第12話 オペラ座に行けなかった

 今回は私の性格のダメなところがもろに出た記憶なので、あまり楽しい話ではありません。しかし旅の思い出のひとつです。自戒のためにも書くことにしました。



  *  *  *



 ヴェルサイユ宮殿の見学のあと、ツアーはパリのオペラ座の向かいにある高級そうなスーパーに寄った。


 この時、全員がバスを降りたところで添乗員さんは多数決をとった。

 オペラ座のロビーまではチケットを持っていない人も入れる。そのオペラ座のロビーか、ショッピングモールか、どちらに行きたいか?

 差し当たりどちらに先に行きたいかというふうだったが、両方めぐるには時間が押していたそうなので実質二者択一だろう。全員が同じ方へ行く必要はないが、添乗員さんは人数の多いほうに同行しようとしているようだった。


 私の気持ちはほぼ決まっていた。

 オペラ座ですよオペラ座!

 5番ボックス席でボクと握手!


 けれど、何故かみんな向かいの高級スーパーのほうに挙手した。皆の行き先はスーパーに決まった。私が皆と行くか決める番だ。


 1人でオペラ座のロビーに入る勇気は私にはなかった。

 ヴェルサイユの貴族とは言わないまでも、煌びやかな場内に綺羅星のごとく集う観客(たんなるイメージだが、当たらずとも遠からずだろう。お洒落して足を運ぶのも観劇の楽しみのうちだ)の人波に、長時間歩きやすいことを重視した服装の自分がチケット無しで紛れこむのか……と思うと気後れした。

 それにモン・サン・ミッシェル編でお気づきの方もいるだろう。私は方向音痴のくせに歩くのが速いので、あさっての方向へどんどん行ってしまうことがある。

 もし立入禁止の場所にうっかり踏み入れて警備員に咎められ、入った時とちがう出口から放り出されたら、そのまま迷子になってしまうだろう。


 皆についてスーパーに行くことに決めた。

 決めたら決めたで、何も買わないのもつまらないので、声をかけてくださったK夫妻と一緒にお菓子売り場に行った。


 K夫妻にはわるいけれど、途方にくれてしまった。とりあえず水をカゴに入れてから後は、何を見ても楽しいが、どれも欲しいと思えない。

 気づいたらK夫妻は会計を済ませて待っていてくれた。ますます何か買わないと格好がつかなくなった。私は手近なチョコレート入りのクッキーをカゴに入れ、レジへ急いだ。レジ脇にエコバッグの山と積まれたワゴンがあり、そのとき急に購買欲らしきものが湧いて一つカゴに入れた(エトワール広場の柄で、今も買い物袋に重宝している)。


 たいして気のない買い物のために待たせてしまって申し訳無い。待っていてくださった親切を素直に喜べなくて情けない。


「さしあたって買わなくてはいけないものはありませんでした」と早く言えば良かった。

 そうすれば夫妻が買い物を終えたときすぐ一緒に店を出られた。


 店を出ると集合時間で、すぐにバスに乗った。

 もう少しでも時間が余れば、オペラ座を間近に見ていられた。

 あの多数決でスーパーに挙手した人たちのなかにも買い物を早く済ませてオペラ座を見に行った人がいたのではないか……と思うと余計にくやしい。





(次回、パリ市内ドライブを楽しみます!)

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