第7話 いたずらに使っちゃいけないよ
坊やに魔法を教えることは強制したかったわけではないので、本人の意思を聞いてみた。
「坊や、もしも私みたいに魔法が使えたらどう思う? 教えてあげるよと言ったら、覚えてみたいかい?」
「うん!」
意味がわかっているのか否か、即答だった。とりあえず、本人が覚えてみたいと言ってくれたので、ひとつ教えてみることにした。
「じゃあ、まずひとつ、教えてあげよう。魔法は、使い方を間違えると大変なことになる。今から教える魔法は、人間をモノに変える魔法だ。これを、必要としていない人にかけると、無駄に人の命を奪うことになる。坊やには、いい魔法使いでいてほしいんだ。
「うん!」
普段の会話の内容や話し方から、だいたい小学3年生くらいだろうと思う。そのくらいになったら、いいことと悪いことの区別はつくだろう。
「じゃあ、この魔法はどういうときに使うと思う?」
「うーん……」
ちょっと難しかっただろうか。
「これはね、死者を増やさないための魔法なんだ」
「ししゃ?」
「そう。例えば交通事故。ひとりの人間が車にひかれそうになっていたとしよう。そのまま自然に任せると、その人間は車にひかれて、血が飛び散って死んでしまう。車を運転していた人も死んでしまうかもしれない。そして、それを見ていた人がたくさん、心に怪我をする。血が飛び散るところを見てしまうからだ。この交通事故の被害者を最小限に抑えるには、どうしたらいいかな?」
少し考えあぐねて、坊やは答えた。
「ひかれそうな人に魔法をかける!」
「そう、正解だ。どうしてその人に魔法をかけるんだい?」
正直、坊やから正解か引き出せるとは思わなかったので、私のほうが驚いた。
「えっとね、ひかれそうな人に魔法をかけてモノにしたら、その人は死んじゃうけど、他の人は怪我しないから!」
「そうだね。じゃあ、魔法で何に変えるんだい?」
「うーん、おふとん!」
驚いた。この問題の正解は、「柔らかいもの」だ。この子はひとりで遊ぶ時間が長い分、ちゃんといろいろ見て勉強しているのだ。
「どうしておふとんに変えるんだい? 石じゃ、ダメなのかい?」
「だってさ、石に変えたら、車がぶつかったときに砕けちゃうもん。砕けたらその人、痛そうだよ。それにさ、車の中の人も、石にぶつかったら怪我しちゃうし、車も壊れちゃうよ。見てた人は砕けた石が当たって怪我しちゃうかもしれないもん。だから、ぶつかっても壊れないおふとんに変えるの! そうしたら、死んじゃうのはひとりだけだもん!」
この子に魔法を教えようと思ったのは、正解だったのだと確信した。
見た目は箒という『モノ』だが、ちゃんと暖かい人間の心を持っている。
その日から、坊やのお勉強が始まった。
坊やはとても楽しそうに、魔法を覚えようと頑張っている。この魔法はその辺の人で練習するわけにはいかないので、練習用に私がモノを人に変え、それを坊やがモノに変えるという方法で数をこなした。
数ヶ月が経ったころ、坊やは、やっといいタイミングで『人』を『モノ』に変えることができるようになった。
最後にもう一度、『この魔法を悪戯に使わない』という約束を交わした。
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