第30話 次からお願いします

 家令が門前払いを食らっている頃、エリスはカイに乗って隣の領地にやって来ていた。


 崖崩れのため、引き返してしまった隊商のリーダーに会うのが目的だ。


「お待たせしました。お隣の辺境伯夫人とはあなたですか?」


「はい。エリスと申します。この度は我が領地での災害により、ご迷惑をお掛けしまして申し訳ありません」 


「いえいえ、自然災害ですからお気になさらず」


 自然災害じゃないんだけどね...とエリスは心の中で舌を出した。


「ありがとうございます。それでですね、今回、納入出来なかった商品を引き取らせて頂きたいと思いまして」


「引き取るって...そりゃ日持ちしない商品もありますから、引き取って貰えたら有難いですが、どうやって運ぶおつもりで?」


「私にはこれがありますから」


 そう言ってエリスは、ストレージから物を出して見せた。


「こりゃ驚いた...物を収納する魔法ですか...初めて見ましたよ」


「えぇ、今回の取引商品を全て収納出来ますので、運ぶのは問題ありません」


「そりゃ凄い...いや、我々隊商にとって羨ましい限りですよ。奥さんを雇いたいくらいだ」


 奥さん...雇う...その言葉にカイがピクッと反応したが、エリスは気付かなかった。


「フフッ、有難いお誘いですけど遠慮しておきますわ」


「そりゃ残念...気が変わったらいつでもどうぞ。商品はここにあるので全部です。どうぞお持ち下さい」


「ありがとうございます。ではこちらを」


 エリスは金貨の入った袋を取り出した。


「いえいえ、お代は前金で受け取ってますから払わなくて結構ですよ?」


「お納め下さい。これは輸送に掛かった手間賃と人件費だと思って下されば」


「いえ、しかしですね...」


「それじゃあこうしましょう。受け取って貰う代わりに一つお願い事を聞いて下さい」


「どんなことでしょう?」


「今後、我が領地へ商品を納入する時は、領主邸に直接ではなく街の方に直接納入して貰えませんか?」


「そんなことでいいんですか?」


「えぇ、町長に話を通しておきますので」


「分かりました。道が通れるようになったら、次からは街に直接伺います」


「お願いします。道はすぐ通れるようにしますので」


 隊商のリーダーと別れた後、エリスは道を塞いでいた岩を魔法で吹き飛ばしてから街に戻った。



◇◇◇



 街に戻ったエリスとカイは、まず最初に守衛の詰め所に向かった。


「えっ? もう来たの?」


「はい。家令がやって来ましたが、エリス様の指示通りに対処したら、スゴスゴと引き返して行きましたよ」


 応対した守衛がちょうど食事をしていたところだったので、直接話が聞くことが出来た。


「そう。なら次はきっとあのクズが直接やって来るわね。来たら私が相手するわ。中央広場に行って荷を卸したら、すぐ戻って来るわね」


「お願いします」


「それよりあなた」


 エリスは守衛の目の前にある、肉の入っていない肉じゃが(つまりただのじゃが)を指差し、


「ちゃんと肉も食べないと力出ないわよ? 肉、肉、肉、ちょっと休んでまた肉を食べる。これが力の源になるの。覚えておきなさい」


「ぜ、善処します...」


 守衛とついでにカイの顔も引き攣っていた。





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