ゲームスキルで大人気配信者になった件

相野仁

1章

第1話「初めての配信」

 とうとうこの時間が来てしまった。

 いまから俺はVチューバーとしてデビューする。


『【バード・スカイムーブ/初配信】自己紹介枠【ペガサスオフィス/新人】』


 男のチューバーを見に来る人なんているのか?

 という不安を抱えながら配信をはじめた。


『初めまして、ペガサスオフィスの新人、バード・スカイムーブだ。自分のあいさつはまだない』


 とりあえず自己紹介からする。

 同時に黒い鳥人間というべきアバターを動かしてみた。


【コメント】

:初めましてー

:男か

:アバターからして男だろ

:ペガサス、男もとるんだな

:イケボ

:聞いていて心地いいボイス

:あいさつはまだないのかw

:開幕から草

:新人、それくらい考えておけよw


 コメントをちらっと見る。

 男ってだけで落胆している人もいるのは仕方ないよな。


 人気ライバーってたいてい可愛い女の子だし。

 それにしても声を褒められたのは初めてかも。


 スカウトをしてきたマネージャーの、「ありのままのあなたでいい。好きになってくれる人はきっといる」を信じてよかったのかも。


『いや、何を言ったらいいのか思いつかなくて。そんなの考えられるのなら、ぼっちやってねーよと開き直った』


【コメント】

:ぼっちか

:かなしみ

:開き直んなww

:草

:配信者がそれでいいのか

:あいさつ考えるの苦手なのはわかる

:あれ、俺がいるみたいだぞ?


 コメント欄を見るかぎり、意外とウケは悪くないようだ。

 本当に何も考えていないわけだが。


『配信内容はゲーム主体にするつもりだ。というかぼっちでコミュ障な俺に、雑談なんてできる気がしない』


 堂々と言い切る。

 見栄を張ってもどうせすぐにばれるだけだ。


 それがネタとして昇華できたらいいけど難しいだろう。


【コメント】

:言い切った

:草

:ここまでくるとすがすがしいな

:コミュ障サギやめろよ。話せてるじゃん

:言われてみればトークスキルはさておき、普通に話できてるな

:たしかに慣れを感じる


 何だか疑問を口にする人が増えてきたな。

 口止めされてないから答えておくか。


『ゲーム配信ならやってたことあるんだよ。前世? で。全然視聴者いなかったけどな!』


 だから俺は自分からチューバーの応募にはいかなかったのだ。

 未経験ならともかく、視聴者がいない経験者なんていらないだろうと思って。


【コメント】

:かなしい

:視聴者いなかったの?

:ゲーム配信、実況が上手かったりトークセンスがないと人気出ないよ

:あれはあれで競争が激しいからな

:「ゲームしてるだけ」は注目されずに埋もれるかも

:詳しくない奴基準で上手い配信者なんてそれこそごろごろいる


 なるほどなとコメント見て思う。

 全然人気が出なかったのはやっぱりトークとかの問題だったのか。


:というか主はゲーマー枠?

:たぶんそうだろう

:本人すっ飛ばしたけど、紹介テキスト見るかぎりゲーム好き

:先輩のボアちゃんがゲーマー仲間を会社に紹介したって前の配信で言ってたけど、もしかして?


 うん? 一応心当たりがあるな。


『ああ、何かゲーマー仲間が推薦してくれたらしい。会社からスカウトが来たんで、

面談に行ったら受かったよ。いろいろと大丈夫かな?』


 と答える。

 これは言ってはダメだとは言われてないのでかまわないだろう。


 ゲームスキルしかない俺で大丈夫だろうか。

 ゲームスキルだってどの程度かわからないんだが。


【コメント】

:マジで?

:ボアちゃんかなりガチ勢だから、主も相当な腕と予想

:そんなにすごいのか?

:今日は絶対勝ちたいってとき必ず誘うフレがいるらしいけど、それが主?

:ボアちゃん負けず嫌いだからなー。必ず誘われるならやばいかも


 ボアってのは俺といっしょにゲームやるあのフレのことかな?

 

『たぶんそう。いまは負けたくない気分だから、行ける時間帯教えてってゲーム内でメッセージが来ることがある』


 俺のフレンドもかなり上手いので、断る理由はない。

 いいスコア、いいランキングを目指すなら組んでおきたいくらいに強い。


【コメント】

:じゃあたまにボアちゃんが強い助っ人来たって言ってたの主なのか

:めちゃくちゃ強かったよな、あの助っ人

:知らないなぁ

:ゲーム回見てないときがあるから

:今日はゲームをするの?


 おっと質問が来たぞ。


『まあ配信枠いっぱいしゃべりで持たせるなんて、俺には無理だからな。ゲームをやってごまかす』


 もともと話すだけ話したらゲームをする予定だったんだ。


【コメント】

:ごまかすとか言うなし

:正直者め

:いまどき正直者は生きづらいぞ

:ゲームが上手くて馬鹿正直な鳥か

:おまけにぼっちなんだよな、主は

:しかもイケボ

:何気に属性盛ってきてるよね


 属性を盛ってる? 俺が……?

 正直よくわからないから、スルーしよう。


 コメント欄は無理に反応せず、スルーすることも大事だってマネージャーも言ってたし。


『とりあえず枠の名前とファンの呼称を決めてくれと言われてるんだけど、何かある? もちろん俺にアイデアはない』


 堂々と言い切っておく。


【コメント】

:だから情けないことを堂々と言い切るな

:何か笑えてきた

:主の持ち味としてはありなんじゃない?

:枠名か……主と絡めるんだろうし、鳥関連になるかな?

:鳥の巣

:バードルーム

:ゲーミングバード


 アイデアがいろいろと出される。

 鳥関係が多いのはそういうものなんだろう。


『シンプルに《鳥の巣》がいいかな。俺が覚えやすいし』


【コメント】

:お前かい

:まあ決定権は主にあるわけだし

:やった採用された

:おめでとう

:↑採用された人おめでとう


 悪くない感じだからサクサク決めてしまおう。


『次にファンネームなんだけど、みんなはなんて呼ばれたいんだ?』


【コメント】

:やっぱり鳥関連かな……

:鳥を保護する会

:鳥と遊ぶ会

:ぼっちを囲む者たち

:バードウォッチャー


『お、バードウォッチャーがいいかな。鳥の巣と絡めやすそうだし、俺でも覚えられる』


 他にもアイデアはあったけど簡単じゃないと覚えられないんだよな、俺。

 ゲーム用語ならそこそこ覚えられるんだけど。


【コメント】

:しまった、そういう基準だった

:まあ主のフィーリングに合わせないとな

:今度は採用されたぞ

:おめでとう

:おめでとう


『決めなきゃいけないやつが決まったところで、ゲームをやるか。今日準備してるゲームはクリーチャーバスターなんだけど、いいかな?』


 見ている人はどう思うんだろう。

 クリバスは人気タイトルだから、名前を知ってる人は多いはずだけど。

 

【コメント】

:いいんじゃない?

:狩り系ゲームはプレイヤースキルわかりやすいもんな

:上手い人の配信見るの好き

:ボアちゃんの評価がどれくらい正しいか楽しみ

:ワクワク

:グレート級をソロで行くとか?


 わりと好感触なコメントが並んでいる。

 これならクリーチャーバスター、クリバスをプレイするんで大丈夫そうだな。


 さっそくゲームをはじめよう。


 プレイヤーネームはマネージャーに言われたので、すでに《バード・スカイムーブ》に変更しておいた。


『じゃあやっていくぞ。とりあえずクエストはウルトラ級で』


 せっかくだから見ごたえあるものがいいだろうと最高難易度を選ぶ。

 もちろんソロだし、防具もなしでいいか。


【コメント欄】

:は?

:ウルトラ級ソロはまだしも防具なしだと?

:スキルどうするんだ?

:クリバス、知らないから誰か解説おねがい

:防具は単純に防御力アップだけじゃなくて、スキルを発動できるんだ

:毒を無効にするとか、疲労しなくなるとか

:ウルトラ級でスキルなしは地獄

:ちょっと待て、不屈系スキルもなしか!?

:不屈系スキルはHPが0になっても一度だけ復活できる

:不屈系スキルなしでウルトラ級は地獄

:つまりどういうことなんだ?

:防具スキルなし、不屈系スキルなしで地獄×地獄


 コメント欄ざわついてるな。


 視聴者の食いつきはよさそうだから、やっぱりスキルなし縛りにして正解だったか。


 ウルトラ級は敵クリーチャーの攻撃力があがっているので、どうせ一発でも食らったらまずいんだよね。


 だから防具なしでも大して変わらない。


 疲労すると立ち回りに影響が出るので、疲労しにくくなる必要はあるんだけど、それはアイテムを使うことでフォローできる。


 それさえあればあとはいつものクリバスだ。

 とりあえず使い慣れた剣を使って標的クリーチャーを、ため攻撃で殴る。


 あとは攻撃をいい感じに避けつつ頭を狙って攻撃をくり返し、気絶させるのだ。

 気絶している間はダメージ倍増なので、いまのうちに尻尾も斬ろう。


 ダメージ判定が大きい尻尾を斬っておくと、事故死を防げるからな。


【コメント欄】

:やばいやばい、これはやばい

:何で鬼タフなウルトラ級で気絶とれるの?

:スキルありならとれるよ。スキルなしでとってるからやばい

:マジ一発も食らわないな……このスキル構成だとたしかに一発も食らえないんだが

:尻尾から斬っていくのか

:このクリーチャー、尻尾のダメージ判定がうざいから当然

:グレート級とウルトラ級だと事故率余計に高くなるしな

:ゲーマーたちがざわついてる

:やってることは普通なんだよ。ウルトラ級のソロ、スキルなしでできてるってことが頭オカシイだけで

:ウルトラ級、一発も食らわないこと自体激ムズなんだよ

:フェイントとかノーモーション攻撃とか強化されまくるからな

:どんどん視聴者とチャンネル登録者増えてる


『ふー、ウルトラ級防具とスキルなしはミスできないから、緊張感あって楽しいな』


 無事討伐できたので満足し、視線をゲーム画面から移す。

 そして違和感を抱く。


『あれ、視聴者数が3000、登録者数が5万ってどういうことだ?』


【コメント】

:お前がクリバスでとんでもねえことやったからだよ!

:ウルトラ級ノーミスクリアだけでも地獄なのに、スキルと防具なしだからな

:誰かがツブヤイターで拡散して軽くバズった

:そりゃこんなバケモノプレイ見せられたらバズるだろ

:むしろ何でいままで埋もれてたんだ?

:上手いだけじゃ埋もれるからな……ゲームチョイスもまずかったかも?

:《ボア・ブラウンスタンプ》相変わらずヤバい上手さだね

:!?!? ボア先輩来てたのか!


『とりあえずまあ楽しんでもらえたならよかったけど』


 何だかよくわからないけど、人が増えてるってことはおそらく楽しんでくれた人がいるってことだろう。


【コメント】

:すごかった

:やばすぎて正直ちょっと引いた

:すごいを超越してやばい、だからな

:意外と自分のスキルを自覚してなさそう

:絶対このゲームスキルで採用されただろ……

:《ボア・ブラウンスタンプ》そこはバードくんだからね~

:先輩からのお墨付きがキタ

:声もいい、落ち着く

:好きな女子絶対いそう

:女子ウケする声なのか……


 何か引いているような意見もあるみたいだけど、何がダメなのかわからない。

 

『防具つけた普通のプレイって見てて楽しいか? 需要あるならそっちにしようか?』


【コメント】

:この絶妙にズレてる感じ、公式に採用されたわけだわ

:やばいプレイのほうが絶対需要あるから普通のプレイはやめろ

:戦略考えるのは苦手か、なるほど

:個人配信者だと厳しかった理由に納得

:《ボア・ブラウンスタンプ》バードくん、PS極振りなとこあるから

:先輩何気に詳しいアピールしてね?

:におわせですか?

:PS?

:プレイヤースキル、ゲームの上手さ

:解説サンキュー

:どっちかと言うと保護者だろうな

:ああ、手のかかる弟ポジションか。すとんと落ちた


 何か俺の個人配信が不人気だったことに納得されるみたいだ。

 そのわりには視聴人数が4000人に増えているんだが?


 それにボアさん、さっきから何言ってるのやら。

 保護者ヅラはやめてもらいたいな。


 いや、先輩にそんなことを言うのはまずいだろうか?


『もうちょっと時間はあるけど、このあと同期の配信がはじまるから、早めに終わることにするわ』


 ゲームするには中途半端すぎる時間だ。

 ゲームしかできない俺に持たせられるはずがない。


【コメント】

:主、やる気ねーな

:ゲームやるには中途半端なのは事実

:コミュ障に場を適度にもたせろとかムリゲーだしなぁ…

:同期の配信見たいなんて、同期思いのいい子じゃないか

:同期って女子なんだろ?

:告知見るかぎり主以外、全員女子だろうな


 俺は性別知らないんだけど、言わないほうがいいだろうか?


『同期の配信はちゃんと見てやってくれ。じゃあバイバイ』


【コメント】

:適当

:まあそれがバードくんさ

:一周まわって個性としてありかもしれない



======

バード・スカイムーブ/鳥の巣ちゃんねる

人間の作ったゲームが好きで、人里にやってきた鳥。

がんばって人間になろうとしている。

チャンネル登録者数5.02万人

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る