第5話
「ん…」
目を覚ますと真っ暗な部屋だった。
ちゃんと私を誘拐してくれたみたいですね。
それにしても頭が痛い。あの時に嗅がされた変な匂いのせいだろう。
「さて、あの人たちの目的が分からないと帰れませんね」
わざと誘拐されたので別に焦ってはいない。
テディベアのお店を出た時に聞こえてきた妙な会話を思い出す。
『あの嬢ちゃんたちなら高く売れるぜ』
『そろそろ金が尽きそうだからな』
『外に出てる良さげなガキを攫って連れて行けば金を貰えるなんて楽な仕事はやめられねーよ』
『どうせ拐って売った後は俺らに関係ねーしな』
私を誘拐したうちの十人の中にその会話をしている人は居なかった。
フィーネに見張らせていたからだ。
彼女には「わざと誘拐されるので夕方まで助けを来させないように。私は影を連れて行きます」と指示を出しました。
フィーネは私と一緒に彼らの会話は聞いていたはずですからね。察し能力の高い彼女なら私が彼らの目的と拠点を探りたかった事はすぐに分かったはずです。
おそらくユリアーナも同じ事を考えていたのだろう。
今回は譲ってもらいましたけど。
ここの外には影と呼ばれる隠密の人達が待機している。
彼らの存在は魔力で分かるようになってるので魔法って便利ですね。
私が誘拐された理由は公爵家の令嬢だからだ。
高位貴族の人間を誘拐するのは重罪になる。
捕まった彼らに対してはそれなりの取り調べが行われるだろう。
もし私が彼らの目的を探りきれなかった場合でも安心というわけだ。
他の人に依頼して彼らに探りを入れても良かった。
ただ同じ手口で何人も誘拐しているようだったので尻尾を掴む前に別の被害者を出したくなかった。他の人を被害者にするくらいならと自分が捕まる事にしたのだ。
「おそらく人身売買をしている人達だろうけど…」
「その答えじゃ半分くらいだよ」
後ろから聞こえてきた声に吃驚する。
振り返ると小さな女の子、いや服装からして男の子が膝を抱えて座っていた。
見張りではなさそうですね。
あれ、この子…。
緑色の髪を見て、知っているような気がするのに思い出せない。
「大丈夫?ずっと眠っていたみたいだけど…」
男の子が声をかけてくるので頷いて答える。
「薬で眠ってたみたいです」
「そっか。あぁ、大丈夫。あいつらは君に変な事してなかったよ。大事な商品になるから」
大事な商品。
そういえば拐って売った後は自分たちに関係ないって言っていた人が居ましたね。
しかし人を買うとしたら結構なお金が動くはず。貴族か大商会の人間でしょうけど、バレたらすぐに捕まりますよ。
この国は非合法な人身売買に関わったら身分関係なく重罪になりますから。
ちなみに犯罪奴隷は居ますし、買えます。
ただ彼らは重罪を犯し国によって裁かれた人間です。
犯罪者なので買われるまでの間は国が管理しているし、買われた際は主人に反発しないように厳しい行動制限が掛けられる。破れば全身に激痛が走る魔道具を付けられるのだ。
それにしてもどうやって私を商品にするのだろうか。
漫画や小説によくあるパターンなのでしょうか。
「子供を拐っているのは闇オークションで売る為ですか?」
闇オークション。
簡単に言うと表向きに扱えない商品を売る場所です。
人を売るのにもってこいの場所でしょう。
漫画とか小説でよく出てくるものです。
「正解」
ニヤリと笑う男の子。
どうして彼は闇オークションの事を知っているのでしょうか。
「貴方は何故その事を知っているのですか?」
「内緒」
にっこりと微笑まれて誤魔化されてしまう。
「ところで君は誘拐されたの?ついてないね?」
どうやら教えてくれる気はなさそうだ。
それは犯人達に聞くので良いです。
それよりも誘拐された相手についてないと言って笑っている男の子の方が気になる。
怖いですね。普通の子供だったら泣いてますよ。
「残念ながら誘拐されたわけじゃないですよ」
誘拐されましたけど自分の意思で来ているので誘拐ではないですね。
「じゃあ、君も捨てられたの?」
君も捨てられた、ね。
彼がここにいる理由がなんとなく予想出来たけど部外者が余計な詮索をするべきではないのだろう。
「自分の意思でここに来ました。わざと誘拐されたんですよ」
「は?」
結局誘拐されたって言っちゃいましたね。
だって言わないと一人でやって来たみたいに聞こえるじゃないですか。
「私を拐った人達の言動が気になったので、どのような目的があるのかと思って」
「調べるためにわざと誘拐されたの?」
「私が拐われなければ他の人が被害者になるじゃないですか。未然に防げるなら防ぎますよ」
馬鹿でしょ、と呆れられました。
普通に考えれば馬鹿ですが私は大丈夫です。
「なんとでも」
「……ねぇ、君、名前は?」
「人に名前を聞くなら自分の名前を名乗ってください」
「僕は…エリーアス・フォン・シュタルカー。シュタルカー侯爵家の息子だった」
それ、攻略対象者の名前じゃないですか…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。