第27話
何故かヘンドリックと昼食を食べる事になってしまった。この際だから聞いてみたかった事を聞いても良いかもしれない。
「あの、リック先生」
「何ですか?」
「私達って昔会った事ありますか?」
一応両親に尋ねてみたがどちらも会っていないと言っていた。どうやら屋敷で会った事はないらしい。
感じる懐かしさは気のせいなのだろうか。
ヘンドリックは目を瞠り、そして表情を柔らかくする。
「私達は会った事ないですよ」
「そうてすか」
「何かありましたか?」
「いえ。リック先生には懐かしさを覚えるのでどこかで会った事があるのかなと思いまして」
変な事を言ったせいかヘンドリックは「そうですか」と呟いて俯いてしまう。
どうやら彼と会った事があるというのは私の勘違いだったみたいだ。
「あ、あの、変な事を言ってしまってすみません」
「いえ、気にしないでください」
俯いたまま首を横に振るヘンドリック。なかなか顔を上げようとしない彼に申し訳ない気持ちが募る。
どうして落ち込んでいるのでしょうか。
やっぱりどこかで会っていて私が忘れているからショックだったみたいな感じなのかもしれない。
「やっぱりどこかで会った事が…」
「ないですよ」
パッと顔を上げたヘンドリックはいつも通りの優しい笑顔を戻っていた。特に泣いたような形跡もない。
「少しお腹が痛くなってしまって」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です。さぁ、食事にしましょう」
ヘンドリックの様子がおかしい理由を知ったのはもう少し後の話だった。
他愛もない話をしながら昼食を終えると準備室を後にする。出て行く前にヘンドリックからチョコレートの包みを貰ってしまった。
笑顔で「好きでしたよね」と言って渡されたけど彼にチョコレートを好きだと教えた記憶はない。ベルンハルトが教えたのだろうか。
「どうかしたの?」
「ドンナー先生にチョコ好きって教えた事はないのだけど」
「さっき貰ってたわね。ベルン様が教えたんじゃない?」
「そうよね」
普通に考えればそうなのだ。
しかし妙に引っ掛かるのは会った事があるかと聞いた時に見せた彼の態度のせいだろう。
「そういえば、やっぱり先生とは会った事がなかったわね」
「そうね」
「様子がおかしかったけど何だったのかしら」
「お腹が痛いって言ってたけど嘘よね」
ユリアーナに尋ねると苦笑いで「分かりやすかったわね」と返される。
分かりやすい嘘をつかれても追求しなかったのは中身が大人だからだろう。聞かれたくない事があるのをよく知っているから。
「気にしても仕方ないわ」
「それもそうね」
廊下を歩きながらチョコレートを口の中に放り込む。
どこか懐かしい味がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。