第200話 南へ行くついでに
「行ってみたい。そう思ってるよね?」
またリディナに読まれてしまったようだ。でもまあいいか。私は頷く。
「手助けできるとは思わない。でもどんな場所かは見てみたい」
私はアイテムボックススキルを持っている以外は普通の冒険者だ。領主に対して手助けになる何かが出来るとは思えない。
それでもカレンさんが行く南の果ての場所へ行ってみたい。どんな場所なのか、私自身で確認したい。
「いいと思うよ。討伐の仕事も多そうだしね。勿論決めるのはセレスの意見を聞いてからだけれど。
元々、南に向かうのもそんな理由だったよね。南部は未開発の場所も多いから、討伐をしながらのんびり暮らすにはいいだろうって」
そう言われればそうだった気がする。
リディナと旅をはじめてからまだ1年も経っていない。というか、私がこの世界に来てようやく1年というところか。
たった1年なのに随分変わったなと思う。あの時はひっそり静かに生きて行ければいいと思っていた。それに比べると今の私は欲張りだ。
さて、カラバーラへ行くならそれなりに調べておこう。いつも道選びはリディナにお任せしてしまっている。しかし自分でもある程度は把握しておかないと。どんなルートでどんな街があるのか。
とりあえずここからの道のりを測ってみる。
遠いようで案外近い。ライ君なら3日で辿り着ける。街への立ち寄りを最小限にして、明るい時間を移動に徹すれば。
その気になれば2日でも何とか行けるかな。
なんて思ったら知っている気配をもう1人確認。勿論セレスだ。
「買い物終わりました。何を調べているんですか」
「ラツィオでお世話になったカレンさん、領地が決まったみたい。だからそこに行ってみようかなと思って」
「えっ、どこですか?」
「この記事で、場所は此処」
リディナが公報と地図をセレスに示す。
「一番端っこなんですね。これなら討伐の仕事も多そうです」
「そうだよね。あと特例措置で10年間、冒険者への褒賞金等のうち領主持ち分は国負担。つまり討伐しまくってもカレンさん達に負担はかからないから遠慮いらないし」
「でも柄の悪い冒険者とかが集まりませんか。少し心配です」
なるほど、そういう心配もある訳か。気づかなかった。そうなると正直ちょっと行くのが怖い。柄が悪い人間は苦手だ。魔物と違って討伐出来ないから。
「大丈夫だと思うよ。新しい街だからこそ最初の治安はしっかりやると思うし。それに柄が悪い冒険者は概して腕もいまいち。だから本当に魔獣を相手にするような場所には行かないと思う」
リディナの台詞で少し安心。
「なら行きたいです。南の方が暖かくて過ごしやすそうですから」
スティヴァレで特に寒さで苦労したというおぼえはない。でも確かに暖かい方が過ごしやすいだろうと私も思う。何となく、イメージで。
「ならもう少し調べて本も買って、それから出発かな」
「そうですね。それじゃ私も本を見てきます」
さて、それなら私も本を少しばかり購入しておこう。カラバーラの状況を考えると図書館が充実している可能性は低い。ならば買える場所で買っておかないと。
◇◇◇
今回購入した本は小説だけではない。むしろ各分野の専門書の方がずっと多い。充実した図書館にしばらく行けない。そんな可能性を各自が考えた結果だろう。
魔物関係、魔獣・動物関係、歴史関係が私の分。リディナが法律関係や財務関係、経理関係。そしてセレスが植物関係、農業関係。
「何かあった時にすぐ調べられるようにしておきたいからね」
「そうです。少し買いすぎた気もしますけれど」
「問題無い。財布は余裕」
何せ大きな討伐2件に鉱山の搬送改革、ゴーレム販売なんて続けてやった後だ。お金は冗談みたいにある。その気になれば3人で働かず暮らしても10年以上は余裕で暮らせる位に。
「まだバーリがあるから買い物もそこで出来ると思うけれどね。でも向こうへ行くならバーリまでは普通に行って、そこから先、元南部直轄領部分は少しゆっくり行こうか。開発がまだまだの分、魔物や魔獣が多そうだから。出来る限り討伐しながら行くという事で」
なるほど、確かにその方がいいだろう。ただ少し懸念がある。
「一方的に魔物や魔獣を殲滅した後、害獣が増えたりとか問題は出ない?」
「ある程度の変化はあると思う。でも、それでもやった方がいいんじゃないかな。一般の人が魔物や魔獣に出遭うと危ないから。
最初、アレティウム郊外のあの洞窟に住んでいた頃と同じようになると思うよ。魔物や魔獣を狩りまくったら最初はゴブリン、次に魔羚羊や角兎が増えたよね。
魔熊や魔狼は危険だけれど草食魔獣や群れではないゴブリンなら普通の冒険者や、武装して人数集めた村人でも倒せるでしょ。
それに南部は元々人が少ないから、一度魔物や魔獣を倒すとそれ以降、魔物や魔獣の発生は少なくなると思う。魔素は人口に応じて増えるとされているからね。
人口が少なければ余剰魔素の発生は少ないし、余剰魔素が少なければ魔物や魔獣は発生しにくくなる。
だから多少変化があっても、とにかく倒せる魔物や魔獣は倒して回収しておいた方が、今後の人の為にもなると思うんだ」
なるほど。
「理解した。バーリの先、元南部直轄領に入ったらそうする」
国が支払うならギルドに大量に持ち込んでも問題無い。狩って狩って狩り尽くす勢いでやろう。
「ところでフミノさん、移動しながら討伐する時って、どれくらいの範囲を把握しているんですか。確か
ふふふふふ。偵察魔法の範囲には自信がある。
「概ね自分中心に
「その範囲全部の魔物を相手にすると流石に大変じゃないですか。時間もかかると思います」
まあ確かにそうだな。
それにその範囲全部を同時に把握している訳では無い。
「
ただ、雲があるともう少し視点を低くする事になる。その時は範囲も狭くなる」
「とりあえずバーリまではお試しで行こうか。ライ君は私かセレスが操縦するから、フミノはどれくらいの範囲まで把握して討伐出来るか、試してみるという事で」
「わかった」
確かにそれもいいな。今の私は視点2つを使って同時に討伐が出来る。だから今までより更に広い範囲で多くの魔物を相手に出来る筈だ。
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