第14話 まだまだ慣れない
ちょうど映画が終わった時、エリが俺から少し離れた。
「はい、おしまい。いっぱいチューしちゃったね」
「う、うん……」
エリに夢中になりすぎて、映画の内容なんて最初の30分くらいしか残っていなかった。
それにしてもキスをしていると時間って言うのは早く過ぎるようにでもなっているのだろうか。あっという間に1時間半くらい経っていて、時間は昼を超えていた。
「お腹空いたね、何か食べに行く?」
「な、なにか買ってきてここで食べてもいいけど」
「あれれー、まだまだ部屋から私を解放しない気だなー」
「そ、そうじゃなくて……」
キスはすごかった。もうとろけそうというよりはとろけた。
頭の中はトロトロだ。そしてあそこはガチガチだ。
しかしそんなことよりなにより、エリとこうして部屋に二人でいることが楽しくて仕方がないのだ。
ずっとこうしてイチャイチャしていたい。
だから正直言うと昼飯なんて食べなくてもいいとすら思っていた。
「じゃあそこのコンビニに行こっか。私甘いものも食べたいしー」
しかしエリはお腹が空いたようなので、一度立ち上がって二人で外に出た。
そしてコンビニに行くと、またしてもゴムが目立つところに置いてある。
「あ、この前買った奴だ。ワクミン、ちゃんとお財布に入ってる?」
「も、もちろん入れてるよ」
「じゃあ安心だね」
「うん……ん、安心?」
安心という言葉が今の会話にしっくりこなかったが、エリがさっさと行ってしまったので俺もついて行った。
「あ、エロ本だ。ワクミンのおかずはいつもここで調達してるのかなー?」
「こ、ここでなんか買ったことないよ」
「じゃあここ以外ではあるんだ?」
「……そりゃ、あるけど」
「ワクミンのエッチー」
男がエロ本を買う時は一大事だ。
家の近所のコンビニなんかはもちろん避けるし、なんなら隣町くらいまで遠征してその中でも個人が経営しているような本屋に入って他の本と一緒に買うくらいまでしないとなかなか買えやしない。
そんなハードルの高いエロ本のことをエリは恥ずかしげもなく聞いてくる。
キスの後も平気な顔してるし、やっぱりこういうことも経験済みなのだろうか……
「ねぇねぇ、ワクミンってどっちがタイプなの?」
「え、俺は……」
俺は以前まではギャルという存在があまり好きではなかった。
だからエロ本やAVはいつも清楚系ばかり。しかし今は違う。
エリみたいな子、というよりエリが超ドストライクタイプだ。
彼女が指さす雑誌の表紙には、ちょうどエリタイプのギャルと清楚系お姉さんがエッチな格好をして写っている。
「こ、こっちの、ギャルかな……」
「へー、ワクミンってギャル好きなんだー」
「お、男はみんな、好きだって」
「じゃあ私はタイプだったってこと?んー?」
どうしてコンビニ一つでこうも盛り上がれるのかと不思議なくらいエリは明るい。
そして可愛い。
「う、うん……ギャル、好きだから」
「えー私ってそんなにギャルかなー?もっとゴリゴリの子もたくさんいるよー?」
「そ、そういうのは苦手で……でもエリはタイプだから」
「じゃあワクミンのタイプは私ってわけだ。ふむふむ、彼氏としては満点の回答ね」
エリはそう言うと、買い物かごにお菓子をバサバサっと入れだした。
「そ、そんなに買わなくても」
「今日はもう少しワクミンといたいから、だめかな?」
「い、いい、よ……」
「やたー、じゃあ帰ったらゲームの続きだね」
結局昼飯を買いに来ただけなのにお菓子やジュースを大量に買って、二人でまた俺の部屋に戻った。
さっさと弁当を食べ終えると、エリがまたゲームのソフトを漁る。
「あ、これやってみたかったんだ!やろーやろー」
はしゃぐエリとこの後はずっとゲームをした。
さっきのキスはまるで夢の出来事だったかのように、ゲームをする間は一度もキスをすることはなかった。
「はー、遊んだ遊んだ。ワクミン、お部屋散らかっちゃったね」
「いいよ、ゴミ捨てるだけだし」
「でも元気になってよかった。明日は日曜日だし近くでご飯でも食べる?」
「うん、足も大したことないし。ま、また部屋でこうしててもいい、けど」
俺は正直外食がそんなに好きではない。
もちろんそれはぼっちだったからなのだが、出かけるより家で過ごす方が好きなのだ。
……なんてものは建前で、本音を言えば今日みたいに部屋で過ごしたらまたキスが出来るかも、なんて考えていた。
そして顔に出やすいらしい俺の考えはすぐにエリに看破されていた。
「ワクミン、キスしたいんでしょ?」
「ギクッ……」
「ほら、やっぱりー。ダメだよー、体目的なんて嫌われるよ」
「ご、ごめんなさい……」
「ふふっ、嘘だよ。喜んでくれてよかった」
エリがそっとキスをしてくれた。
そしてすぐに離れると、立ち上がった。
「でも、もっとワクミンといっぱいいろんなことしたいから明日は駅前でランチしよっか。私、迎えにくるから」
「うん……」
「あれれー、あんなにキスしたのにまだ照れるのー?」
「だ、だって……」
だってキスのたびにほんのりいい香りがするし、エリの顔が近くにくるだけでも心臓が破れそうになるんだから、キスなんかまだまだ慣れるわけがない……
まだドキドキしたまま、エリを玄関まで送ると「ちゃんと小説書くんだよー」と言って帰っていった。
もう夢のような時間を過ごしすぎて、一人になった後の虚無感というか喪失感は相当なものだった。
あちこちに広げてあるお菓子の入れ物を片付けながら、俺は慣れたはずのこの静けさに押し潰されそうになっていた。
しかしすぐにエリが「寂しいんでしょー?」なんてラインをくれるから、少し気分が和らいだ。
そのあと風呂に入ってから久しぶりに携帯ではなくパソコンで小説を打ち込んだ。
エリみたいな彼女が応援してくれているんだから、もっと頑張らないとなんてやる気が今日の俺にはみなぎっていた。
時々エリとラインをしながらその作業は夜遅くまで続き、気がついたら机に突っ伏して眠っていた。
そして翌朝、エリからの電話で俺は目が覚める。
「おはよー、足の調子はどーお?」
「うん、大丈夫。それより机で寝ちゃってて」
なんでもない話をしたあと、すぐに迎えにくると言うので俺は慌てて着替えて一階に降りた。
すると今日は母が休みだったようで、リビングにいた。
「おはよう京介、おでかけ?まだ体痛むんじゃないの?」
「おはよう母さん。うん、大丈夫。あ、そうだ、この前言ってた佐藤さん、今から迎えにきてくれるんだ」
母さんはドライな人間、というより放任主義な人だ。
基本的には優しい人だし別に俺も嫌っているわけではない。
ただ、俺のことに興味あるのかなという不安はいつもあった。だからエリに会いたいと母さんが言ってくれたことは少し意外だし、嬉しかった。
「そういうことは早く言いなさい、それにせっかくだからちょっとあがってもらいなさいよ」
母さんはそう言うとせっせとお茶とお菓子を用意し始めた。
そこにエリがやってきた。
「おまたせーワクミン」
「エリ、今母さんが家にいてさ、ちょっとエリに会いたいんだってさ」
「ほんと?じゃあお邪魔しまーす」
エリはさっさと靴を脱いで家にあがった。
「母さん、佐藤さんが来たよ」
「佐藤です、先日はありがとうございました」
俺が気絶して病院に運ばれた時、先生に連絡先を聞いてうちの親に連絡をしてくれたのもエリだったという。
しかし実際うちの親と、彼女が会うなんてことは彼女いない歴イコール年齢だった俺にとってはあり得なかったイベントで変に緊張した。
「佐藤さん、先日は本当に息子が迷惑かけました。どうぞ座って座って」
母さんはエリと楽しそうに話をしていた。
正直母さんと普段からあまり話をしない俺は、こんなに楽しそうに話すのを始めて見た。
エリもエリですっかり母さんと打ち解けている様子だ。
こういうコミュ力は本当に感心する。
ギャルってみんなこうなのか?
「それでこのあと二人でランチに行くんです」
「そう、じゃあ京介のことよろしくね」
そう言って母さんは俺たちに早速出かけるよう促した。
そして母さんに見送られながら俺たちはランチに出かけた。
「お母さん、いい人だね」
「そ、そうかな。俺は普段あんまり話さないから」
「ふふっ、ワクミンのお母さんなんだからいい人にきまってるよ」
楽しそうに話すエリを見ていると、本当に感心というか尊敬する。
明るくて社交的で優しくて。
それでいて美人でスタイルよくてエロいなんて、本当にこんな子と付き合っていいのかと自分の幸運を疑ってしまう。
そりゃ江藤のやつが固執するのもわかる。
それに、あいつがみんなを寄せ付けなかったおかげでエリが誰とも付き合っていなかったということなら、俺個人的には感謝しなければならないレベルだ。
最もエリがずっと困らされてきた相手なので、そんなことを思ったりはしないが。
「私パスタ食べたいんだけどいーい?」
「うん、任せるよ。俺、お店詳しくないし」
エリが先導して選んだお店は、個人経営のようなカフェだった。
中はオシャレな内装で、これまたオシャレな店員さんが席に案内してくれた。
みんなこういうところでデートとかするんだなぁと店内を見渡していると、エリがこっちを見てくる。
「ふふっ」
「な、なに?」
「んーん、なんでもない」
「?」
なんだかわからないがエリは嬉しそうだった。
そして席に座る時、また俺の横に座ってきたので少し恥ずかしくなった。
「た、食べる時は隣じゃなくてもいいんだよ?」
「あれれー、隣は嫌?もう冷めちゃったんだー」
「ち、ちがうよ……ただ、恥ずかしくて」
「私だって、ちょっとは恥ずかしいんだよ?」
エリもそう言って恥じらうような仕草を見せる。
「でもね、恥ずかしいより隣にいたいが勝っちゃうもん。だからいいでしょ?」
「う、うん……」
「それにそれにー、隣じゃないとワクミンの大好きな太ももが触れないでしょ?」
「べ、別に食事の時は……」
「じゃあ、触らない?」
エリはただでさえ際どいホットパンツを指で少し上げて俺に太ももを強調してきた。
そんなエッチでけしからん足を見て俺の手は自然に吸い込まれてしまった。
そのあとエリのオススメを注文して、あーんをしたりあーんさせたりを繰り返しながらイチャイチャランチを楽しんで店を出た。
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