第252話 魔法の見本とイントロダクション?

「それじゃそっちの女だ」


 少年、セレスをご指名。リディナ相手では勝てないと察したからなのだろうか。

 しかし甘い。手加減有りで戦った場合、一番強くて上手いのは間違いなくセレスだから。


「いいですよ。それでは前にどうぞ」


 セレス、慌てることも無くそう言って、聖堂の中央部分の広い部分へ歩いていく。


 一方リディナは大きめの砂時計を取り出し、皆から見えるように机の上に置いた。


「教える時間の都合がありますから条件をつけます。時間はこの砂時計の砂が落ちきるまで。そしてセレス先生の方は相手をしてくれる彼に攻撃魔法を使わないという事にします。使うと一瞬で勝負が終わってしまいますから。


 魔法が使えるとこんな事も出来る。そんな参考になると思いますので、皆さんよく見ていてくださいね」


 なお砂時計は180数える位の時間で落ちきるタイプだ。


 それにしても少年、完全に煽られている。それに気圧されてもいる。おまけに今のリディナの言葉により教材にまでされてしまった。

 まあ自業自得なので仕方ない。これを機に反省してくれればいいのだけれど。


 少年が前に出て来たところでセレスが声をかける。


「それでは準備をどうぞ。私の方はいつでもいいです」


「お、俺の方もいつでもいいぜ」


 強がりでもそう言えるだけタフだなあと思う。

 引くに引けないだけだろうけれど。


 前に出るとセレスと少年の体格差がよくわかるようになった。

 身長、体格全てにおいてセレスの方が一回り小さい。

 少年がかなり大柄で、セレスは私ほどではないけれど小柄な方だから。


 体格で考えるとセレスに勝ち目は無さそうに見える。

 年齢的にも少年は12歳でセレスは13歳と差は1歳だけ。


 それでもセレスが負けるとは私は全く思っていないけれど。


「それでは開始してください」


 リディナが砂時計をひっくり返す。

 少年はその場から動こうとして次の瞬間、前へとつんのめった。


「水属性レベル2の氷結魔法を足元にかけました。今のは足が凍り付いて床から離れなかった為、飛び出せずにつんのめったという動きです」


 セレス、落ち着いた口調でそんな解説。


「くっそー、卑怯な真似を」


「見解の相違ですね。ただこれでは魔法の見本としては面白くありません。ですので氷結魔法は解除します」


 セレスがわざとらしく右手を振る。少年の足元にかかっていた氷結魔法が解除された。


「馬鹿め!」


 少年が飛び出してセレスに殴りかかる。しかし拳は思い切り空振り。セレスが直前ですっと横に避けたからだ。


「えっ!」


「遅いですよ」


「んなろ!」


 パンチ、キック、どれもセレスに当たらない。


「セレス先生は水属性のレベル2、身体強化魔法を使ってかわしています。他に動きを見る為に空属性レベル2の偵察魔法で相手の背後から確認しています。あまりレベルは高くない魔法ですけれど、それでもこのくらいの事は出来ます」


 リディナが解説。

 ただ私には同じ真似は出来ないなと思う。多分リディナでも無理だろう。今やっているのはセレスの身体能力があるからこそだ。


 リディナの解説はなおも続く。


「さて、魔物相手の場合は魔法で攻撃するのですけれど、ここでは代わりに別の物で試します。フミノ先生、すみませんが魔物の代わりとなる物を出して貰えますか」


 この辺は打ち合わせの通りだ。

 なお私が対戦相手だった場合は、

  ① セレスが自在袋から丸太を出すようなそぶりをするので、

  ② 私がそれに合わせてアイテムボックスから丸太を出す

事になっていた。


「わかった」


 私は2人から3腕6mくらい離れた場所へ歩いて行って、いつものディパックから出すようなそぶりで丸太の端材を立てて置く。

 端材と言っても結構大きい。直径20指20cm長さ80指80cmの丸太だ。


「くそう!」

 

 少年はむきになって飛び掛かっていく。セレスはそんな少年の攻撃を余裕で躱しながら、丸太の方へ右手を伸ばした。


 次の瞬間、指先から飛び出した何かで丸太が上下に切断された。切断面の上部分が床に転がり落ちドンと音を立てて転がる。


 どよめきが上がった。少年も思わず振り向いて丸太の方を見てしまう。


「今のはセレス先生の得意魔法のひとつで、水の衝撃アクアエ・イパルサムという水属性の攻撃魔法です。ゴブリン等、素材を取れない魔物を手っ取り早く倒す時に使う事が多いです。


 一方、魔狼等の素材を取れる魔獣や魔物が相手の場合は、別の魔法を使う事もあります」


 リディナの解説が終わるとともに残った丸太下側が凍り付いた。そのまま周囲を巻き込んで凍り付いていき、直径50指50cm高さ1腕2m位の氷の柱になる。


 再びどよめきが上がった。少年ももう攻撃の手を止めてただ丸太の方を見ている。


「これは水属性レベル5、氷葬スペクタ・グラシィという攻撃魔法です。国内の魔物のほとんどはこの程度の魔法で倒すことが出来ます。

 さて、こんなところでしょうか」


 リディナがそう説明しながらわざとらしく砂時計を見て頷いた。


「はい、時間です。砂時計の砂が落ち終わりました。

 お疲れさまでした。席へ戻って下さい」


 少年、肩ではあはあ息をしている。相当疲れているようだ。ただ文句を言えるような気力が残っていない模様で、大人しく席へと戻っていく。


「さて。魔法は貴族だけではなく誰でも練習すれば使えるようになります。これは数年前、冒険者ギルドから発表があったとおりです。


 今日は皆さんがどんな魔法に適性をもっているかを調べた後、簡単で便利な魔法を1つ、覚えてもらうのが目標です。

 それでは全員の魔法適性を調べてカードを作成し終えるまで、少々お待ちください」


 リディナのそんな解説の後。

 私達はステータスカード作成作業を再開した。

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