19話:勇者との約束
武術大会は二日間に渡って開催される。初日は二回戦までだ。
出場者の疲労が溜まってしまうから、という理由の他に、闘技場の整備や治療班の休息といった理由があるらしい。
詳しくは
それよりも今は、ニヤニヤしている京介と、キラキラしている歌音と、全く目を合わせてくれないリリアの対処の方が重要だと思う。
京介は、まぁ。大会で全力を出す以上、こんな反応をされるだろうな、とは思ってはいた。
どうせ理由も察しているのだろう。
何となく腹が立つが、まあ、実害が無ければ良しとする。
実害がある場合は楓に泣きついてやろう。
こいつ、
歌音もまぁ、想定の範囲内だ。
多分後で死ぬほど絡んでくるだろうが、いつものように適当に対処すれば問題なし。
だが、リリアに関してはよく分からん。
何を話してもどこか上の空。反応が薄いと言うか……かといって落ち込んでいる訳でもない。
蓮樹曰く俺のせいらしいが、何も心当たりが無い。
さて。どうしたものか。
「……あー。リリアさんや」
「へあっ!? はい、なんですか!?」
一事が万事この調子である。
「なんか……どうした?」
「……いえ、ちょっと。思うところがありまして」
「……俺が何かしたなら、言ってくれると助かるんだが」
「ええと。何かしたと言えばそうなんです、けど」
「けど?」
「その……言えません」
「お、おう。そうか」
なんだろう。この、年頃の娘と何を話したらいいか分からない父親のような感覚。
いや、近いものがあるかもしれない。さすがにリリアくらい大きな娘がいる歳ではないが。
「ただその。ありがとうございました」
「……あぁ。まあ、気にするな」
まあ、何となく。別にいいか、なんて思ってしまった。
話したければいつか話すだろう。たぶん。
城に帰り着いた直後、先に帰っていた司に呼び止められた。
「…亜礼さん。明日は蓮樹さんに勝ってほしい」
「はあ? なんだいきなり。無理に決まってんだろうが」
「…明日は、直接やりたい」
今、直接
「あー……うん、まあ。努力はするが」
「…うん。俺も久しぶりに本気出すから」
「マジやめろ、相手が死ぬ」
ついでに言うと俺も死ぬ。
「…亜礼さんは、やっぱり凄い」
「試合の話か?
「…
「司は魔力が自動で身体強化に回ってるからなあ」
と言うか。呼吸法で丹田に生じた気を放つとかいう
難易度が下がる分、威力も精度も元の技に劣るので、司が使う必要は全く無い。
「なんだ、魔法に興味が出てきたのか?」
「…いや、まったく」
「だろうなあ」
火を着ける、空を飛ぶ、離れた敵を倒す、など、
魔法で出来る事は司も大体出来てしまう。
一部例外もあるが、その場合、他の奴も真似できないからな。
司にとって魔力なんて有っても無くても大して変わり無いのだろう。
まぁ、俺も魔法は得意では無い。精々が体内で魔力を操ったり出来るだけだ。
火を着けたり、なんて事は不可能である。
一応、
「ま、明日も全力で頑張りはするさ。死にたくないからな」
「…決勝で戦えたらいいね」
「お、おう……本当に加減しろよ?」
「…努力してみる」
珍しく、にこりと笑う。うむ、普段の無愛想な面より余程良いな。
言ってることは中々恐ろしいが。
とりあえず、柱の影からこちらをガン見してる詠歌の所に行ってやれ。
俺の精神衛生上、大変宜しくない顔してるから。
で、さらに。風呂上がりに自室に向かう途中。
えらくテンションの低い隼人に遭遇した。
「……どうしたよ。珍しい」
「あー。なんかなー。
「ああ……悪い。俺が原因かもしれん」
「知っとるー。もーめっちゃ疲れてんー」
肩を垂らして頭も垂らし、ぐったりとした様子で語る隼人。
つい、その肩を叩いてしまった。
「そうか。お疲れさん」
「おー……あ、せや。亜礼さん、明日、気ぃつけてな」
「おお、まあ、気をつけるが」
「ちゃうねん。なんか、詠歌が『おかしな色が
「……詠歌が?」
早坂詠歌。
『空気を読めるようになりたい』と女神に願った少女。
その加護は当たり前のように曲解され、『遠く離れた空間を把握する能力』となった。
あの女神も大概だが、願った内容も大分凄い。
ちなみに、楓命名は『
能力的には、千里眼というのが一番近いだろうか。
遠く離れていたり、壁を隔てている場所を見通す事が出来る。
また、生き物の感情というか、精神を色として視認できる、らしい。
正直理屈はよくわからんが、経験上、詠歌の忠告が外れた事がないのを知っている。
「分かった。警戒しておく」
「おー。頼んだわー」
まぁ、明日を生き延びることが目下の課題である事に変わりはないのだが、こういう悪い予感ほどよく当たる気がするから嫌になる。
面倒な事にならなければ良いのだが。
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