第23話

五人で話していると顔だけは知っているご令嬢が友人というよりも取り巻きみたいな人とこちらに向かって歩いてくるのが見えた。

確かドーナ侯爵令嬢ですね。

手には葡萄ジュースが入ったグラスを持っている。やたらとニヤニヤしているのが印象的だ。

あー、これは…。

やろうとする人が本当に居るのだと呆れてしまう。

どうやらユリアーナが狙いのようです。私の目の前で、愚かしい。


「ユリア」

「はい?きゃっ…」


引っ張りました。

何も言わなかったのは申し訳なかったのですが、緊急事態でしたので許してください。


「貴女は何をしているのですか、ドーナ侯爵令嬢」


ユリアーナを抱き締めながら侯爵令嬢を睨み付ける。

飲み物をかけようとしたのだから当然だ。ユリアーナに掛からなかった葡萄ジュースは床にシミを作っていく。

誰が掃除してくれると思ってるのでしょうか。


「ヴァッサァ公爵令嬢に話しかけてもらえるなんて光栄…」

「私は何をしているのですかと聞いたのです」


何が光栄ですか?ふざけないでください。


「リーゼ、程々にね。母上の目がある」

「分かってますよ。ユリア、私の後ろに居てください」

「分かりました」


申し訳なさそうな表情のユリアーナを後ろに隠してからもう一度ドーナ侯爵令嬢に向かい合います。

少しだけ冷気を出して威圧をかけますが本当に少しだけです。ですが、ちゃんと彼女とその取り巻きには届いているみたいで震えていますね。


「あ、あの…」

「ユリアは私の大切な友人です。次はないですよ?良いですね?」


問い詰めてやりたいのは山々ですがベルンハルトに言われた通り王妃様の目がありますので軽く注意だけです。

注意というよりは警告に近いですけど。

また同じ事をしたら次はヴァッサァ家が敵になりますよっていう警告ですね。


「は、はい…。失礼します」


真っ青な顔でバタバタと走って逃げて行きますがあれは淑女としてないですね。

家の名を汚さないと良いのですが…。

ドーナ侯爵は野心もなく真面目で優秀な魔法師ですからね。


「すみません、ユリア。急に引っ張って、驚いたでしょう」

「いえ、守ってくださったのですよね?」

「ユリアによく似合ってる可愛らしいドレスを汚させたくなかっただけですよ」

「またそういう事を…」


あれ、何でしょうか。

ユリアーナの顔が赤いですね。熱でもあるのでしょうか?

ベルンハルトは呆れていますね。ドーナ侯爵令嬢に対してでしょうか?


「リーゼは人を口説くのが上手いですね」

「どういう意味ですか…」


ベルンハルトに呆れたように言われるが口説いた覚えはない。彼を睨んでいるとディルクが頭を下げました。


「リーゼ様、妹を守っていただきありがとうございます」

「いえ、感謝されるようなことは何も…。しかも声もかけず腕を引っ張ってしまいましたし…」


女の子にする事ではありませんでしたね。一声掛ける余裕があれば良かったのですけど。


「妹を守っていただいたのは事実です。ほら、ユリアもお礼を言って」

「ありがとうございます。でも次からは私が守りますからね」

「私を守るなら強くなってからにしてください」


意地悪で言うと苦笑いで「分かりました」と返してくれるユリアーナ。おそらくチート持ちの私に勝てるわけがないと思っているのでしょう。剣の腕だけなら負ける自信しかないのですけどね。


「ユリアが私の騎士になってくれるのを待っていますから」

「すぐになってみせますよ」


くすりと笑うユリアーナに笑顔で頷く。


「リーゼ様とユリアーナ嬢は本当に仲が良いのですね…」


エリーアスに言われるので二人揃って笑ってみせた。

前世持ち仲間ですからね、仲良しですよ。

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