異世界行ったら人間が俺だけだった件 ~最初の嫁はオークでしたっ~

べっこ餅

第1話

 俺は村上友也むらかみともや三十歳。

 気が付いたら森の中。

 記憶をたどると会社の仲間と飲み会をしてたところまでは覚えているんだが……。

 こりゃ完全にやらかしたな。

 財布もスマホも持ってない。

 鞄ごとどっかに置いてきてしまったらしいな。

 なんで飲み屋で飲んでてこんな自然豊かな森の中に居るんだよ……。

 しばらく酒は控えようかな……。

 

 あてもなくしばらく歩いていると「ドーンドーン」と大きな音が聞こえてきた。

 お、これは近くで工事でもしてるのかな?

 取り合えず音を頼りに進んでみるとするか。


 それにしてもどこまで来てしまったんだろう。

 見覚えのない木や植物だらけだ。

 酔ってたとはいえどうやったらこんな森に迷い込むのやら……。

 

 ふう、音がだんだん大きくなってきたな。

 とにかく工事現場の人に駅の方向を聞かないと。

 幸いポケットに電子マネーの残高が残ってる定期が入ってたから駅まで行けば何とかなるはず。

 

「うわっ!!!!!!!!!」


 音の先に熊と熊が争っているのが視界に入り思わず声を出して叫んでしまった。

 だが幸いこちらに気づいた様子はない。

  

 なんだよ、工事の音じゃなくて熊と熊が争ってる音だったのか……。

 さっさと遠くに逃げないとやべぇな。

 あれ……?……ん??

 よく見ると……熊と……豚?

 しかも豚の方はなんか武器と盾を持ってるし服も着てる。

 なんだ?

 映画の撮影か?

 いや、どう見ても周りには撮影機材もスタッフもいない。


 これは……ゆ、夢だな!

 どれ、ほっぺたをつまんで……痛たたた!!

 なに!

 夢なのに痛い!?

 夢じゃない……!?

 これは……もしかして異世界ってやつ!!!!????

 マジかよマジかよ!!

 いや、でもな、今はここから離れるのが先だ。

 二メートル近い熊と豚……オークかな、あいつらの戦いに巻き込まれたらひとたまりもないぞ……。

 とにかくこの状況を切り抜けてから考えよう。

 

 息遣いが聞こえる距離ではないが息を殺して後ずさっていく。

 その間も熊とオークの戦闘は激しさを増している。

 その光景から目を離さずに離れていった。

 

パキッパキッ


 後ろから小枝が折れるような音がする。

 熊とオークの戦いに集中してしまっていて自分の後ろは全く警戒していなかった。

 

『ゴアアアアアァァァ』

 

 振り返ると同時に咆哮が響く。

 オークと戦っている熊よりも一回りか二回り小さい熊が二本足で立っていた。

 つがいの熊か子熊かわからないが興奮状態である。

 どうやら大きな音につられてきたのは俺だけじゃなかったようだ。 

 頭の中が真っ白になってすぐに振り返って走り出す。


 あれ?

 熊に襲われたときは背中を見せて逃げちゃダメなんだっけ……。

 いや、もう遅い。

 振り返ると四本足で追って来ているようだ。

 もう一度振り返った時に木の根に躓いて無ざまにも前方に転がった。


 くっ、痛たたた……。

 後ろからは熊が追ってくる音。

 そして体を起こして頭をあげた瞬間、熊とオークがすぐそこで戦っているのが視界に入る。

 頭真っ白で駆けたが正面で熊とオークが居る事に頭が回っていなかった。

 

 オークを見上げるとオークもこちらを横目で見る。

 盾で熊を弾くと手に持っている斧をこっちに投げつけてきた。


『ゴアアアアアァァァ』


 斧は俺のすぐ横を通り過ぎて俺のことを追ってきた熊に命中して雄叫びをあげ一撃で倒れる。

 

 な!?

 助けてくれたのか??

 

 オークは斧を失って防戦一方、明らかに押されている。

 俺はすぐに斧を取りに熊の元に駆け寄った。

 急所に当たっているようでピクリとも動かない。 

 

「重てえ……」


 大きく重い斧を熊から抜き取り振り返る。


「ブゴゴゴゴッ!!」


 振り返った瞬間に目に入ったのはオークが左手の盾で右の爪を弾いたときにバランスを崩して左の爪で深々と切りつけられる場面だった。

 これは……。

 完全に俺を助けるために斧を手放したせいか、少なくともここにもう一匹熊を連れてきた俺の失態だ。

 このまま見捨てるわけにもいかないだろう。

 斧なんか持ったことが無いくせに斧を握りしめて熊の元に駆けていく。

 熊は俺のことは眼中にないのか振り向くく素振りも見せずにオークと対峙している。


「うおおおおおおおおおおお」 


 大きく斧を振り上げ熊めがけて振り下ろす。

 

ドスッ


 鈍い音を立てて熊の右肩に斧が当たり、熊の分厚い毛皮を薄っすらと切り裂いて血が滲む。

 だめだ、全然パワーが足りない。

 熊はやっと俺を敵と認識したのか俺の方に向きなおしてきた。

 オークは満身創痍、ふらつきながらも盾を握りなおして体制を立て直す。

 だが首は大きく切り裂かれて血が噴き出している。

 

 熊が大きく左手を振りかぶり俺に攻撃してくるようだ。

 熊も相当疲労しているのか動きは大きく遅い。

 振りかぶった瞬間にバックステップで後ろへと下がり熊の攻撃をかわすと同時に斧をオークの足元めがけて投げた。

 熊の左腕の攻撃が空を切り体制が大きく崩れる。

 

「ブゴオオォォォォ!」


ゴスッ! ドスンッ! ドスンッ!


 斧を受け取ったオークが熊の脳天に斧を振りかざして熊が倒れ、それを見届けたオークも力尽きたように倒れこむ。

 熊を倒したようだが俺を助けてくれたオークも倒れてしまった。

 助けようにも何をしていいかわからない。

 血の止まらない首に手をあててみるが傷の範囲が大きすぎて意味をなしていなかった。

 

「ブゴォ! ブゴゴゴ、ブゴブゴ……」


 最後に何か俺に語り掛けるようにう唸ってオークはその瞳を閉じた。

 ああ、なんてこった……。

 俺のせいでこのオークは死んでしまった。

 せめてもの償いにこのオークを仲間の元に届けるか墓を作ってやるべきか。

 そう思ってオークに触れるとオークの体が光になって俺の中に流れ込んできた。

 

奪取テイクオーバー完了』


 頭にイメージと音声が流れ、気が付くと俺はオークになっていた。

 どうやら俺は奪取テイクオーバーと言うスキルでオークを取り込んでしまったようだ。

 そのスキルでオークの身体的特徴や能力、断片的な記憶を引き継いでしまった。

 

 このオークの名前はヴァルド言うらしい。

 オークの言語も理解してしまったようだ。

 そしてヴァルドの最後に言った言葉の意味も理解できてしまっている。

 彼は最後にこう言った。


『妻のシルヴィアに、誓いを果たせずすまないと伝えてくれ』


 俺は迷わず思った。

 その言葉をシルヴィアに届けてあげるべきだと。

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