第3話 ルーンフォークの女の子を拾いました、可愛いですね!

「じゃあ実戦やんぞ、片道の電車賃と数日分の宿代やるからチンピラの5人ボコって金毟って帰ってこい。期日無しな、金無くなったら負けたやつから剥ぎとれ」


「頭に蛆でも湧きました師匠?」


「……ノルマ10人に変更な」


「は?何言ってんのこのおっさん?(すいませんでした)」


「うるせぇ、本音でてんぞ馬鹿弟子。発勁鎧貫き魔力放出魔力撃ポンポン使ってくる変幻自在奴ならそこらへんのボンクラに負けるわけねぇだろうが、ついでにうちの名前も広めてこい。ボコった奴が生きてたらうちの道場の流派を名乗れよ」


「めんど…………」


 あれよあれよと気がつけば、師匠の家に転がり込んで3年くらい。半人前5lvくらいの格闘術と、そこそこ4lvくらいの召異魔法、あとは密偵スカウトとか野伏レンジャー練体士エンハンサーの技を少し学びました。

 多分そこらへんの冒険者くらいだったら余裕でボコれるでしょう、多分。


 まぁという訳で道場を追い出された私は駅まで行くと丁度着ていた電車に乗ってすぐに移動しました。たどり着いた先はキングスフォール北東に存在するトライネヤ駅別の市街区。服飾系の工場や店が多く、ファッションの最先端として有名ですが、外縁部にはそれなりにチンピラも多い……というか屑鉄の街とほぼ治安が変わらない場所ですのでここなら問題ないでしょう。


 師匠から“あ、犯罪組織の下っ端とかいるけど気にしなくていいぞ”とか不穏なことを言われましたが問題ないでしょう、うん。


 そして駅から走る全力移動する事10分ほど、段々と町並みが荒んだものになってきたというところで足を止める。ふむ、路地裏には明らかに悪そうな人が沢山、しかし先制攻撃で殴ればこんな場所でも万分の1の確率で官警ポリ公にしょっ引かれて監獄ブタ箱行きでしょう。


 なので腰にこれ見よがしに財布をぶら下げてそこら辺をとことこあるき、バカな女児を食い物にしようとする悪党の顔面をボコボコにする作戦でいきましょう。


 まぁ私ナイトメアですし、歩いてるだけですぐにアレな方々が殴りかかって…………来ませんね……おかしいな。

 スラム街の中程まできて路地裏を歩く事1時間、誰も襲ってこないどころか声を掛けてくる人すらいない始末。


 はて?何かダメだったのだろうか、じゃあここらで全裸にでもなって歩き回れば変態が襲って来るだろうか?流石に嫌だな、どうしましょう。


 さらにてくてく歩く事三十分、何という事でしょう目の前には袋をかぶせられて連れ去られようとしている女の子が一人いました。よし、どう見ても悪い人ですね、丁度いいので先制攻撃です。


「とぉーう」


 誘拐に必死で全然気づいていない男の後頭部な挨拶がわりの飛び膝蹴り魔力撃を決める。召異魔法由来だからか、赤黒い魔力を纏った蹴りが推定人攫いの頭を陥没させる。男は一瞬で昏倒、仲間らしきもう一人の男がこちらに気付いたのか、咄嗟にナイフを抜いて応戦しにかかる。


「そりゃ」 


 振りかぶられたナイフを迎撃する様に拳の二連打、左ジャブで怯んだ隙に最後の1発には魔力を乗せたストレートを撃ち込む。

 ばきゃ、と頭蓋骨の割れる感触が拳から伝わり、ノックアウトを確信。その通りに男二人は地面に倒れ伏した。


「……あっ」


 ……と、ここまでやって気づく。


 ────やっべー、これ、死んでません?


「……………………まぁ人攫いですし、大丈夫でしょう。うん、いけるいける」


 埋めるとかしたほうがいいのでしょうか。久しぶりに師匠以外の人間を殴ったので力加減を間違えてしまった気がします。


「あ、それより」


 地面でもぞもぞ芋虫のように這っている人に被せられた袋をひっぺ剥がします。あら美人、背は150cmほどで綺麗な蒼い瞳に長い黒髪と、なるほど拐われてももおかしくなさそうな可愛い女の子ですね。


「元気ですか?喋れます?」


 猿轡と両手両足を解いて立たせる、服装は簡素だが汚れている訳でもなくスラムの住人にしては綺麗な風体をしている。


「はい、では失礼します」


「はい、どうも……いやいやいや、待ちなさい」


「……?」


「首傾げてんじゃないですよ、一人で歩いたらまた拐われますよ。家はどこです、見た目からしてここら辺じゃないでしょう」


「家はありません、先程生まれたので」


「……ルーンフォークですか貴方」


ヤー、地下に埋まっていたジェネレーターから偶然転がり落ちた所、先程の方達に捕まって担がれていました」


 なる程、ここキングスフォールには魔動機文明時代の遺産が幾らでも残っている。魔動機文明時代、かつて蛮族が作った人造人間であるタロスや擬似的な魂を持つフィー、そして魔法王の作り出したホムンクルス達を参考にして生み出した最新の人造人間ルーンフォーク達をするジェネレーターは都市の各地に点在している。


「つまり偶然稼働しちゃった奴から転がり出てきたと」


「是、ジェネレーターから自立してからの生存時間はおよそ2時間です」


「えー、困りましたね……」


 実質赤ちゃんじゃないですか、いや私より背が大きくて大人に見える赤ちゃんというのも困りますが……あ、もしかしたら初期から何かしらの技能が刷り込まれている人だったらしますかね?なら……。


「ずばり、あなたの出来ることは何ですか?」


「銃の使い方、魔動機術、家事および夜伽の作法などを最低限身につけています」


「わぁ、。……うわぁ……きな臭くなってきましたね」


 嫌な予感を感じながら、先程殴り殺した事態を漁る。あ、やっぱり、揃いのが何個か入れられてますね。


 犯罪組織『蜘蛛の巣団』……ヤクザよりは愚連隊とかそこらへんに近いんですかね?屑鉄町近くの高炉辺りにヤクザ組織があるのは知ってますが。


「さて、そこの赤ん坊ルーンフォークさん」


「私は個体名としてアンジェリーナという名前が当てられていますが」


「自己紹介どうも、私はイリーナです。ではアンジェリーナさん、悪い人達に無給でこき使われて捨てられるのと怪しい幼女についていくのどっちがいいです?」


「後者でしょう」


「よし、私的に面倒な方を選びましたね? では早急にこいつらの財布を取って逃げますよ」


「了解しました、鎧などはどうしましょう」


「嵩張るので放置で、アクセサリーとかなら持って行ってもいいですが」


「特にありません」


「ヨシ!撤収!」


 無表情で頷くアンジェリーナの手を取ってその場から逃走する。このあたりの事件に官警や冒険者の捜査なんて入らないでしょうし別にいいんですが、殺しちゃったのが『蜘蛛の巣団』っていうのが厄介なんですよねぇ。


 最近どんどん食い詰め者を取り込んで組織の拡充が進んでる組織らしいですが……ぶっちゃけ手の広げ過ぎで大規模にガサ入れされて死にそうって噂も聞きますし、ついでに変な事に巻き込まれる可能性が高いのであんまり手出ししたくないんですよね。しかもあいつら身内殺されるとしつこいらしいですし。


「……ん?もしかしてノルマ10人達成が簡単に出来るのでは?」


 そこまで考えてふと思いつくこの子を囮にすれば簡単に殴ってもいい人が集まるのではないでしょうか?……いや、もっといい方法がありました。


「ストップです、やっぱり戻りま……いや、何処かでロープを二本調達しましょう」


「……何をするつもりですか?」


「あなたも手伝ってくださいよ、多分私じゃ背が小さくてと思うので」


 ──1時間後、スラムで最も人通りが多い通りに生えていた一本の街路樹に蜘蛛の刺青をした裸の男達の死体が二つぶら下げられ、血文字で『バーカ』と書かれた貼り紙がされていた。


「いやー疲れた、人間って重いですね」


「ロープの結び方はこれでいいのでしょうか?」


「適当でいいですよ適当で」


 そう、名付けて『ワクワク、死体をぶら下げて囮にしよう大作戦』です。


 これで彼らが浮き足立てば明日の今頃にはあちこちにそれっぽい人が現れるでしょう。シンプルにして最高の作戦を作り出してしまいましたね。


 まぁなんか周りの人が遠巻きにこっちのことを見てビビリ散らしてますが別にいいでしょう、減るもんじゃないですし。


「私の認識が正しければこれは犯罪だと思われますが」


「いいえ、捕まらなきゃ犯罪じゃないです」


「なるほど?」


 と奪った財布の中身を数えながら首を傾げているアンジェリーナに「そういうものですよ」と相槌をうつ。


 官警はスラムまで入って来ないだろうし、それにどうせ捕まるならやるだけやったほうが得である。私の予想だと一日すれば小競り合いがあちこちで起こるでしょうけど……それまで暇ですね、あ、そうだ。


「────さて、では事が動くまで暇なのでショッピングでもしましょうか」


 せっかくのトライネヤ駅区ですし、環状線の内側でおしゃれな服でも買っていきましょう、アンジェリーナこの子の服装も簡素なものですし変装がてらいい感じの服を見繕うのがいいでしょう。

 私も今は師匠がくれた微妙に丈が短い胴着だけですし、臨時収入戦利品をパーッと使ってそのあと綺麗な宿屋にでも泊まりましょう。


 と、まで考えたところで袖をアンジェリーナに引かれる。振り向くと彼女は首を傾げて怪訝な顔をしている。


「質問です、人族は何かを殺めたりする事に罪悪感を覚えたりするものとされていますが、あなたはそうじゃないのですか?」


「あ、罪悪感とかないですよ、私的に罪とか悪とか言い出した人は多分相当つまんない人だと思うので。それにほら、知ってますか?人間っていつか死ぬんですよ、ちょっとショートカットされただけじゃないですか、誤差ですよ誤差」


「なるほど、貴女は結構最悪な人だと理解しました」


 無表情だった顔に少し困ったような笑みが浮かぶ。おや、結構可愛いですね。


「お、正解です。ちなみに友達とかが死んだら悲しむし復讐もするダブルスタンダードですよ。ええ、信念も恥も無いのが長所ですのであしからず!」


「とてもわかりやすくて良いですね。では友達になりましょう。その方が私の安全安心だと判断しました」


 そう言ってアンジェリーナは笑顔で握手を求めます。おお、何と正直な。いいですね、こういう正直さは好感が持てます、しかも可愛い女の子ですので仲良くなるのもやぶさかではありません。


「ええ、是非。あと5年して友達だったら恋人になってもいいですよ」


「中身に見合わず顔はよろしいと思うので、やぶさかではありません、では末長くよろしくお願いします」


「あら、意外な高評価。期待しちゃいましょう」


 二人の手が重なりギュッと握手をします。もしかしたら案外気が合うのかもしれません。あ、私が赤ん坊レベルって話じゃないですよ?

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