第149話 再会(2)

 気分よく金属素材を大量購入したのはいい。しかしそのおかげで財布がかなり軽くなった。もちろん宿代くらいは残っているけれども。


 しかしここは補充しておくべきだろう。万が一欲しい物があった時の為にもお金の余裕は必要だ。具体的には本とか図書とか書籍とか。全部同じか。


 それにリディナと別れてからまだ1時間も経っていない。なら寄っておくべきところがある。


「冒険者ギルドに行こう。褒賞金を受け取っておきたい」


 リディナがいなくても問題ない。パーティとして登録済みなので、ギルドでは特に申し出ない限りパーティ全体の実績として勘定してくれる。


「でもフミノさん、今ので疲れていませんか?」


「大丈夫」


 疲れはそれほど気にならない。金属素材を大量購入できた高揚感のおかげだ。


「わかりました。それじゃ道を聞いてきますね」


 この辺は私と違いセレスは優秀。あっさり道を聞いて私を案内してくれる。


「あの建物です。大丈夫そうですか?」


 偵察魔法で中を確認する。中はガラガラだ。周辺地域に魔物がいない為、冒険者の仕事が少ないせいだろう。


 どちらかというと冒険者相手というよりギルドの事務所的雰囲気もある。一応小さなカウンターがあるけれど事務所部分の方が広い。

 カウンター近くにいるのは受付嬢が2人と事務員1人。なお私が苦手な粗暴そうな人はいない。大丈夫だ。


「問題ない」


「なら行きましょうか」


 2人で冒険者ギルドの中へ。


「すみません。旅の途中で討伐した魔物等の褒賞金受け取りをしたいのですが、大丈夫でしょうか」


 これは勿論セレス。


「はい、こちらで受け付けております。どうぞおかけください」


 この辺からはいつもの通りだ。冒険者証と魔石、猪魔獣や鹿魔獣等の素材になるものを出していく。


 今考えるとわりと長い事冒険者ギルドに寄っていない。しかも魔物が多い山間部を通ったり、開拓村の周辺で討伐をしたりもした。だから在庫が山のように溜まってしまっている。


 自在袋偽装の鞄だのセレスの持っている普通の自在袋だのを使って誤魔化しつつ、出しまくる。


「……まだありますでしょうか?」


 受付嬢さんのこの台詞、5回目でやっとアイテムボックス内の在庫を出し終わった。

 だから私は大きく頷く。  

 

「ええ、これで終わりです」


「……わかりました。それでは計算して参ります。このまま少々お待ちください」


 何か今の台詞に微妙なタメを感じたのは気のせいだろうか。


 今回はアレティウムで最初にやったようにカウンターを血塗れにもしていない。最大容量の自在袋2つ分程度の魔物や魔獣、魔石を出しただけ。

 だから問題はないと思うけれど。


 その時だった。ふと知っている気配というか魔力を感じる。勿論リディナではない。これは……


「お久しぶりです。相変わらずですね」


 誰かはすぐにわかった。確かに知っている人だ。しかも怖くはない、むしろ信頼しても大丈夫な人だ。


 それでもとっさにどう返答していいか戸惑う。此処にいる彼女はあの頃の彼女とは違う肩書だろうから。


「緊張しなくても大丈夫ですよ。ここにいる私はあくまでギルド職員に過ぎませんから」


「フミノさんのお知合いですか」


 その通りなので頷いてはおく。ただ説明が難しい。どうしようか。そう思ったら先に彼女の方から口を開いた。


「ええ。私はカレンと申します。以前、ローラッテという街で冒険者ギルドのサブマスターをしている際、フミノさんやリディナさんにお世話になりました。現在はこちらの冒険者ギルドのギルドマスター代理をやっております」


「ご紹介ありがとうございます。私はセレスと申します。半月ほど前にフミノさん達のパーティに加えていただきました。どうぞよろしくお願いいたします」


 そう、カレンさんだ。

 ただカレンさんは別の肩書も持っている。そして私がそれを知っている事を知っている。

 だから『ここにいる私はあくまでギルド職員に過ぎませんから』なんて台詞も出てくる訳だ。


 なおステータス表示ではそっちの肩書は相変わらず見えないようになっている。


 その辺どうセレスに説明しようか。少し戸惑いつつ、私はカレンさんに簡単に挨拶する。


「お久しぶりです。お元気そうで」


 私は対人経験値に乏しい。だからそんな台詞しか思い浮かばない。


「リディナさんは今日は別行動でしょうか」


「ええ、旧友と話をしています。ミメイさんはお元気でしょうか」


「ええ。この街でも土属性魔法使いの仕事は結構ありますので、今日はそちらをやっています」


「いつこちらにいらしたのでしょうか」


 我ながら何とか会話が出来ているなと思う。

 これはきっと

  〇 相手がカレンさんである事

  〇 開拓団の聖堂でヴィラル司祭とある程度会話出来たという経験

  〇 今までリディナの会話を横で聞いていた経験

によるものだ。


 あとはセレスによる外見イメージチェンジによる強化も含まれているかもしれない。


「フミノさん達がアコチェーノを発った後、割とすぐですね。ご存知の通りの理由で少しばかりごたごたしまして。現在はこちらのギルドマスター代理という事になっております」


 つまりエールダリア教会の件が発表されて割とすぐラツィオに戻ったのか。

 そう思って思い出す。2回目にアコチェーノを出た後、国王家の紋章をつけた早馬とすれ違った事を。


 あの早馬がひょっとしてカレンさんを呼び戻す伝送使だったのだろうか。

 

「こちらで会えたのならちょうど良かったです。実はお話したい事が少々ありまして。本日の夜はもう宿をおとりになっていますでしょうか?」


「いいえ、まだです」


 何のお誘いだろう。ただ相手はカレンさんだ。


 本人は『此処にいる間はギルド職員』と言っている。

 しかし彼女は元々は王族。エールダリア教会により魔法適性がないという事で王族から一般籍へ下らされた今の国王の次女、元第二王女殿下。


 それがカレンさんが隠していた身分だ。

 この先に来る申し出は断った方がいいのか、断るべきではないのか。


「私が今いる家は現在、住人が私とミメイだけで客間が何部屋か余っています。夕食をご一緒しながら少しお話もしたいと思いますがいかがでしょうか。

 ミメイも来ることが出来る位の場所ですから、フミノさんでも問題はないと思います」


 ミメイさんが来ることが出来る位の場所か。それなら私でも問題はないだろうと思う。あの人も私と同じく対人恐怖症気味だし。


 それに相手は元王族なのだ。断るのは失礼でもあるだろう。


「わかりました。それではお願いしていいでしょうか」


「ええ。それでは少し遅いですが6の鐘を少し過ぎた頃、このギルドの前で待ち合わせではどうでしょうか。6の鐘でこちらのギルドは仕事が終わりになりますから」


「わかりました。よろしくお願いします」


 取り敢えず頭を下げておく。


 さて、それなら一刻も早くリディナと合流してこの件を話さなければならない。

 カレンさんの隠していた身分のことも含めて。

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