第209話 街へ買い出しに

 魔法を使っても完全には治らない筋肉痛を感じつつ、今日は街までお買い物。

 荷物を大量に積めるようゴーレム車の内装を一部変更。テーブルを外して椅子も後ろ側を外した状態。

 後ろ向きに3人並んで座って街へと向かう。


「今日は何をどれくらい買うのかな」


「種豆を15重90kg、種芋を280重1,680kgですね。豆はこれで畑2面分になります。芋もこれを収穫出来れば次回畑1面まるまる作付けするのに充分な種芋を得る事が出来ます。

 あとはルーザンの種。これは10重60kg入りの袋1つあれば足りると思います。

 出来ればマスコビーも見ておきたいです。良さそうなのがいればオスを2羽、メスを4羽くらい買いたいです」


 つまり明日以降、またあの種まき、芋植え付け作業の苦労が待っている訳だ。そう思うと微妙に気が重い。セレスには言えないけれど。


 街に入る。領役所で契約書類といっしょに渡された案内図を見ながら、種苗等を扱う市場手前の広場に到着。


 この先が市場だな。行き交う人の数だけでそう理解出来る状態だ。


「この街で一番賑わっている感じです」


「確かにそうだね。フミノ、大丈夫?」


 リディナやセレスが言う通りだ。通り上は概ね2腕4m四方に1人はいるだろうという感じ。

 しかし今の私なら大丈夫。


「大丈夫。恐怖耐性も3あるし対人恐怖も今は1。問題無い」


「少しでも調子が悪くなったら言ってね」


「わかった」


 下車してライ君とゴーレム車を収納し、市場の通りへ。


「まずはざっと市場全体を歩いて、相場と物のあたりをつけます」


「御願いね。私はあまり詳しくないから」


「同じく」


「任せて下さい」


 うーん、セレス、頼りになるなあ。

 3人で市場を歩きはじめる。


 上空の視点から見るとここの市場は長さ100腕200m程の通り2本分。両側にはずらっと店が並んでいる。道幅は4腕8mくらいとかなり広い。


 店はいわゆる壁と窓がある家とか一般の店とは違い、基本的には屋根と柱、簡単な壁だけという作り。通り側は素通しだ。

 そのかわり1軒1軒が広い。間口が10腕20mくらいはある。


「どこの店も作りが同じでわかりやすいですね」


「きっと領主が作って安値で貸しているんだと思うよ」


「でもそれだと相当お金がかかりませんか? 他にも土地を調べたり区切ったり、領主は出費ばかりですよね」


「その辺は支度金としてある程度国が出しているんじゃないかな。ここの領主は出来たばかりの家だし、夫人は実際は王家の娘だしね」


 カレンさん達も大変なんだな。そんな事を思いつつ、私は見知らぬ商店街を観察する。

 大丈夫、人が多いがやはり今の私なら耐えられる。耐えるだけでは無く観察する余裕だってある。


 売っているのは種や苗がメイン。多いのは豆と芋、あとは野菜類。小麦が少ないのは季節的なものだろうか。


 店によって売っているものの内容は結構違う。また同じ作物でも品種が結構色々ある模様。同じエンドウ豆でも早生蒼玉、早生短種、標準長鞘といった具合に10種類以上ある。


「家庭用にお野菜系統の苗をある程度買っていってもいいですね。人参ならちょうど時期ですし、葉も食べられます。他に早瓜やホウレンソウも時期ですね」


「畑関係はセレスにお任せかな。一番詳しいしね」


「責任重大ですね。でも任されました」


「あと出来れば果物なんてあると嬉しいかな。食べ物の幅も広がるし」


「この辺だと暖かいから柑橘類がいいですね。ブルーベリーも使いやすいです。あとイチゴやハーブ類も買っておきましょう」


 私は野菜類の種をまく時期すら知らないものな。だからもう丸投げだ。

 一方でセレスは各店に出ているものを見て、時にはメモをしながら歩いている。様子は真剣だがどこか楽しそうにも見える。


 セレスのように知識があればこの市場も楽しいのだろう。そう思ってふと気づく。私自身も楽しんでいるのかなと。


 理由は良くわからない。でもこうやって様々な物が売っているのを見て歩く事が楽しいように感じる。これは昔と比べて人が怖くなくなったからだろうか。


 おっと、何やら動物の絵が描かれている店がある。あれは何だ。


「動物はここでは売っていないんだね」


「そうですね。ここだと弱ってしまいそうですし、たくさん置けませんから。必要なら農場に直接行って選ぶようです」


 なるほど、それを示す為の絵という訳か。

 売っている動物はアヒル類が数種類、豚、山羊、牛といった感じだ。おっと、犬もいる模様。

 セレスに聞いてみる。


「犬も売っているの?」


「農場を見張るのに便利ですから。鳥や小さい獣は追い払ってくれますし、魔獣が出たら知らせてくれますし。ある程度広い農場ならいた方が絶対便利ですね」


 なるほど。犬か、いいなあ……

 今まで散々魔獣や獣を葬ってきた癖にと言わないでくれ。犬は好きなのだ、本当は。魔狼だって幼獣を殺すの、本当は心が痛かった。


 犬というとやっぱり思い出すのは日本にいた頃、近くの家にいたバーボン君。黒のラブラドールレトリバーで非常に人なつっこい奴だ。


 奴は天気がいい日は家の中と庭を自由に行き来している。私が近くを通ると塀の隙間から頭を出してきて撫でろと要求。

 撫でるとぐっと頭を近づけてくるし、その後ご機嫌になって庭中走り回ったりする。他へ行こうとすると甘噛みして引き留めたりなんて事も。


 バーボン君、元気にしているかな。

 

 ただ、此処で実際に犬を飼うかというとまた別の話だ。犬がいれば世話をする必要がある。泊まりがけで遠くに行くなんて事もやりにくくなるだろう。


 だから犬を飼いたいなという気持ちは私の中にとどめておこうと思う。例によってリディナには気づかれてしまうかもしれないけれど。 


 通り2本を一通り歩き終えて、そしてセレスは頷く。


「だいたいわかりました。思ったより揃っていますね、ここは。パスカラと同等かそれ以上です」


「それじゃ買おうか。ゴーレム車を出した方がいいかな」


「そうですね。お店で積み込んで貰った方がいいです」


 この通りが広い理由はその為というのもあるだろう。流石にゴーレム車は他にいないけれど、リヤカーみたいなものはあちこちに停まっているし。


「それじゃゴーレム車を出す」

 

 私はライ君とゴーレム車を空いている場所に出した。

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