第20話 従業員を雇いました

 次の日、エリスとカイは町長の所に報告に来ていた。


「定期隊商ですか。そろそろ来る頃かなとは思ってましたが、今週ですか」


 クズの部屋を盗聴した結果を知らせる。


「いつもはどのように連絡が来るんですか?」


「我々に事前連絡はありません。彼らは街に入るより先に領主邸に立ち寄ります。そこから街に入って来るんです」


「それは昔からですか?」


 すると町長は苦い顔をして、


「いえ、あのクズが領主になってからです」


「ということは...」


「えぇ、お察しの通りです。彼らは領主邸で持って来た荷を全て卸し、街へは注文を取りに来るだけなんです。そして卸した荷は...」


「あのクズが勝手に値段を設定して、仕入値との差額を着服する...と」


「はい、仰る通りです...」


「いやもう...どんだけクズなんですか...」


 エリスは吐き捨てるように言った。清々しい程のクズっぷりである。もちろん悪い意味で。


「今回はエリス様のお陰で、食糧に関しては彼らに頼る必要がありませんから、一回くらい彼らが来なくても問題ありません。嗜好品を楽しみにしていた人達には我慢して貰うことになりますけどね」


「分かりました。では当初の予定通り、準備が整い次第、兵糧攻めを開始することにします。まず、隣の領地に用事がある人は一両日以内に移動するようにして下さい。また、行ったらしばらくは、こっちに戻って来れないことを周知しておいて下さい」


「分かりました。そのように伝えます...」


 エリスは町長の顔色が優れないことに気付いた。


「なにか懸案事項でもありましたか?」


「あぁ、いえ...その...懸案事項といいますか...屋敷に囚われていたところを、エリス様に助けて頂いた女性達のことを覚えておられますか?」


「えぇ、もちろんです。四人居ましたよね。彼女達がなにか?」


「彼女達、すっかり怯えていましてね。無理もありませんが。この街に居たくないと言ってるんです。また拐われるのではないかと、トラウマを抱えてしまったようです」


「あぁ、確かにそうですよね。辛い目に合ったんだから。同じ女として気持ちは痛い程良く分かります」 


「えぇ、ですが、そうかといって若い女性達だけで街の外に出すというのは、残される家族が心配していまして、どうしたものかと...」


「分かりました。では私が引き取ります」


「よろしいのですか?」


「えぇ、これから忙しくなりますし、人手は多い方がいいですから。それに私の所なら街から離れているし、トラウマに悩まされることもないでしょう。帰ろうと思えばいつでも家族の元に帰れますしね」


「ありがとうございます」


「まずはその四人に合わせて貰えますか?」


「分かりました。すぐ手配します」



◇◇◇



「どうも.. 先達ては大変お世話になりました...」


 現れた四人の女性達は皆暗い表情を浮かべていた。なのでエリスは、殊更明るく振る舞った。


「あぁ、そういう堅苦しいのは苦手だから、もっとざっくばらんにして。まずは自己紹介からね。私はエリス、こっちがカイ、あなた達は?」


 彼女達は順に、スズ、ラン、ヒメ、ユリと名乗った。この中ではユリがリーダー格らしい。全員が19歳で同い年。実家はそれぞれ商売を営んでいて、彼女達はその店の看板娘だったらしい。


「なるほど、そこをあのクズに目を付けられたんだね」


「えぇ、ウチは居酒屋を営んでいて、私も店に出てたんですが、そこに何度も足繁く通って来ては、私を誘ってきたんです。嫌だったんでずっとお断りしてたんですが、いつまでも私が靡かないとみるや無理矢理に...」


 そう言ってユリは俯いてしまった。他の女性達も似たようなものなんだろう。


「辛かったね...でも、もう大丈夫だよ。あのクズにはもう二度と手出しなんかさせないから安心して。あなた達は私が守るから」


 エリスがそう言うと、女性達は安心したのか少しだけ笑顔を浮かべた。


「あの、それで私達はこれからどういう仕事をするんでしょうか?」


「うん、ちゃんと考えてあるから任せて」


 そう言ってエリスはニッコリ微笑んだ。


 

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