ふんわり・のんびり
深町珠
第1話 twinkle 1 2000/2
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[evergreen]
昼休みの学校。
ざわめき、賑やかし。
躍動するエネルギィ、とめどなく。
あふれる、「若さ」がそこにある...。
桜、未だ開花せず。
ひとりの少女が、中庭で陽射しのなかに。
目深に断ち切られた髪。
ストレートのロング。
普通の「制服」なのだが、どことなく清楚。
そんな雰囲気が、内面から滲み出るようだ。
少女の側の立ち木に、ひよどりが。
梢で、囀る。
「hi-yo hiyo hhi〜yo...」
少女、笑顔に。
「ひーよ、ひよ、ひよ」
鳴きまね。
「hi-yo hiyo hhi〜yo...」
小鳥は、さえずりを返す。
「あ。つうじたわ!」
「ひーよ、ひよ、ひよ」
「hi-yo hiyo hhi〜yo...」
「ひーよ、ひよ、ひよ」
「hi-yo hiyo hhi〜yo...」
・
・
そんな事を、繰り返す。
少女は、いつしか回想していた。
怪我をしていた、いたずらカラス。
翼をいため、傷ついていた。
手負い故、防御のために頑なに。
それが、ヒトには「悪戯」と。
そうじゃない、そうじゃない!
あの子は、寂しいだけなんだ。
少女には、よく理解できた。
自身に良く似た、「ひとり」のカラス。
いつしか、「ふたり」はうちとけあって。
気持ちの、伝わる、「ともだち」に。
「...クロ、元気にしてるかな..。」
ひよどりの、小気味よい囀りが失せ、
ふいに、飛び立つ。
「...あ...」
「...いっちゃった...。」
なにげなく、振りむく。
しなやかな髪が、さらり、と揺れる。
少女が、ひとり。
古典的な文学少女、といったタイプ。
髪を両肩のあたりで、リボンで束ねている。
水晶のように、透明。という印象。
歩調は、ゆっくりと、静かに。
歩いて来る。
「....あ....。」
「こんにちは。」
澄み切った秋空のような美声の、彼女。
ペーパーバックを胸に、柔和に微笑む。
眼鏡の奥の視線、嫋やかに。
「鳥と、お話ができるんですね...。」
「ぁ...見ていたんですか...。」
消え入りそうに、つぶやく彼女。
俯く。赤面。
耳まで、赤い。
「素敵、ですね。」
お下げの少女、穏やかに。
「.....ぁ...ぃぇ...。」
言葉が、でない。
未だ、俯いたまま。
いくらか冷たい、春風が。
リボンを揺らし、駆け抜ける。
内気な少女は、俯いたまま。
彼女の髪も、靡いてゆれる。
「もう....。」
「....ぇ....。
Aです、ね...。」
「...........。」
「...........。」
・
・
・
やわらかな光線が、ふたりを包む。
昼下がりの、校庭。
「...ずっと...。」
「..一緒なら..いいのに...。」
「そうです、ね。」
・
・
・
予鈴の鐘が、優しく響く......。
[作:shoo 2000/1 ]
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[ふたりのホワイトクリスマス]
今日はクリスマス・イヴ。
僕は、ひとりでパーティーに。
人気の少ない公園通り。
冬枯れのポプラ並木に、電飾。
花が咲いているみたいだ。
街路に、鈴の音が聞こえそう。
でも、僕は....。
なぜか、さびしくなってしまう。
コートの袖から、冷たい風が。
あの娘が転校してからの、歳月。
想い出。
「どうして、泣いているの...?」
「泣いてなんか、ないモン。」
・
・
・
・
・
・
「知ってるか?転校...したんだって。」
「!」
・
・
・
「あ。電話くれるなんて....。」
ちいさくて、赤ちゃんみたいに柔らかい手。
おかっぱの髪型。
ちょっと、甘えたようなわがまま。
ひとつひとつを、思い出す。
革靴の音が、エコーをひいて。
冷えた空気を響かせる....。
コートの裾から、冷気が凍みる。
水銀灯が、冷え冷えと。
こんな気分は何だろう。
空気が、重い。
「・・・。」
誰かに、呼び止められた様な。
振り返る。
気のせいか。
向き直す。
そこに、碧の黒髪の君。
「...。」
「えへ、きちゃった。」
「きちゃったって...。あんな遠くから。」
「あなたに、あいたくて.....。」
・
・
話したい、大事なことが。
たくさんあったはずなのに。
じっとこうして、みつめるだけで。
僕のこころは、それだけで...。
・
・
・
「送るよ。こんな夜に、一人じゃ...。」
「あ、だいじょうぶ。駅までで。」
「じゃ、駅まで。」
「....うん。」
二人ならんで、歩く。
久しぶりだな、こうするのも。
不思議と、寒さを感じない。
・
火照った頬に、さわやかな感触。
「....?。」
空を見上げる。
・
・
・
ブルー・グレイの空が砕けて、
ひらひらひらと、風に舞う。
静かにゆらぐ Snow flakes
free-fall。
まぶしい瞳で僕を見つめる
Lady * elfin....。
Snow flake ....。
・
・
・
僕の Lady elfin。
想い。
僕を見つめる、瞳が揺れる。
ふと、視線がそれる。
「あ!」
「雪.....。」
「えへ。」
「どうしたの?」
「きょうは、ふたりのホワイトクリスマスだね。」
「...ずっと、ずっと一緒なら、いいのに.....。」
・
・
・
駅は、閑散と。
昼間と違う場所のよう。
高架のホームへ、階段を昇る。
ふたりの靴音だけが響く。
発車を示す、チャイム。
「・・・・・。」
「・・・・・。」
もっと、いろんな、いろんなことを。
ずっとこのまま話していたい。
僕と、一緒にいてほしい。
そんな想いが、逡巡している。
何を話せばいいのだろう。
言葉が、なにも、見つからない。
「....!。」
彼女の瞳が、涙で滲む。
あふれそうな、感情。
壊れそうな、こころ。
もしも、時を止められるなら。
この一瞬を、永遠に!
硝子越しに、手のひらをあわせて。
君のちいさな唇が。
「・・・・・。」
なんていったの?
もう届かない。
僕のことばも、とどかない。
ゆっくりと、列車が動く。
僕らの距離が、ひろがってゆく....。
粉雪が舞う。
赤い、テールランプが消えて行く。
夜闇に溶ける。
見えなくなった、列車の影を、
僕は、いつまで見送った。
[作:shoo 1999/12 ]
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