第89話 感謝

ギルド長ギルマスへの帰還報告は、言葉のとおりあっという間だった。


部屋に入ると前回と同様にアルサドもいて、二人して無言で見つめてくる事に居心地の悪さを覚えたが、戻ったことを告げると雰囲気が一変し、無事だったことを喜ばれた。

そのうえ詳細な報告は明日で良いから、今日は帰って休めとまで言われてしまった。


なんとなくに落ちないながらも、部屋を出た後、ジェミオとアルミーの二人と分かれた。


そうして、まずは武器屋の親父さんに生還の報告とお礼に行く事にした。


   ◇ ◇ ◇


店に入るといつものように客は無く、奥で手入れをしている親父さんがいた。

親父さんはちらりと視線を向けたが、手入れの手を止めることはない。

そんないつも通りの反応にほっとしつつ、俺は無事戻ったことを告げた。


「ただいま、親父さん。」

「……。」

「親父さんが勧めてくれた剣のお陰で命拾いしたよ。」


親父さんは無言のままだが、気にせず言葉を続けた。

すると親父さんは再びちらりと視線を寄越して、何があったと問いかけてくる。


「森での依頼の最中に、血の覚醒が起きたんだ。」


俺の言葉に、親父さんの目に驚きが浮かぶ。

滅多に見る事の無い表情に俺は苦笑する。


「どうも竜の血を次いでたらしくて、死にかけたところをこの剣に助けられた。」


腰に下げた剣を手にして頭を下げる。


「本当にありがとうございました。」

「…助言をしたのはリュネで、その剣を選んだのは小僧、お前だ。」


作業の手を止めた親父さんが、カウンターに歩み寄る。


「それでも、この剣を出してくれたのは親父さんで、支払いまで待ってもらってる。感謝してとうぜんだろ。」


そういうと、親父さんの視線が剣へと向けられた。


「見せてみろ。」


言われて、手にした剣をそっとカウンターに置いた。

親父さんが鞘から剣を抜くと、柄頭から剣先までを確認していく。

一通りの確認が終わると、そっと鞘へと納めた、


「ふんっ、それなりには使えているようだが、まだまだだ。修行が足らん。」


親父さんはそう言うと、店の奥へ戻り作業を再開してしまった。


「ははっ、頑張るよ。」

「話しが終わったなら帰れ。」


俺が言葉を返すなり、親父さんはそう言って眉間みけんしわを寄せる。


「どうせあやつには会っておらんだろう。とっとと帰れ!」


どうやらリュネさんにも早く顔を見せろと言いたいらしい。

親父さんらしい言葉にくすりと笑む。


「分かった。また来るよ。次ぎはいくらか支払いに。」

「ふんっ、踏み倒したら二度と売らんからな!」


親父さんの声を背に、俺は店を出た。

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