しのびよるショートショートの足音【一話完結】

竹野きのこ

第1話 殺しのライセンス

 やあ、よく来たねぇ。ゆっくりしていきなさい。今日はどんな話をしてあげようかねぇ。……なに? 怖い話がいい? そうかいそうかい、それなら今日はこの話にしてあげよう。「殺しのライセンス」のお話さ。


 もちろんそんな物騒な呼び方は正式な名前じゃない。そう言われていたってだけさ。そして驚くべきは、このライセンスが殺した人の数さ。闇に葬られ、数もわからない時期もあるけれどね……わかっているところでは、実に年間で1万人以上の人が命を奪われたって話さ。この国だけの数字だよ? すごい数字だろう。


 ぐちゃぐちゃになったり、ぺちゃんこになったり……殺された人間は無残なものさ。それもほぼ毎日のように起こっていたわけだからね。その上、自分自身にその刃を向けるものもいた。まあなんというか、出すぎた力は持つものじゃない……、分相応ということの重要さを感じる話だねぇ。たまに、そんな力を乱用するものがいるたびに、新聞をにぎわせ、多くの人が悲しみにくれていたんだよ。


 そんなの誰かがやめようって言いださなかったのって? もちろんそういう意見はあったさ。実際にかなり規制もかけられたおかげで、殺される人間が減った時期もあった。でも、根本的にゼロにはなることはなかったのさ。――なんでかって? それはね、みんなが使ってたからだよ。お前だってコンビニには行くだろう? そして、もしも「コンビニが有害だ」と認定されたとしても、すぐになくなったら困ってしまうだろう? 人間なんてそんなもんなんだよ。弱い生き物なんだよ。

 当時、ライセンスはほぼどこにでもあるような状態で、誰がいつ殺されてもおかしくない状態でね。人生を普通に生きているだけでも、3割程度は何かしらの形で被害にあう……なんて数字も出ていたようだよ。昔の話とはいえ、恐ろしい……むごたらしい時代だよ。


 ……え? 今もあるのかって? ふふふ……これがね。さすがに今はもうなくなったのさ。技術の革新のおかげだね。誰かが自分でやらなくてもよくなったんだ。だから私も本物は見たことはない。それこそ博物館などに行けば展示してあるところも結構あるようだね。今はいい時代になったってことさ。二度とあんな時代に戻らないといいねぇ。平和が一番だよ。




 さあて。今日は、そんなちょっと昔の「本当にあった怖い話」。どうだったかな? 今度、自動運転でひょいっと博物館まで一緒に見に行ってみようかね。そのライセンスはね、本当は「運転免許証」という名前なんだ……

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