第204話 手続き実施中

 地図で位置を確認、更に水利その他についての説明をした後。


「それなら此処でいいんじゃないでしょうか」


「そうだよね。農業するのに必要な条件は満たしているみたいだし、それにフミノもこの建物に興味があるんでしょ。まだ申し込みも入っていないようだし、早く押さえておいたほうがいいいと思うよ」


 セレスとリディナがそう言ってくれる。でも本当にそれでいいのだろうか。念の為もう一度確認。


「本当にいい? ここで」


「大丈夫です。フミノさんが言った通りなら、ここは開拓すればいい農地になる筈です」


 セレスがこんなふうに言ってくれるのは珍しい気がする。

 ならいいのかな。


「そうそう。だから早く手続きしよ」


 リディナとセレスにひっぱられるような形で窓口へ。

 リディナが受付カウンターの向こうのお姉さんに声をかける。


「すみません。開拓地の申し込みをしたいのですけれども」


「わかりました。地区番号等はあちらの地図で確認されましたでしょうか」


「ええ。東南地区、208番です」


「わかりました。それでは準備して参りますのでこのまま少々お待ち下さい」


 お姉さんはそう言ってカウンターから離れる。

 彼女は書類を取り出したり、先程の掲示板の該当場所に済のマークを書いたりした後、カウンターに戻ってきた。


「こちらがカラバーラ近郊開拓地域、東南地区208番の概要説明と契約書式となっています。まずはこの概要を読んで確認を御願いします」


 場所は間違っていないか、契約事項に問題はないか3人で読む。幸い他のカウンターは空いているし忙しそうでは無い。だから焦らずじっくりと。


 場所に間違いは無いようだ。書類上の表記も添付の地図も確認した。その上、更にこんな表記まである。


『古い建造物あり。詳細調査せず。利用可否は不明』


「これってあの聖堂の事だよね」


「そうですね」


 私も頷く。間違いない、この土地だ。


 形は横長の長方形で、南北が約半離1km、東西が約1離2km。植生はほぼ全て森。東側の一部斜面だけは岩が多い崖地。


 土地の大部分は標高20腕40m位の台地で東側がやや高く西側がやや低い。

 また東端から概ね100腕200m程度は東側へ上る急斜面で、中央部分はやや谷状にくぼんでいるが現時点では川はない。


 北側と南側はゆるく上っていく形で他の土地と接していて、西側は計画道路に面している。


 なお土地利用に関する説明事項もあるので読んでいく。


  ○ 土地の利用用途は自由。ただし面積の2割以上を畑または牧草地として農業あるいは畜産用に使用する事。


  ○ 土地面積の2割以上を畑または牧草地として開拓し、農業あるいは畜産業を開始する事が当該土地を開拓者の私有地とする条件となる。なお当該認定は、開拓者による申請を受け、領役所の担当官が現地を実査した上で行うものとする。


  ○ 10年以内に上記条件を満たせない場合は開拓失敗とし、土地の所有は移転されない。ただしその場合にあってもその一部が既に開拓され有効に活用されており、継続的に開拓を進める意志があり、また有効活用されている部分からあがる生産高が……


 うーむ。目が文章を追う事を拒否しかける。何なのだこの文章は。


「難しいですね、この文章」


「まあ仕方ないかな。文面で契約する以上、想定できる問題は盛り込まないとならないから。

 でも開拓契約の文面としてはほぼ定型通りだよ。既存の開拓より規模が大きく、その割に拠点となる街が小さいから、全般的に開拓者に対して少し甘くしている感じかな。その分余計に文章が複雑になっているけれど」


 うーむ、こういった文章にも定型がある訳か。そしてその定型をリディナは知っていると。

 そんなの学校で習うのだろうか。とてもそうは思えない。ならきっとリディナが必要だと思って何処かで独習したのだろう。


 やっぱりリディナ、頼りになる。そして若干申し訳ない。いつも頼りにしてしまって。


 だから私も何とか最後まで理解しようと読み続ける。この国の他の場合と比べて妥当かどうかはわからない。しかし私達にとって達成可能で有用な契約かどうかは判断できる筈だから。


 最後まで読んだ。うん、確かに問題は無い。これなら魔法やアイテムボックスを使いまくれば十分条件を満たせる。


 農業や畜産業の知識は私にはない。しかしそこはセレスをあてにしても大丈夫だろう。勿論私も勉強するけれども。


 そう言えばセレス、テモリの図書館で農業等の勉強にちょうどいい本をまとめ買いしていた気がする。

 あれは農業や畜産業をやる事を予想していたのだろうか。それとも単に趣味的なものなのだろうか。


 いずれにせよ後でその辺の本を借りて読んでおこう。これからの参考になるだろうから。


「どうかな? 私は条件は問題無いと思うけれど」


「大丈夫、達成可能」


 リディナの問いに私から答える。


「私も大丈夫だと思います」


 セレスもそう言って頷いた。


「それでは契約を御願いします。ところでこの契約は商会等の組織として行った方がいいでしょうか?」


「開拓のバックアップをする組織名と実際に開拓を行う方、双方の記載を御願いします。商会名等だけでの登録ですと過去に他の場所で土地名義移転のトラブルが起こったケースがありましたので」


「わかりました」


 リディナが私達の前に署名欄がある書類を持ってくる。


「それじゃ此処に名前を書いて。あ、フミノが一番上、次がセレスで。私は連絡担当だからこっちに書くから。あとフミノはこっち、組織名の方にも名前を御願い」


 どうやらこの契約書はそういうシステムになっているらしい。なので私とセレスは言われた通りに署名する。

 最後にリディナが署名して、書類を事務のお姉さんへ。


「開拓を行うのはこの3名だけという事で宜しいでしょうか?」


「はい、そうです。それぞれ土属性を含む各種属性の魔法使いですし、ゴーレム製作者も1名おりますので」


「なるほど、失礼しました」


 彼女はそう言って、そして事務作業モードに入る。

 どうやらこれを元に幾つか書類を作っているようだ。


「難しい書類を色々作る必要があって、担当者の方も大変なんですね」


 セレスの感想にリディナが頷く。


「此処はかなり丁寧に、そして厳密にやっている感じかな。こういった開拓事業では往々にして問題が起こるんだよ。開拓する気がない人がとりあえずという事で土地を確保したり、同じ組織が別の人を表に出して土地を何カ所も独占的に占有したりなんて。


 勿論そういった行為は規約や契約上の文面で出来ないようにはしているんだけれどね。でもそうなってからでは是正も困難になるから。それに実際に農作業につく人に土地の所有権を与えるようにしないと小作人の搾取なんて事も起こったりするし。


 その辺の問題が起こらないように丁寧に排除しているんだと思うよ。署名の本人鑑定等も魔道具を使ってやっているし」


 やっぱりリディナ、よく知っているしよく見ている。

 こういった事については一生追いつけないのだろうなあ、きっと。


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