第11話
入学式は何事もなく終わりを迎えた。
アードリアンの祝辞も、ベルンハルトの新入生代表挨拶も格好良かった。大半の生徒が見惚れていた気がする。妹としては誇らしいが恋人としては複雑だ。
新入生達が移動を始めました。
ただベルンハルトは新入生代表だからかまだ移動が出来ないみたいだ。
「私達は先に行きましょうか」
「私はベルン様を待つから」
ユリアーナに声をかけられるので首を横に振る。苦笑いで「それなら私も待つわ」と返された。
護衛である為の選択だ。
「今朝のアンネの行動は驚かされたわ」
「そうね。電波系の予感がするから困りものよ」
「確かに」
壁際に移動して話していると人混みの中にちらりと茶髪の少年が顔を覗かせた。
あの愛らしい癒しオーラ全開の男の子は…。
「ユリアンじゃない」
「可愛い!」
「また気にかけてるし…」
ユリアン君を見ると咄嗟に「可愛い」が出てしまうのだ。不治の病なので治しようがない。
呆れたような表情を見せていたユリアーナだったが何故か距離を置き始める。
「誰が可愛いのかな?」
「ベルンっ!」
後ろから声が聞こえて振り向くと笑顔なのに恐怖心を抱かせるベルンハルトが立っていた。ユリアーナが距離を置いた理由がよく分かる。
これは怒ってますね。そういうつもりで見ていたわけじゃなかったのに。
「あの、違いますからね」
「ん?何が?」
「好きになったりはしてませんから」
ユリアン君は相変わらず愛らしい容姿しているけど決してドキドキはしない。好きになったりもしない。
そもそも神に等しい人を好きになるわけがないのだ。
言わないですけどユリアン君は崇め奉りたい存在です。
「ふーん」
「あの、ベルン?」
「分かってるよ。でもね、彼を見ていたのは別問題だからね」
とても嫌な予感がする。
ユリアーナは「もうどうなっても知らない」と顔を逸らした。一応主人なのに助けてくれないとは酷い。
「リーゼ、どうして目を逸らしているのかな?」
「ゆ、ユリアを見ていました」
「僕と話しているのだから僕を見ようよ」
「うっ…」
相変わらず独占欲が強い人だ。
目を逸らしていたのは私が悪いけど助けを求めるくらいは良いじゃないか。
視界の端でユリアーナが馬鹿にしたように笑っているのが見えた。
「リーゼとはじっくり話し合う必要があるかな?」
ちょっと推しの姿を見ていただけなのに。
可愛いと悶えていただけなのに。
どうしてこうなったのだろうかと思っているとベルンハルトがにこりと笑いかけてくる。
その瞬間、頰が引き攣った。
「殿下、あまりリーゼを苛めないでください」
「ユリアーナ嬢は事情を知らないからそう言えるのだ」
ユリアーナの助け舟をあっさりと蹴飛ばすベルンハルト。
事情をよく知っている人物ですけどね。
そういえばユリアーナに前世の記憶がある事をベルンハルトには話していない。いつか話せたら良いのだけどそれは彼女次第だ。
「私が好きなのはベルンだけだからね」
耳元で言えば、顰めっ面が少しだけ緩む。
「後でリーゼからキスしてくれたら許してあげる」
二人きりになれたらいくらでもしてあげたい。
なれたら、ですけどね。
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