第14話 ドキドキします

 町長と別れたエリスとカイは街のカフェに来ていた。


「それでエリス、次の段階って?」


 美味しそうにケーキを頬張るエリスを見ながらカイが訪ねる。


「兵糧攻めをしようかと思って」


「兵糧攻め?」


「うん、この街と他の土地を結ぶ街道は一本しかなくてね。途中の山道にかなり道が狭い場所があるのよ。そこはしょっちゅう崖崩れが起きる所らしくてね。良く通れなくなるんだって」


「なるほど、その道を態と塞ぐと?」


「そういうこと」


「でもそうしたら、この街の人達も困るんじゃ?」


「確かにそうだね。だから魔獣を沢山狩って肉を補充しといたんだよ」


「でも肉だけじゃ栄養が片寄らない?」


「肉だけじゃないよ? 芋類も沢山用意するつもり。あと野菜もね」


「どうやって?」


「それは小屋に帰ってから説明するよ。じゃあ肉を卸して帰ろうか」


 その後、肉屋に大量の魔獣を卸してビックリされた。



◇◇◇



「ほら見て! この辺り一面芋畑なんだよ! しかも畑に植えたのたった二日前なのにもう芽が出てるんだよ! よっぽどこの土がいいんだろうね~ ! これなら一ヶ月も掛からずに収穫出来そう!」


「な、なるほど。確かにこれだけあれは街の人達全員に行き渡りそう」


「でしょう~♪」


 エリスがとても嬉しそうに笑った。


「野菜は...あ、朝、水を撒いてた辺りか」


「そうそう、果物の苗木も植えたんだよ」


「凄いね...これをエリス一人で?」


「アハハ、お膳立てしたのは私だけど、ほとんどはゴーレム任せだね」


「ゴーレム?」


「うん、今日の作業は全部終わったから引っ込めたけど、普段は沢山のゴーレムが働いてくれてるんだ」


「それもエリスの魔力で動かしてるんだよね?」


「そうだよ~」


 ハアッとカイは今日何度目かになるため息を吐いた。


「ん~ 今日は疲れたね~ カイ、温泉入ってのんびりしようよ♪」


「えっ? 温泉あるの!?」


「あるよ~♪ こっちこっち~♪」


 エリスに手を引かれて行ってみるとそこには、


「本当に温泉だ...」


「言った通りでしょ? さあ入ろう~♪」


「ちょ、ちょっと待ってっ! 混浴なの!? 男湯と女湯に分かれてないの!?」


 途端にエリスが真っ赤になる。


「ご、ゴメン、忘れてたっ! 今すぐ仕切りを作るね!」


 そして一瞬で男湯と女湯に分かれた。


 チャポーーン...


「カイ~♪ 気持ちいいよね~♪」


「そうだね~♪」


「「 はぁ~♪ 極楽極楽~♪ 」」


 この二人、実はおっさんとおばちゃんなのかも知れない。



◇◇◇



 ポカポカしながら小屋に戻った二人は、残しておいた魔獣の肉で夕食を取った後、ある重大な事態に直面する。


「寝る所が無い...」


 そう、エリスは元々一人暮らしする予定だったので寝具も一人用しかないのだ。


「あ、あの、僕は外で寝るからベッドはエリスが使って?」


「外って...そんなのダメよ!」


「鳥の姿になれば平気だよ。慣れてるし」


「でもでも...やっぱりダメよ! い、一緒...一緒に寝ましょう!」


「えぇ~! い、いいの!?」


 エリスは意味を分かって言ってるんだろうか?


「い、いいのいいの、ほ、ほらこのベッド結構大きいし、わ、私、寝相良い方だし、い、いびきは...かいたらゴメン...」

 

 分かってなかったようだ。カイはクスリと笑いながら、ベッドに潜り込んだ。


「じゃあ...お邪魔します」


「ど、どうぞ...」


 エリスはカイの体温を感じながらドキドキしていた。今夜は眠れないかも...なんて思っていたが、一分後には穏やかな寝息を立てていた。驚異的な寝つきの良さである。カイはそんなエリスを見ながら、


「お休み、エリス」


 と優しく囁いたのだった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る