第8話

「何をしてるのですか、ベルン様…」


部屋に飛び込んできたのは婚約者ベルンハルトだった。


「リーゼ、大丈夫か?怪我は?こんな物まで付けられて…」


私の質問を無視したベルンハルトは目の前にしゃがみ込んで嵌められていた魔力封じを取ってくれた。

折角のイケメンが汗でめちゃくちゃになってますよ。

アニメで見るイケメンの汗はキラキラしてましたが現実だとそうでもないですね。

しかしそれだけ必死に私を探してくれたのでしょう。申し訳ない事をしました。


「大丈夫ですし、怪我もありません。助けが来るって信じてましたから」


笑顔で答えればベルンハルトは安心したように笑ってくれた。


「私を拐った人達は?」

「もう捕まえたよ。大丈夫だ」


やっぱり捕まってましたか。

そう思っているとベルン様にぎゅっと抱き締められた。

話が出来ないので離して欲しいのだけど。


「ベルン様、離してください」

「嫌だ」

「見られていますから!」

「見られている?誰に?」


そこに驚いた顔をしているエリーアスが居ますから。

彼に視線を向ければベルンハルトも同じようにしてくれた。エリーアスを見た瞬間、顰めっ面になる彼に首を傾げる。


「あいつは…?リーゼ、何もされてないよね?」

「されてませんよ」

「胸元が乱れてる」

「ペンダントを取り出したんです。ベルン様こそ変なところを見るのはやめてください」

「ご、ごめん…」


大体どう見たって同い年くらいの子で同じように被害者にしか見えません。

このマセガキさんは何を想像してるのでしょう。


「あ、あの…」

「君は誰ですか?」


今更口調を戻しても仕方ないと思うのですが、ベルンハルトがそうしたいならそうさせておきましょう。


「エリーアス・フォン・シュタルカーです…」


ベルンハルトはすぐに彼が誰の息子なのか分かったのでしょう。

驚いた顔をする。


「シュタルカー侯爵のご子息ですよね?」

「はい…。えっと、貴方は」

「ベルンハルト・フォン・シュトラールです」

「ベルン……ハルト……王太子殿下?」


そりゃあ、驚きますよ。

普通こんなところにやって来ない人ですからね。


「そうです」

「でも髪の色が…」

「今は髪の色を変えていますけど本来は金髪です」

「じ、じゃあ、リーゼは…」


エリーアスがゆっくりとこちらを見てきた。

流石に私の正体もちゃんと明かさないと失礼ですね。

ベルンハルトの腕から抜け出して、淑女の礼をする。


「改めまして私はトルデリーゼ・フォン・ヴァッサァ。ヴァッサァ公爵家の娘でございます。私も髪の色を変えていますが本来は銀色です」

「私の婚約者ですよ」


それを今伝える必要ありますか?とベルンハルトを見下ろした。

それから私達が婚約している事は国中に知れ渡っている。平民でも知っている事を高位貴族の彼が知らないわけがない。

言う必要のない事なのだ。


「それ、今は関係ないですよね」

「……それはどうでしょう」


意味深な事を言うのも、もう一度抱き締めようとするのもやめて欲しいです。


「そっ、か…。リーゼ……いや、トルデリーゼ公爵令嬢…」

「リーゼで良いですよ」

「でも…」

「リアス様は私の友人です。リーゼと呼んでください」

「友人…。分かりました、ありがとうございます」


さっきまで普通に話せていたのに急に距離が出来ると寂しい。しかし友人だと認めてくれたみたいなので今は良しとしますか。

また抱き締められましたよ。

もちろん犯人はベルンハルトです。


「リーゼ、浮気ですか?」

「くだらない事を言わないでください」


十一歳の子供が浮気を気にしないで欲しい。


「じゃあ、こんな風に抱き締められるのは私だけですか?」

「私を抱き締める人なんて家族以外だと貴方だけですよ」


婚約者以外に抱き締められるって事があったら大問題だ。


「そっか」


なんで満足そうにするのですか。

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