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駐屯地の隊長が部屋の片隅にあるボロ布がかけてあった、とある物の所へと走った。それをちらりと一瞥した女は、隊長など気にならない様子で、ルイーサ監察官とリオニーの方をにやにやと見つめている。
突然、部屋中に物凄い銃声が響き渡った。隊長が向かった先は、最近、クラン帝国が大量導入した
対狂戦士用として、普通のガトリング砲よりも小型で持ち運び可能なガトリング銃で、威力はガトリング砲よりも落ちるものの、発砲速度は倍ほど速くなっている。
さすがの女も、ガトリング銃の銃撃を避けきる事は難しいと判断したのか、窓の外へと飛び退いた。
「ルイーサ監察官、この事を本部隊へ伝えて下さい。お願いします!!」
隊長は真っ赤な顔をして額に大粒の汗を浮かべながら、ルイーサ監察官へと言った。
ルイーサ監察官は少し躊躇ったが、ここで無駄に全滅するよりも本部隊へこの事を伝える事が最優先だと判断し隊長へ頷くと、ガトリング銃を抱えた隊長とリオニーと共に兵舎の外に出た。
兵舎の外には、無残な兵士達の死体があちらこちらに転がっており、それらの全てが真っ当な人の形をしていなかった。全て、首や四肢が切り落とされていたのである。
先程、兵舎へと入ってきた女が刀を抜いてにたりと笑いながら、ルイーサ監察官達を見ている。その後ろで、もう一人の女が、兵士の生首を丁寧に並べている姿があった。あの駐屯地の東側の森にいた三人組の一人、朝顔で、刀を抜いて立っている方は夕顔である。
黙々と並べている。
まるで、ドミノ倒しのドミノ牌を並べるかのように、等間隔で丁寧に並べている。
「ふへっふへっふへっ」
ゆっくりとした歩調で夕顔が近寄ってくる。隊長は後ろを取られまいと、大きな木に背中を預けるとルイーサ監察官へ目配せし、ガトリング銃をぶっ放しはじめた。
鼓膜が破れそうな程の銃声が、山岳地帯にこだましている。ちっと舌打ちしながら右に左に避ける夕顔。そして、全く気にせずに生首を並べ続けるもう朝顔。
「ぱんぱんと小煩い
攻めあぐねている夕顔を見て、ルイーサ監察官とリオニーが隊長の方へと頷くと、森の中へと走りだした。
「ふへっ!!仲間を置いて逃げ出しおった!!」
追うにも隊長の発砲するガトリング銃が邪魔で出来ない。そうしているうちにもルイーサ監察官達の姿が森の中へと消えていく。
「まぁ……良かろう。森には紫陽花がおるのでな……ふへっふへっふへっ」
刀身をぺろりと舐めた夕顔は、すうっと刀を鞘へとしまった。それをみた隊長がガトリング銃を撃つのを止めた。
美しい顔には相変わらず下卑なにたりとした笑みが張り付いている。おや?と隊長が生首を黙々と並べていた朝顔の姿が無いことに気づいた時、自分の胸が急激に熱くなるのを感じた。そして、胸へと視線をやると、自分の胸から刀が生えてきている。
本当にそう見えた。にょきりと胸から茸でも生えてきたかのように。
「がぼっ……」
ごぼごぼと隊長の口から血が吐き出されてくる。しばらくもがいていた隊長ががくりと頭を垂れると、胸から生えてきていた刀がすっと消えていく。
隊長が背負っていた太い木の幹ごと、朝顔が刀で貫いていたのだ。
「背負ったのが岩であったなら、少しは生き長らえたのであろうがね」
そう言うと、無残に倒れている隊長の首を刎ねると、その生首を拾い、先程並べ続けていた列の最後尾へと置いた。
「これでも足りぬ」
並べられた生首を眺めている朝顔と夕顔の顔が鬼の形相になっている。やはりルイーサ監察官の予想しているように、彼女らはあの島国の民の生き残りなのだろうか。
「あとは、紫陽花に任せるとしようか」
朝顔は夕顔へと言うと、持っていた刀でぶすりと隊長の生首の脳天へと突き刺した。
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