を押す手はそのままに、もう片方の手が口を押えようとするのを、拳を小さくちいさく作ることで押さえる。
こきゅうがうるさい。
どうきがはげしい。
発疹の痛みはどこか遠い。
両方の手を押さえることに使ってしまったら、当分、動けなくなる。確実に。
なるべく、口呼吸から鼻呼吸するようにと意識しながら、小さくなった拳を前へ前へと動かす。
草までの距離は伸ばした片腕一本分。
正確に測れているのに、こんなにも遠い。
激しい呼吸を不規則に繰り返す鼻からは、時折、笛みたいに甲高い音が出てきた。
少しだけ笑って。
この動作で疲弊したと断言できる腕の先の手は、一房の草を囲んで、短く息を吸う回数を六十と決めた。
六十一回目に草を掴む。
遅く数えたいが、言うことを聞かない身体のおかげで、もう六十になってしまった。
ろくじゅういち。
固まる手を無理やり動かして、草を握る。
ぶわり。血流が一気に沸騰したような音。
パキン。固くて薄い鉱物が綺麗に割れた音。
途端に、二つの音が鼓膜を直撃したかと思えば、いくつかの固い物体の感覚を覚えて、そろりと、拳を解けば、感覚に違わない緑色の石ころが乗っていた。
植物じゃ、なかったのか。
力が半分だけ抜けた。
笑おうとして、どうしてか、そうできなかった。
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