第27話 ヨーロッパでは最後のディナー
この旅行の最後の宿泊地、ホッケンハイムにバスが到着する。
この日はサッカーのワールドカップの試合があった。バスが速度を落とすころ添乗員さんが言うには、
「さきほど試合が終わりました。ドイツの勝ちです。これから夕食となりますが、店員さんの機嫌も良いでしょう」
とのこと。
バスを降りれば、日差しは和らぎ、効きすぎた冷房からも解放される心地よい夏の夕暮れだった。薄曇りの白っぽい空だが充分に明るい。
自由都市のような時代がかった町ではない。地面はアスファルトで舗装されている。
けれど、まず目を引いたのは塔のある趣深い教会だった。バロック様式だろうか?
その庭には花壇がいくつも並び、溢れんばかりに花が咲き誇る。庭を挟むように、その教会と同じくらい立派で雰囲気も似た建物がもう一軒。
広場のような開けた空間があり、それを囲むように、今晩のレストランとホテルを含むさまざまな建物がある。
学校をオシャレにしたような印象の、何かしらの施設もある。
それらの向こうに今日泊まるホテル「ラマダ・ホッケンハイム」が見える。
壁の色は優しいパステルカラー。実際には夕焼けの時ではなかったが、真っ白な壁の夕陽を浴びたときの色を連想した。
今時分の雰囲気にとても合う色だ。
無彩色な石の陰翳やアスファルトの地面と、彩ゆたかな花々や建物の対比が鮮やかで景色の良い場所だ。
(じつをいうと、この日はどのタイミングでチェックインしたのか思い出せない。
なにしろ、レストランとホテルが至近距離にあり、どちらにいてももう一方の建物がすぐ見えるのだ。あいだにある教会の庭の花壇も美しく、歩いて行き来するのが全く面倒ではなかった。
夕食後にチェックインしたような気もするし、ホテルの部屋に荷物を置いてから夕食だった気もする。夕食後すぐに自由時間になったので、たぶんチェックインが先だろう)
この旅行では陸上で食べる最後の夕食だ。
このレストランは広くて座席数も多く、私たちのツアーの他にも何組かのお客がいた。
スポーツバーを兼ねているのか大画面のTVがあり、サッカーW杯の次の試合が放送されていた。ドイツの試合が終わったばかりだからか、観戦はさほど盛り上がっていない。
私含め、試合より料理に夢中な人々だった。
翌日訪れるフランクフルトを中心に、南ドイツはアプフェルヴァイン(林檎ワイン)が名物だそう。飲めなくはないのだが、生理中なのでお酒は控えめにした(本当に?)。
とても美味しい夕食だった。デザートのアップルパイも嬉しい。けれど量が多い。完食は無理なので、ずいぶん大きな魚のフライの、ころもの厚いところを残してしまった。
白身の魚で、たぶん平目だと思うが、あんなに大きな平目を見たことは後にも先にもない。
(しかし後日、何の時だったかホッケの話を聞いてから「ホッケのような気がする」と思えてきた。ホッケンハイムだけに……いや、そんな駄洒落みたいな!)
このレストランの奥にはビールとワインの蔵があるとか。お酒を嗜む人たちが吸い込まれていった。
ローテンブルクの塔でお世話になった娘さんは近くに寄るところがあるそうだ。
ホテルへ帰る前に教会の庭をそぞろ歩いていた。その時ちょうど近くにいた同じツアーの人たち数人と、レストランの看板を囲んで記念写真を撮った。
広場には営業していないときの屋台のような小屋が幾つもある。何かのイベントが近いのだろうか。
地元の子らしき少年がスケボーで小屋の間を駆け抜けていく。
ところで添乗員さんの話では、お酒を飲めない人にはアプフェルスコールがオススメだった。
ホテルの自動販売機に入っていたので「これか!」と買ってみた。スッキリ爽やか。好きな味だ。
明日は帰りの飛行機に乗る。空港でトランクを預けたら約20時間取り出せないし、もちろん予備のバッグもバスの座席から引き上げなくてはならない。その点をふまえて荷物の整理をする必要がある。
という状況にも拘らずホテルの部屋はとても快適だった。いろんな物が使いやすい位置にあるように感じた。
一階の部屋で、カーテンを開けると芝生の向こうは道路。用心のため、このカーテンを結局翌朝まで開けなかった。
出発前、絵のような芝生をしばらく眺めながら、またアプフェルスコールを飲んだ。
(次回、ハイデルベルグ)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます