EP21 自由に捧ぐ闘争 ―2―

 それから数日たった後に、集会が開かれた。


 パンテオンで開かれたそれにはローマ中どころか半島中から人が集まり、建物の中には人が収まりきらなかった。


 演台にルキウスが立つと、数秒の沈黙を経て話し始める。



「我々のローマはどこにいっただろう?


 太古、貧民が主役だった帝国は誰が奪っただろう?


 我々に存分に与えられていた、パン! サーカス! そして何よりも自由はどこに連れ去られたのか?


 しかし我々が求めるものは、パンではない!


 もちろんワインでもサーカスでもない!


 諸君にはっきり言っておくが、民需品バターは我々を太らせるだけだ。


 もはや屠畜する家畜もいなくなった肉屋に聞こう。太らせた家畜はどうする?」



 貧しい身なりの男が「殺す!」と叫んだ。



「その通りだ”同志”。


 我々の仕事は太ることなんかじゃない。もっと大事なことがあるだろう?


 そうだ! 我々は帝国の持ち主が誰か、奴らに叩き込んでやらなければならない。


 武器を取ろう同志諸君!


 あらゆるラティフンディアを略奪し、すべての邸宅から富を奪い返そう。


 橋の下で飢えに苦しむ老婆は武器を取ろう。


 パン屋の列に並び疲れた少年は武器を取ろう。


 解雇され路頭に迷う従僕は武器を取ろう」



 徐々に熱を帯びていく演説に多くの民衆は引き付けられた。



「我々は死を恐れるだろうか?


 否!


 我々は死を恐れない。我々が真に恐れるのは自由の死だ。


 我らはむしろ理性を崇めよう。理性は恐怖を飼いならす。


 理性は正義を強靭にする!」



 聴衆の幼い女の子が泣き出してしまった。その異様な空気にあてられたのだろう。


 だがルキウスの語調が弱まることはない。観客はますます熱狂し、やがて一つの方向イデオロギーに収束していく。



「いつか、我らの子孫が我々に感謝するように。


 いつか、ローマの七丘が世界の自由の象徴となるように。


 いつか帝国の民が羨望の眼差しを持って見られるために。


 今日我々の血を流そう」



 ルキウスは完全に熱狂した市民を見て満足し、彼らに最後の後押しを与えた。



「我々はもはや反乱軍などではない。


 祖国パトリアのために戦う者。すなわち愛国派パトリオットだ!


 私は愛国派パトリオットの集団である帝国国民党を組織する。帝国のために血を流す覚悟があるのならこの旗の下に集え!


 国民党がこの帝国を掌握したのなら、帝国はその伝統を復興させ、歴史に輝かしい1ページを刻むだろう」



 ルキウスはここで一度言葉を区切った。



「しかし、もしもここで我々が敗れたのなら、世界は破滅に向かうだろう。


 我らが倒れた後、憂いの都があるだろう。


 我らが倒れた後、永遠とこしえの苦慮があるだろう。


 我らが倒れた後、滅亡ほろびの民となるだろう」



 そして、ロード・オッピウスはその最後の使命を果たす。引き金はこれをもって引かれる。二度と後戻りは叶うまい。


 だが、その引き金を引くために、ここまで殺してきたのだ。


 ……だから、すでに後戻りなど、できなかった。


 迷うのも、焦るのも、何もかもが遅かったのだな。そう頭の中で呟いて、ルキウスは扇動を終わらせる。



「我らの後ろに道はなし。前進と加速だけが我々に勝利を与える。


 諸君! 今日、ここで、世界史は変わる! 変えられる!


 共に誓おうではないか。


 我々の政府が樹立されるその日まで、我々は決して解散しない!」



 民衆は大きな歓声を上げた。


 ルキウスの演説は成功し、目的も達せられることだろう。


 これから先は皇帝と、アレクシウスの仕事だ。まだまだ人は死ぬ。


 人を救いたいと思う組織が、これほどの人を殺す矛盾に苦しまない時間はない。だが、もう仕事は終わりだ。


 戦後に向けて、足場を固めなければならない。すでに反元老院運動を展開する指導者は数人現れている。彼らとの闘争は避けられないだろう。


 だが、帝国の主導権は七つの丘のものだ。犠牲の代償は必ず受け取る。ルキウスは目を細めて大衆を見つめた。


 だから、そう。死んでも仕方がない命など一つもないはずだった。

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