第45話 親切な説明
内容は運送依頼だ。区間はローラッテとアコチェーノの間。運送する物は鉄鉱石又は木炭となっている。
案内図によるとローラッテはアコチェーノから山ひとつ挟んで北側。直線距離では
場所的にはちょうどいい。リディナがこっちを見たので頷く。今の私なら搬送業務くらいは出来るだろう。相手が男の人でも対応はリディナに任せれば何とか大丈夫な筈だ。
「この依頼はどのような内容なのでしょうか」
「鉄鉱石から製鉄を行う際、木炭が必要なのはご存知でしょうか」
「ええ」
私もリディナも頷く。この国にはまだコークスなんてものは存在しない。だから鉄鉱石から酸素を取り除いて鉄にするには木炭を使用するのが普通だ。
「ローラッテでは良質な鉄鉱石を産出します。ですが製鉄の為に木炭を大量に生産した結果、周辺の森林が失われてしまいました。その結果水害等が多発するようになり、当時の領主は降爵の上左遷。新たに領主となったフェルマ伯爵により木材伐採禁止令が出されています」
なるほど。理屈はわかる。似たような事例を世界史で学んだような気もするし。
「一方、アコチェーノは木材の街です。特産のアコチェーノエンジュが生育しています。苗木状態から5年で高さ
そんなに成長が早いのか。それって危なくないのだろうか。後で調べてみよう。ボンヘー社スティヴァレ大百科事典に載っているだろうか。
「アコチェーノエンジュは2年目で間伐されます。間伐材は主に木炭として加工されます。つまりローラッテでは何より必要な木炭が山ひとつ南側のアコチェーノでは豊富にある訳です。
一方でアコチェーノエンジュは強度が高い木材ですので斧や大鋸等の道具類の消耗も激しい。良質の釘や各種金具等も必要になる。ですからアコチェーノでは鉄を常に必要としています」
なるほど。丁寧な説明のおかげで状況が理解できた。
「運送を冒険者が行う理由は何でしょうか」
「運送はザムラナ山系を横断する形になります。細くきつい山道、途中野宿を余儀なくされる距離。魔物や魔獣も出没します。
ですから冒険者に依頼する訳です」
なるほど、完全に理解した。
「運送褒賞金はローラッテへ木炭を届ける方向が木炭
確かに1トン以上の魔獣をここで出した。だからそうみられても仕方ない。そして実際はもっと運べる。そういう意味でもなかなか魅力的な依頼だ。
強いて言えば仕事を受ける際、男の人がいると怖いのが問題だけれども……
「この依頼はローラッテかアコチェーノの冒険者ギルドへ行けば受けられるのでしょうか」
「ええ、この依頼は現地のギルドで直接取り扱っています。ですので双方のギルドで受け渡しを行っております」
よし、ならギルドの受付嬢さんに頼めば大丈夫だろう。私が頷くのをリディナが確認した。
「ありがとうございます。此処からですとローラッテの方が近いでしょうか」
「そうですね。ここから南へ
「わかりました。どうも親切にありがとうございます」
「もし受けるつもりが少しでもあるなら紹介状を用意しましょうか。そうすれば向こうのギルドでも話が早いでしょう。
紹介状を受けたからと言って必ず受けなければならないという訳ではありません。受けない場合は焼き捨てていただければ結構です」
「お願いします」
「では書いて参りますね」
受付嬢さんは奥へと消える。
「親切」
「そうね。他の場所の仕事をこれだけ丁寧に説明してくれる事って滅多にないと思う」
リディナも同感のようだ。
受付嬢さんはわりとすぐ戻ってきた。封書を私達に渡す。
「こちらがこのギルドからの紹介状になります。これにはこのパーティが大量の魔獣を新鮮なまま持ち込んだ事、その事から討伐の実力はかなり高く、運送専門冒険者と同等以上の大容量自在袋を使っているだろうという事が記載してあります」
「本当にありがとうございます」
他の冒険者ギルド支部の仕事を紹介して貰った上、紹介状まで書いて貰ったのだ。しかも懇切丁寧な説明までして。せめてという事で丁寧にお辞儀をして、それから外へ出る。
「何か昨日大量に魔獣を持ち込んだの、あれでプラスになる事でもあるのかな。それとも紹介状を書くことでプラスになるのかな」
リディナがそんな事を言う。どうだろう。私はそんな営利っぽい感じは受けなかったけれど。
「単に親切だと思う。その方が気分がいい」
リディナはうんうんと頷いた。
「確かにフミノの言う通りね。それじゃテイクアウトの何かを買って、それから南へ行こうか」
「何が美味しいだろう」
「あ、ちょっと待っていて」
リディナがダッシュで今出たばかりの冒険者ギルドへ入っていく。何だろう。
出来れば1人で置いてきぼりにはして欲しくない。周囲の人が急に怖く感じる。冒険者ギルドへ入る人と少しでも近づかないよう、道の端へと逃げる。
リディナはすぐ戻ってきた。
「聞いてきた。この先の
なるほど、お勧めを聞いてきた訳か。
「それじゃ買ってくるね」
「お金は?」
「大丈夫、まだまだあるから」
今朝の買い物の時、リディナに
リディナは列に並ぶ。私は列全体が見えてかつ人の邪魔にならない隅で待つ。前後を他人に挟まれるなんてやっぱり怖いので。
誰かに声をかけられたら怖い。リディナ早く戻ってきてくれ。そう強く思う。リディナ無しではやっぱり私、対人恐怖症はあまり良くなっていない模様。
幸いお店の列は思ったよりスムーズに進んだ。それほど待たず怖い目にも合わずにリディナが大量に購入して戻ってくる。
「袋2つとも収納?」
リディナが袋を2つにわけていたので聞いてみる。
「ううん、この小さい方は別用途。大きい方だけ仕舞って」
言われた通りに仕舞うとリディナは歩き出す。これから向かうのとは逆方向だ。
「リディナ、そっちでいい?」
「ちょっとギルドに用事があって」
何だろう。
「それじゃ行ってくるね」
先程と同じようにギルドの近くで私は待つ。
リディナはすぐに戻ってきた。
「さっき説明してくれたお姉さんに何個か渡してきた。これ好きだって言っていたから」
なるほど。こういう感じにお礼をするなんて方法もあるのか。対人スキルが不足している私には思いつかない行動だ。
もちろんやろうと思っても今はまだ出来ない。でもいつか、リディナのように自然に出来るようになれればいいな。そう思う。
その前に対人恐怖症を何とかしなければならないけれど。
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