最終話:私はこういう人間
それから数ヶ月後。私は父の夢を叶えるために、ソロウェディングのプランを予約した。撮影日は父の誕生日になるように。
「お父さん。どう?似合ってる?」
「あぁ……今まで生きてきた中で一番の誕生日プレゼントだ」
「黒いウェディングドレスにするって聞いた時は絶対白の方が良いと思ったけど、案外黒も良いわね」
「私もブラックウェディングにすれば良かったなぁ」
「まぁ良いじゃん。今着てるんだし」
ソロウェディングというが、複数人で撮れるプランもあり、せっかくだからということで姉二人を誘った。雪姉はシンプルなAラインのドレス、晴姉はそれよりもスカートの膨らみが大きなプリンセスラインのドレス、そして細身な私は、スレンダーラインのドレスを選んだ。色は全員白ではなく黒。
ちなみに、晴姉の子供は夫の姉夫婦が面倒を見てくれているらしい。嫁姑問題とはよくいうが、姉達は夫の家族と円満な関係を築いているようだ。
「けどさぁ、なんで黒にしたの?」
「私には白より黒の方が似合うかと思って」
ちなみに、ウェディングドレスが白いのには『あなたの色に染まります』という意味があるらしい。これが黒になると『あなた以外の色に染まりません』となるそうだ。
私はアロマンティック・アセクシャルで、恋をしない。誰か一人の色に染まることはきっと無い。
花婿以外の色に染まらない。だけどその花婿の居ない、花嫁だけのウェディング。つまり、私が染まる色は無い。
私はこれからもきっと、誰の色にも染まらず、私色のまま、生涯を終える。
私はそんな決意を込めて黒いウェディングドレスを選んだのだけど、姉達にはちょっと恥ずかしくて言えなかった。
「それでは撮影の方に移らせてもらいます」
「「「よろしくお願いします」」」
一日かけて、何枚も写真を撮っていく。
撮った何十枚もの写真達から厳選して、アルバムを作成していく。
こうして、三人の花嫁とその両親の家族五人のアルバムが完成した。
家に帰り、撮った写真の中から選んだ一枚を写真立てに入れて玄関に飾る。そこに写る私は、アンドロイドなんて呼ばれていた人間とは思えないくらい良い笑顔をしていた。
数日後、家に遊びに来た月島さんと一条くんが写真を見つけてくれた。
「これ、愛沢さん?」
「ええ。真ん中が私」
「へぇ。ソロウェディングって複数人で撮れるんだ……」
「満ちゃん一緒に撮る?」
「なんでだよ。一人で撮れ」
「良いじゃん。愛沢さんも一緒にさ。三人で撮ろうよ」
「他の女とウェディングドレス着て並んだ写真とか、絶対燃やされるわボケ」
「良いじゃん。なんだかんだで満ちゃん、妬いてる実のこと好きでしょ?」
「いや、正直クソめんどくせぇ」
「とか言いながら別れないんだよね」
「側に居てくれと望む限りは居てやるって約束だからな。私から言い出したんだから、破るわけにはいかんだろ」
「愛ですなぁ」
「うるせぇなシスコン」
「満ちゃんだってブラコンじゃん」
「あんな天使居たらブラコンにもなるわ」
「まぁ、たしかに」
「弟に手出したら殺す」
「出さないってば」
二人の会話を聞いていると、思わず笑ってしまう。その姿を見て二人は「すっかり人間らしくなったね」と笑った。
私はアンドロイドではない。人間だ。
そう、彼らと同じ。周りとは少しだけ性質が違うだけの、ただの人間なのだ。
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