第24話 やっと最初の町からの旅立ち
野っ原の避難所ではみんな先行き不安そうな顔で炊き出しのスープを貰いモソモソと食べている。
ほとんどの町の人達が家を失い行く当てもない。けれどもそれはこの町の人々と領主や国がどうにかする問題だとセイは割り切っている。自分はここにずっと留まるわけでもない。むしろ、この町からすぐ去る予定の人間だ。その場の雰囲気で何かを中途半端に手助けする位なら、しない方が良いとセイは判断した。
「(生憎俺は聖女の様な心は持ち合わせてないからな。それに自分達が散々嫌がらせや悪口言った相手から施し貰うとか返って惨めだろうし。まぁ生きてるんだからどうにかなんだろ。)」
王都に行く事を伝える為に置いて行ったユリアナとマリアをアクス達と捜し回る。
「ーーーーっっ!?」
捜しているといきなり何かが体当たりして来た。ふわふわと優しい髪の生えた頭がぐりぐりと俺のお腹に押しつけられる。
「マリアただいま。怖くなかったか?大丈夫だったか?」
しゃがんでマリアの顔を見るとぽろぽろと涙を溢しながら、再び抱きついて来たので一旦シロを下ろしてマリアを抱き締め落ち着くまで背中を撫でる。周りを見渡すとユリアナは静かに立っていた。
「ユリアナただいま。ちゃんとマリアの事見ててくれたんだな。ありがとな」
「・・・遅いし」
「ーーえ?」
ユリアナはそっぽを向いてボソッと呟いた。戻ってきたらツンになっていたユリアナにどう返して良いのかセイは悩む。
「もーユリアナは素直じゃ無いんだからっ!!そんな言い方をしたら私くらいじゃ無いと言いたい事分からないよっ!!ーーユリアナはセイさんが無事で嬉しいって。」
「そっか、ユリアナ俺も2人が無事で嬉しいよ!シロも喜んでるよ」
シロが地面でガタガタ身体を揺らしている。犬の姿なら尻尾をぶん回しながらユリアナやマリアに飛びついていた事だろう。ユリアナは一瞬固まると何故かもじもじとしながら小さく頷いた。
照れ隠しなのかも知れない。意外と可愛い所もあるんだなぁとセイは背中を向けているユリアナを眺める。
「ユリアナは分かりにくいんだよ。俺は未だに分かんねーから、もうミラに感情を訳して貰ってる位だ」
話しているとギュッと背中の服が握られた。抱きしめていたマリアが潤んだ目で少し口を尖らせて見つめてくる。睫毛本当長いな・・・。え?何俺そっちの人間じゃ無いから。マリア美少女みたいな美少年だけども俺は形の良い双丘が好きです!!キリッ!!
「もうっ!!・・・僕すっごく心配したんだからねっ!!今度僕を置いていったら怒るよっ!」
ほんの少し前までぼろぼろに泣いていたのに、今は怒った後ぎゅっと大人しくしがみついている。アクスがヒロイン枠かと思っていたが、どっちかと言うとよく分からん感じはマリアがヒロイン枠って感じがするな・・・。どっちも男っつー残念な事には変わりない。そっちの気のある奴だったらマリア危ないだろ・・・。俺としてはマリアは猫っぽいって感じしか無いんだよなぁ。
「あぁ、うん。起きている時は置いていかないから。今回マリア寝てたじゃん」
「う・・・、いいもんっ!!次は絶対一緒だもん!!」
「つか、2人共今から俺ら全員王都に行くらしーぜ?用意するもんあんなら急いだ方が良いと思うけど、まぁ・・・商店ほとんど潰れてっから買えないけどな」
アクスに言われて確かに何も用意できなくないか?と今更気が付いた。
「本当だぁーーー先輩、流石ぁ♪」
「じゃあ手ぶら?」
「いや、王都に行く途中でどっかの町に寄るだろ?そん時買えば良いだろ」
「え?・・・王都?」
「マリアは行きたくないのか?」
「うん・・・」
マリアはよっぽど行きたくないのか、俺の服を握ったまま俯いてしまう。
「んー・・・まぁ今回の事件の事とランク変更手続きだけだし、俺達3人行けば良いか。それかどっかの町で待ってれば良いし。それかマリアとユリアナはここで留守番でも良いよ。帰ってくるまで大人しくしていろよ?」
セイはマリアの頭をよしよしと優しく撫で、そろそろギルド長の元に行こうとマリアを離そうとするとどこにこんな力があるんだという程の強い力で服を握りしめる手に力が込められる。
「ーーーーや、やだっっ!!置いていかないでっ!!僕も一緒が良いっ・・・ごめんなさいっ、ごめんなさいっ・・・!!セイさんっもうわがまま言わないから置いていかないでっ・・・ごめんなさいっっ」
急に何かが取り憑いたかの様に泣きながら謝り出したマリアにセイは戸惑った。
えっ??どうしたんだ!?俺そんなに悪い事言ったか!?え、ちょっとまじで泣き止んで!!周りの人達の目が痛いっ・・・。何がそんなに怖いんだ?よく分からんが、これじゃ周りから見れば俺が子供を泣かせている様にしか見えないし!!日本ならお巡りさん来ちゃいそうだよ!!
慌てたセイはマリアの後頭部に手を置き、自分の胸にマリアの顔を押し付けた。マリアは力のないセイでも壊してしまいそうな程華奢に感じる。マリアはセイの胸に頭を押し付けられて徐々に泣き止んできた。
んーー・・・なんか不安だけど俺らのパーティーに風当たり強かった町に置いていくのも心配だし、やっぱ連れて行った方が良いのかもな・・・。
「あ、あの・・・あんた達王都に行くんだって?今まで悪かったね・・・」
食堂の奥さんがセイ達に話しかけてきた。そうすると、座っていた多くの町の人達が立ち上がりぞろぞろとセイ達を囲う。
「俺もお前達に謝罪させてくれ・・・。今まで除け者にしたり、有る事無い事陰口を吹聴するのに加担したりして本当にすまなかったっ!!許して貰えるなんて思っちゃないが、お前達が俺らを変質者とフィレックスから助けてくれたのに謝罪も礼も言わずにいるのは嫌だったんだ・・・」
「私達の自己満足だってのは理解しているんです・・・。それをあなた方に付き合わせる事が愚かしい真似をしている事も・・・。本当にありがとうございます、そして・・・すみませんでしたっっ!!」
謝っているのはほとんどが中傷をしていた冒険者達で、食堂の奥さん以外にもフィレックス達の言葉を信じていた町の人達も謝罪していた。フィレックス達の言葉を信じていなかった者もいたが、結局『領主の息子』に目をつけられたく無くて一緒になって加担した者も勿論いた。
「あんたらがいくら今謝ってもマリア達が領主の息子のいるパーティーに罠にかけられて、仲間が殺された時にアイツらに乗っかって更にコイツらの心の傷を抉ったのはあんたらだって忘れないでくれ。二度と同じ様な事を繰り返さないでくれ」
全員が言い返せず言葉に詰まる。
そしてセイは一刻も早くこの場を後にしようと思っていた。
セイに4人の苦しみが伝わってきたからだ。「今更」という怒り、「あの時」という悲しみが渦を巻いて爆発しそうであった。このままここに留まり続けては、マリア達にも町の人達にも良くない結果を生み出すのではないかと考えた。
「ーーーじゃあ、俺らは行くから。行こうみんな!」
ーーーぱこんっっ!!!
「・・・あぁ、行こう!!セイ!!」
「そうね、早く行きましょう?」
「・・・うん!行く!!」
ミラは町の人達に向かって浅いお辞儀だけして町に背を向けた。
町の人達は俺達が馬車に乗って去るまでずっと見送っていた。
町の甚大な被害によって今いる町の人達は領主の息子がどんな人間であったか語る上でも、町の人達の命を救ったパーティーを語る上でもフィレックスのパーティーによって騙され殺されたエドワードさんの事も忘れずに語り継がなくてはいけなくなっただろう。
忘れられない事がせめてもの供養になればと、セイは自分の知らないもう1人のパーティーメンバーであるエドワードの安らかな眠りを静かに祈った。
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