第2話 TWP

 バイクに跨り漕ぎ出すと、心拍数を感知したスマホが朝のニュースを流し始めた。


「それではまず、最新のニュースからお伝えいたします。昨日発生した代々木公園での鳥のクラスターは、昨晩公園外周に噴霧するTWP濃度をあげることで感染拡大を防いでいます」


 TWPとは、Tears(催涙)Weakness(脱力) Paralysis(麻痺)の略で催涙スプレーのように使われる、リキッドタイプの薬品だ。効果はその名の通り、目に入れば痛みと涙で視界が奪われ、吸い込んだり粘膜に触れれば筋肉が弛緩する。濃度が低いものは、ゾンビ化した動物に対して最も有効な護身用グッズとして一般に浸透している。


 代々木公園に噴霧するような公的に使われるものは、斗真が所持しているものと同じ、製品化されたもので最高濃度のSタイプである。斗真はニュースを聞きながら腰のベルトに目をやり、マウススプレー程度の小型のボトルがあること確認した。

 

「国立感染研究所によると、高濃度TWPは近隣住民への影響が大きいことから、昼間は濃度を下げ夜間のみ引き続き高濃度を噴霧し、感染した動物のさらなる感染を防いでいくよう対応をとるとのことです」


 SタイプのTWPの威力は、直接の吸引や接触でライオンや象といった大型動物の行動を奪うことが可能である。猫や犬なら呼吸不全を起こし、最悪の場合死に至る。製品化されているとはいえ、危険性が高いことから一般には出回っておらず商品化はされていない。斗真のような特殊な仕事につくものにのみ、ごく少量が配布されている。


 斗真は、スプレーが配布された時を思い出した。


 大規模な対感染動物作戦で用いられるという、銃型のスプレーを配布されると思っていたので、小さなボトルを目にして呆気に取られた。「我々は、単体を的確に狙い撃ちする必要はない。風向きを読み、逃げながら背後の動物に使うのが正しい。任務を忘れるな」そう言われて、突き出された拳から、手のひらにSタイプの小型スプレーを受け取った。


 飽くまで任務遂行のためであり、護身用のTWPだった。


 そして、それすら滅多に使うことがないほど、世界は平穏日常を取り戻しつつあった。

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