2話――大層なイケメンに拾われました。

 カッカッという聞き慣れない鳴き声に、目を覚ました。


 ん? カッカッて何?


 数瞬遅れて目の前に広がった光景に、脳が一気に覚醒して飛び起きた。


「何ここ……どこ?」


 背中に冷たいものが流れ落ち、思考がぐるぐると空回りした。

 ふかふかの大きなベッドに、広い部屋。

 家具も見馴れないものばかりで、なんか高そう。

 どうみても自分の部屋ではない。

 そして、私が今までに訪れたことのあるどの部屋でも無さそうだ。

 一瞬ラブホかと思ったが、一緒に行く相手などいないことに自嘲し、無駄にへこんだ。

 とにかく状況を整理しようと思い、ベッドを降りると近くの窓へ移動する。

 開けてみると、気持ちの良い風がふんわりと頬を掠めてきた。

 すぐ下には色とりどりの花が咲く庭が広がり、敷地の奥には森が、その向こうには湖かはたまた海が広がっている。

 どこぞの高級避暑地のような景色に、自分の置かれている状況をしばし忘れた。



 ガチャ

 扉の開く音で我に返った。

 振り返ると、若い男性が二人とメイドさんらしき女性が入ってきたところだった。

 三人とも驚く程の美形で、男性二人はモデルでもしているのかと思う程のルックスと身長だった。

 男性に対する免疫が全く無い私は、「おはよう」と近付いてくるその人をじっと見つめてしまっていた。

 側までくると、ふんわりと笑みをまとって語り掛けてくる。


「身体はもう大丈夫かな?」


 何故だかほっとするその声に、口が半開きになっていることにも気付かずコクコクと頷く。

 彼は良かったと笑みを深くし、メイドさんが持っていたお粥らしき食事の乗ったトレイを、ベッドサイドのテーブルへ置くよう指示をした。


「まずは冷めないうちに食べるといい。話はそれからしよう」


 先に状況を知りたいと思ったが、トレイに視線を移した途端に、きゅるきゅるとお腹が鳴ってしまい笑われたので大人しくいただくことにした。

 食事中隣に座ってずっとニコニコ見られ、かたや立ったまま無表情で見下ろされ、とても恥ずかしい思いだった。が、空腹には勝てなかったようで、そんな恥ずかしい思いをしながらにも関わらず、あっという間に食べ終わってしまった。


 メイドさんが食器を持って部屋を出て行くと、ベッド横の椅子に座り直した年上の彼が自己紹介してくれた。


「私はアルク・ローヴェン・アルカン。このアルカン家の一族の者だ。アルクと呼んでくれてかまわない」


「俺はレン。レン・オークス・トワイス。アルクさんの元で勉強させてもらっている」


 名前を聞いてはっとした。

 そう

 あの美しすぎる女神様との会話を思い出したのだ。

 アルクさんもレンくんも名前の通り日本人では無い。見た目もアルクさんは茶色い短髪に青灰色の瞳、鼻も高い。レンくんは更に短いブロンドにエメラルドグリーンの瞳をしている。

 メイドの少女はオレンジっぽいブロンドに紫がかった瞳をしていたのだ。

 ここは地球ですらない。異世界なのだ。

 そうだ

 私は一度死んで、こちらの世界に転生したんだった。

 名前を聞いて黙り込んでしまった私を心配したのか、アルクさんが顔を覗きこんでくる。レンくんはその場を動かずこちらを伺っているようだ。


「大丈夫か?」


「あ…はい、すいません」


 姿勢を正して二人へ向き直る。


「私は仲里えみです。助けて頂き、本当にありがとうございます」


 ペコリとお辞儀をして顔を上げると、頭に?が浮かんだ二人が目に入った。

 慌てて名前はえみだと言い直すと、可愛い名前だとふんわり笑う。

 国民的アイドル並みの微笑に殺傷能力抜群だと独り悶える。今のところ殺せるのは私だけだろうが。


「聞かない名だけど、えみはどこから来たんだ? …それに…」


 そう言葉を切ると、あろうことか私の髪へ触れてくる。

 人生において一度も経験したことのない出来事に、びっくりしすぎた心臓が盛大に暴れている。


「黒い髪に黒い瞳。……初めて見た」


 美しいなと一房手に取られてしまった。

 確かにサラサラのセミロングはちょっと自慢だけど。そんな風にストレートに見つめられると顔を上げられないのですが……


「ああああの、頭洗ってないので……汚いですから……」


 イケメンの手が汚れます!!


「これは失礼。…あまりにも美しくて、つい、ね」


 神々しい笑顔と仕草にやられて顔を真っ赤にしていると、戻ってきたメイドさんに熱が上がったと勘違いされ大層心配されてしまい、大変心苦しい思いをしたのだった。

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