第7章 新しい家の為に ~フェルマ伯爵領・1~

第43話 新しい家建築の為に

 実は私、いいシーツ以外にも手に入れたいものがある。ちなみにそれはいい寝間着ではない。


 日本にいた時は寝る時もいつでも逃げ出せるよう、寝る時も外へ出ていける程度の服を着ていた。この世界に来た当初も藁ベッドだったので服を着ていた。


 それが変わったのはリディナと出会ったあの日、ちょっといい宿に泊まってからだ。


 あの宿、ベッドマットも布団もシーツもなかなかいい物を使っていた。そしてこの世界の服は頑丈な木綿。どう考えても肌触りは布団やシーツの方がいい。

 だからつい、下着だけで寝てしまったのだ。


 率直に言って非常に寝心地が良かった。だからつい最初の拠点、あの穴の個室に天蓋付き豪華ベッドを据え付けた後。その日の夜やってしまったのだ。下着無し全裸でそのまま布団に入るという行為を。


 解放感も寝心地も最高だった。以後、私は寝間着を必要としなくなった。だからこそ村ではいいシーツにこだわった訳だ。


 いや、シーツの話ではなかった。私が手に入れたいもの、それは家だ。頑丈な2階建てか3階建ての家。


 今の家は洞窟拠点と比べるとかなり狭い。何せ元が物置だった建物に風呂トイレ寝室2部屋リビングを押し込めている。


 しかし建坪を増やす訳にもいかない。その分樹木を収納したりして平地を作る必要があるからだ。


 だから建坪をそのままに上方向に居住空間を増やす。つまり2階建てか3階建ての家が欲しいと思った訳だ。


 もし広い家が出来れば風呂も広く出来る。リビングももっと広くなる。寝室で作業も出来るようになる。いいことづくめだ。


 しかし私にはそんなものを作れる腕はない。今の知識と腕ではせいぜい扉とか家の間仕切りを作るのが限度。

 だから専門家に頼む必要がある。


 夕食の後、リディナにこの件について相談してみた。


「この家は狭い。もっと広くて落ち着ける家を作りたい。でも私には家を作る能力はない。どうすればいいだろう」


「ならアコチェーノの街に向かおうか。この辺りの木材産業の中心地だから。木材も少し安いだろうし職人も多い筈よ」


 なるほど。早速地図帳でアコチェーノを確認する。東海岸から内陸に20離40km入った場所だ。


 いまいる場所はバマルケという街から1離2km南側の林。アンコンから南に20離40km程の場所だ。


 ここからアコチェーノへ行くにはまず海沿いに27離54km南へ進んでサンデロントという街へ出る。そこから川沿いに15離30km西がアコチェーノ。ゆっくり行って2泊3日の行程だ。


 でも行先を決める前に聞いておこう。


「他に行きたい場所は? もしくは海沿いから離れたくないとか」

「今のところとくに行きたい場所はないかな。こうやってフミノと一緒にあちこち行くのが楽しいしね」


 行先の件は問題ないという事か。しかし家を作るにはもう一つ問題がある。私とリディナ共通の趣味に関する事だ。


「家にお金を使うと本を買うお金が少なくなる」

「それはまた稼げば問題ないでしょ」


 うーん、いいのだろうか。何かリディナに甘えている気もするのだけれども。


「それにお家が広くなるのって楽しみじゃない。今だって不自由はないけれどね」


 その優しい言葉についつい甘えてしまうのだ。ただ甘えても大丈夫な人はこの世界に来る前はいなかった。だからついつい不安にもなったりもする訳で。


「ところでフミノ、どんな家にする予定なの。どうせフミノの事だから図を描いたりしているんでしょ」


 バレたか。確かに描いている。間取図も柱等の構造を描いた設計図も外観も。

 よし、この機会にリディナの意見を入れて作り直そう。私は間取図と外観を描いた図を出して説明をはじめる。


「部屋の配置はこんな感じ。1階はお風呂とトイレと倉庫……」


 ◇◇◇


 その後1時間以上リディナと案を練った結果、ほぼ完璧と言える図面が出来た。


「あとはこれがどれくらいで出来るかね。いくらくらいかかるんだろう」


 そう、問題は費用だ。そしてリディナがわからない事が私にわかる訳は無い。

 そんなもんで私は首を横に振る。


「わからない」

「今はいくらくらいあるんだっけ?」

正銀貨95枚95万円とちょっと」


 フィリロータで高価な天蚕製品を買いあさったせいでかなりお金を使ってしまった。大量に狩った魔狼を今日の昼に換金したおかげでそこそこの額はあるが、これだけではどう考えても……


「足りないよね、やっぱり」

 リディナの台詞に同意と頷く。


「明日から狩りまくる」

「しかないよね」

 私とリディナはうなずき合う。


「なら明日は一度バマルケに戻ろ。冒険者ギルドに聞けばどの辺が魔物や魔獣に困っているかわかるかもしれないし」

 

 確かにそうだなと思う。バマルケのギルドで今日の昼、大量の魔狼を換金した。だから女子2人パーティでも腕を疑われるという事は無いだろう。


「わかった」

「あと市場に寄って新鮮な魚も仕入れておこうよ。この前フミノが作ってくれた故郷の料理、あれ美味しかったし」


 これは海鮮丼の事だ。ただし酢飯はやはり上手く出来なかったので普通の白御飯の上に刺身を載せた。

 それに魚醤を薄めて香草を入れて煮立たせたものにホースラディッシュをおろしたのを加えたものをつけタレとした。


 私としては7割程度の出来。なのだがリディナは喜んで食べてくれた。


「次回はもう少し完成度を上げる」

「あれでも充分美味しかったと思うけれどね」


 寿司飯の海鮮丼が完成したら次はにぎり寿司に挑戦する予定だ。それが終わったら今度は天ぷらかな。

 毎回リディナに料理を作って貰うのは申し訳ない。だから私が出来る事も増やさないと。

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